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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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旅の始まりは鍋につまずく



 焦げた。

 目の前には、後は煮込むだけ!のはずのピカピカ新品の銅鍋があったはずだ。

 それが真っ黒に煤け、煙をあげた中身は溶岩のごとく真っ赤な熱泥と化してしまった。


 スーが口を半開きにしたまま、ショックの余りピクリとも動かない。


 クリスと別れを告げ、番認定をひっくり返しに行く旅の初っ端から何故こうなった。

 私に料理を振る舞おうと健気に野菜を切り、水を汲み、張り切ったスーが意気揚々と白い炎を吐き出したのが原因か。


 しかし、それは私を喜ばせようとしただけなのだ。解っている。


「スー?」


 くるり、と涙目になって腕の中に飛び込んできた小さなドラゴンはぐるぐると泣きながら嗚咽を漏らした。


(ち、違うのだ!こんな筈ではない!エリスに良いところを見せるために明け方まで寝ずに頑張ったのだ!なのに…!)


 悔しい気持ちはよく分かる。

 私も悔しい。

 後少しで食べれた筈の夕食は消し炭になった。

 エリスとて楽しみに待っていたのだ。

 しかし、もう戻らないことも事実として理解はしている。


 スーの背を撫でながら、高く輝く夜空を見上げた。


「スー。鍋がダメになってしまったから一度戻ろう。この焦げかたでは手の施しようがないと思うわ」


 スーの嘆きが余計に酷くなってしまった。


(わ、私に愛想をつかしたのか!?私は鍋同様、役立たずで厄介払いになるのか!?)


「そんなことしない。鍋を取り替えてもらうだけ。そうしたら、また旅を続けるから」


(本当か?一緒に長老のところへ行ってくれるのだな?)


「そうよ。だからもう泣かないで」


 よしよしと撫でる背が伸びて、甘えるように頬擦りしてきたので適当にあしらいつつ、鞄の中から他の食料を取り出す。

 パンは早めに食べろと言われている。

 チーズにハムも。あとはクリス手作りの各種惣菜。

 本来はここで食べるべきではないけれど、背に腹は変えられない。

 とっとと簡易竈を作り、火をおこす。

 少し物足りないけれど今夜はこれで我慢しよう。


 王宮の贅沢な食事に慣れてしまっていた自分を諌め、いただきます。


 明日はクリスの屋敷に一旦戻って、バトラーのおじいさんに鍋の後始末を頼もう。そして新しい鍋をもらうのだ。

 いささか間抜けな再出発だが仕方ない。


 旅の始まりの夜はスーの嘆きと共に更けていった。



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