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冒険者(女)と主夫  作者: やよい
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久しぶり



 エリスが着替え終わったのを見計らったように、エマが戻ってきた。

 

「城に使いを送りましたので、参りましょう」


 エマにお礼を言って、エリスは屋敷の前に用意された馬車に乗り込んだ。

 一緒にエマとアメリアも乗り込んで馬車はテンポよく走りだした。


「すぐに着きますわ」


 エマがそっと声をかけてくれる。

 小さく笑って、エリスは城までのわずかな時間をお喋りに使うことにした。

 

「城に使いを送るって、どうやるの?」


 エマとアメリアが顔を見合わせた。


「エリス様ですからいいでしょう」


 エマが重々しく頷いた。

 アメリアが軽快に喋りだした。


「伝書鳥ですわエリス様」


「伝書・・鳥?ハトじゃなくて?」


 聞き返したエリスに、アメリアはこっくりと頷いて答えた。

 アメリアのグリーンのリボンがぴょこんと揺れた。


「鳥の種類まではお教えできませんが、色々な鳥の中から賢い個体を選んで訓練するのです。普段は執事や信頼された侍女が手紙を届けに行きますが、急ぎの時には鳥を使うことが許されていますの」


「へぇ、さっきの連絡も鳥に託したんだね」


「そうです。相手に声を送る魔法や物を送る魔法はありますが、それは魔術師でなければできませんでしょう?わたくしたちでも緊急の際に使えるようにと、王宮と屋敷には必ず鳥師が配置されておりますの」


 にこにこと無邪気な顔でエリスに王宮の情報を喋ってしまっているが大丈夫なのだろうか。

 不安になってエマを窺うと大丈夫、と力強く瞳で返された。

 エマが言うのだから大丈夫だろう。

 城が見えてきた。


「エリス様、わたくしたち城では無口で物静かな侍女になります。そのおつもりで」


 エマがそう教えてくれて、城の裏口あたりに馬車が止まった。

 今一つ、ガールズトークにはならなかったものの、先に降りた彼女たちに続いた。

 

 暫く先導されたまま石畳の小道を歩いた。裏口だろうか。緑の生垣が整えられてこじんまりとした庭の体をしている小道の両脇には野の花が今を盛りに瑞々しく咲き揺れている。

 ここに連れられた当初に見た城の正面の、堂々としたたたずまいに相応しい庭とは全く違った様相だった。


 ──────私にはこっちの庭の方が馴染みやすいな。


 揺れる花々を横目にエリスは自嘲気味に微笑んだ。

 そう、自分にはこういう野の花の方が相応しい。


「エリス様、バトラーが出迎えています。わたくし達はここでお待ちしておりますので彼についてお入り下さい」

 

 エマとアメリアは左右に退き、頭を下げて礼を取った。


「行ってくるね」


 エリスは二人の肩を優しく叩いて一人で歩き出した。

 低い生垣の向こうに、銀色の髪のお爺さんが見えた。

 きっちりと執事の服を着こなして背筋はピンと伸びている。彼はエリスと目が合うと、丁寧にお辞儀をした。

 彼の後ろには彫刻の施された艶々とした飴色の優美な扉があり、扉の両脇には騎士が控えていた。

 

 まだ距離のあるうちから頭を下げられ(しかも年配のお爺さんに!)エリスは慌てて走り寄った。


「ようこそいらせられました。バトラーのオルトンと申します。クリストフ殿下は私室でございます。どうぞこちらへ」


 言うとすっ、と身を起こしエリスを(いざな)う。優雅のお手本のようだった。

 エリスが後ろを振り返るとエマとアメリアは身を寄せ合うようにして立ち、また綺麗なお辞儀をした。


「あの二人はこちらの控えで待つよう、取り計らいますのでご心配なきよう」


 すかさずオルトンのフォローが入る。

 ありがとう、と言うと困ったような顔をして、バトラーとお呼び下さいと言われた。

 騎士が揃って両開きの扉を明けた。

 エリスが中に入ると彼は騎士の一人にエマとアメリアを控えに案内するよう言づけていた。


「クリストフ殿下は、ただいまモーリス閣下と騎士団員をお呼びして歓談中でございます。極秘事項などが漏れ聞こえましても守秘にご協力下さい」


 滑らかな大理石を思わせる床を進み、こちらも飴色に磨かれ光沢を放つ階段を上ってゆく。

 三階まで上ったところで、クリスの声が聞こえてきた。

 はっきりとは聞こえないが怒っているのは分かる。


「あの、歓談って・・・」


 エリスのかけた言葉にバトラーは微笑み、しぃっとひとさし指を口の前に立てた。

 そして声を抑えてこう言った。


「殿下が感情を露わにするのは大変珍しいことでございます。幼い頃から周りに迷惑をかけないようにと気遣いされるお子様でした。滅多に我儘もおっしゃらず、じいといたしましてはこんなに賢いお子様ではいつかどうにかなってしまうのではと心配しておりました」


 しみじみと語るバトラーの表情は優しく孫を思うものだった。


「それが二週間前にお帰りになられてからは、自分の意志を口になさいました。彼女と図書室に行きたいから大妃さまに連絡をとってほしい、彼女とティータイムをするから用意を頼む等どれも些細で微笑ましいご注文でございましたが、いやはや殿下は大きく変わられようとしているとこのじいには思えるのです」


 バトラーはその胸元に挿されていたポケットチーフを目元に当て、なにやら感動しているようだった。

 ぽかん、と聞いていたエリスは今の話のどこらへんに感動が混じっていたのか全くわからなかった。

 ただひとつ、このバトラーはクリスの小さい頃を知っていて彼を愛情深く見守っているのだな、ということ。


 でも、これはただの八つ当たりだよね、とは言い出せなかった。


 バトラーは礼儀正しく、失礼致しましたと言い置いてポケットチーフをしまいエリスをある一室の前に導いた。途端に聞こえる怒声。

 それにかまうことなく、コンコンと扉を叩き中の返事が聞こえる前に扉を開けた。

 そして素早くエリスを部屋の中へ押し込んだ。


「今は人を通すなと言っておい・・た・・・」


 クリスの怒声がしぼんでいく。

 きっとバトラーを睨みつけるクリス。そんな顔を見るのは初めてだった。


「バトラー!どういうことだ!」


「はて、最近耳が遠くなりまして」


 エリスが、このバトラー只者ではない!と思った瞬間だった。いたたまれない空気にエリスは意を決して口を開いた。


「ひさしぶり、クリス」

 


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