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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
17/41

クリスの手紙




 エリスは夢見の悪さに若干腹を立てていた。

 つがいにならない限り、鏡の中から出てこないと我儘を言うスーフェニアルにも。


 エリスが夢の中にいた頃、クリスから手紙が届いていた。

 内容はこうだ。




§◆§◆§◆§◆§◆§◆


親愛なる女神へ


  ※緊急のため、貴女を称える詩は省略します。

 

 訓練場の泉に落ちたと聞きました。

 具合はどうですか?

 寒気や発熱などあるようなら遠慮せずに侍女に伝えて下さい。

 看病できる手筈は整えてあります。

 

 本当は僕が傍に行って容体を確認できれば良いのですが

 あいにく僕は会議と些末事に時間ばかり取られすぐに行けそうにありません。

 本当にごめんなさい。

 夕方になれば少しは時間が取れるので

 もし、貴女の体調が良ければ夕食を一緒に取りましょう。

 くれぐれも無理はしないで下さい。

 貴女に会うまでに、フレッドとアインを締め上げて仕事を片付けておきますね。



女神の世話係 クリス

 

§◆§◆§◆§◆§◆§◆ 



 エマから手紙を受け取り、早速読んだもののどこから突っ込めばいいのか分からない。

 女神ってなんだ。

 看病の手筈が整えてあるって、手際良すぎ。

 さらに最後の一文。

 閣下とアインを締め上げるってなんで?

 世話係は言いえて妙だけど。エリスは天井を仰いだ。

 エマに手紙を渡し、内容を確認してもらう。

 最初は王子殿下の手紙を侍女が読めないと拒否されたけれど、エリスの粘り強い説得に折れてそぉっと静かに読み、そぉっと閉じて返された。


「えーと、最初の女神って言うのは何?」


「貴族の間では、恋人の比喩ですわね。ありきたりで使い古された言い回しです」


 おや?

 ズバリと真顔で結構、辛口なエマだった。


「えー、次に称える詩を省略っていうのは?」


「これも貴族の間では慣例になっているものですわ。この詩のために詩人に依頼したり雇ったりする者もおりますのよ。まったく馬鹿げた習慣ですわ」


 あまりにズバっと言うエマに驚いていると、エマは両手を頬に当て、わたくしったら・・・と自分の言い過ぎを恥らった。

 可愛いから許される。


「今回の場合、緊急にエリス様の容体が知りたいということと殿下に時間がないという点から詩を省略されていますが、相手によっては無礼となる場合もございます。玄人の女性相手なら、詩を省略してまで心配をしてくれるのね、と感激されるでしょう」


 玄人って?

 目が点になっているエリスをおいてエマの解説は続いた。


「ですが、恋愛経験もないクリストフ殿下が相手ですから裏を読むといった技法はなく、ただの稚拙な言い訳に使われているものと推測できます」


 恋愛経験ゼロって、侍女にばれている時点でクリスが気の毒に思えてくる。

 そうか、王族はプライバシーなさそうだね。


「看病の手筈はわたくしどもが命令がくる以前に整えております」


 エマ、自信たっぷりで眩しいくらいだよ。


「最後の、閣下と騎士アインを締め上げるというのは・・・」


 エマが言い淀んだ。

 何か言いにくいのかな?


「これはわたくしの推測でしかないのですが」


 また頬に手を当てて恥らっている。これ、何度見ても可愛いんだけど。


「エリス様がクリストフ殿下の思い人という点から推測するに、閣下や騎士アインがいながら何故エリス様が泉へ飛び込むことになったのかを叱責あるいは怒りのあまり八つ当たりするという意味ではないかと」


 それはマズイ。泉に飛び込んだのはエリスの判断だし、閣下やアインに迷惑がかかるなら悠長にしていられない。


「エマ、悪いけど今すぐクリスに会えないかな・・・」


 承知いたしました、とエマは軽やかに微笑んでエリスには着替えを指示して部屋を出て行った。

 紅色のリボンを見送って、エリスは早速着替えた。騎士服に。



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