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035 制限時間 と 扉の罠

マジメに生産しているフワモさん。

 端っこの方から両手を使って、柔らかくなーれ! と念じつつラビの毛皮を揉んで行きます。

 グイグイと引っ張ってみたりしつつ、大体硬いところが無くなったかな? と思った所で手を止め、毛皮の端の方をつまんでハンカチの様にフリフリと振ってみます。


 うん、私の手の動きに合わせてフワフワリと棚引く柔らかな毛皮。

 乾燥直後のスルメっぷりとは程遠い、非常にいい感じの柔らかさが出ていますね。

 毛の部分の手触りも良好です。


 これなら、直接肌に触れるような部分に装備する品物の材料として使っても、全く問題ないでしょう。


 硬さが残っていると、肌に当たった時にガリガリと擦れて痛いですからね。


 では時間も少ない事ですし、手を止めずに残りの乾燥毛皮もドンドン揉み解して参りましょう。しかし何だかこの作業をしていると、副作用でマッサージが上手になりそうな気がしますね。

 実際は気のせいだとは思いますけれど。もみもみ。


 あとこの行動。何か他のモノを思い出すというか何と言うか……なんだっけ?


 ……あーあれだ! 宅急便とかの荷物に緩衝材として入ってるプチプチする奴だ!

 アレをこう、手持ち無沙汰な時に、特に何も考えないで揉みつつプチプチッとしている気持ちに似てる。アレなら得意ですよ。


 などと相変わらず関係ない事を考えつつも、順調に滞りなく作業工程が進んで行きます。

 うんうん、スキルとシステムの恩恵は偉大なのであった。


 3枚目の毛皮を大体揉み終わった辺りで、テーブルの上に置いてあった識別札から、ピピピピッと制限時間が少ない事をお知らせするアラーム音が鳴りました。


 ぬわぁー! 折角いい感じで作業進んでいたのに、ついに制限時間がっ!


 と思って焦っていたら、ほぼ同時にピロリン♪ と例の練習クエストが完了した時に鳴る音が。

 3枚目のなめし革が完成の判定に持ち込めるくらいになったのかな?

 まだ硬いところが微妙に残っているけれど。もみもみ。


 仕方ない、退出をお知らせするアラームも鳴ってしまいましたし、練習クエストの内容だけでも確認してスペースを出る準備をしましょう。


 毛皮をテーブルへ置くと、目の前に表示されたクエストメニューを確認いたします。


====================================

 練習クエスト 【革細工】 その3


 クリア条件 ※ なめしたラビの毛皮でポーチを作る ※


 無事に3枚のラビの毛皮を【なめした ラビの毛皮】にする事が出来ましたね。


 では、その【なめした ラビの毛皮】を使用して【魔法のポーチ】を作成してみましょう!

 【魔法のポーチ】は設定したアイテムを素早く取り出す事の出来る、とても便利な装備品です。


 詳しい作成方法は【革細工】を行使し、メニューから【魔法のポーチ】を選択すると表示されます。


====================================


 やった! 遂に【革細工】を取った目的である【魔法のポーチ】を作る事を指示されましたよ!

 此処までの道のりはとても長かった。


 寄り道しすぎた私のせいの様な気もしますが。

 そこは気にしないで頂きたいのです。見て見ぬ振りで。


 いやー目標到達の嬉しさに、思わず目頭が熱く。ホロリと涙ですね。


 しかし、そんな私の心理状況などお構い無しに、識別札から1分置きに急かすようなタイミングで、ピピピピッとアラームが鳴るのであった。

 そう、非情にも識別札から表示されているパネルの制限時間は、モリモリと減っていくのです。至極当然といえば当然ですけど。


 仕方がありません。【魔法のポーチ】を作るのはまた今度ですね。


 さて、残り時間が全部なくなる前に、急いでテーブルの上を片付けなければいけません。


 なめし革作成作業で使用した【初心者用革細工キット】を、どんどんアイテムボックスへと収納します。ポーションの時のように割れそうなガラス製品が見当たらないのが非常に助かります。


 こういう作業に使うキット類は、アイテムボックスから取り出す時には全部一気に取り出せるけれど、仕舞う時はバラバラに収納なのがちょっと面倒ですよね。


 どれか一個だけパーツで紛失したりした場合はどうなるんだろうか。

 機能不全でキット自体使用不能になるのかな。うん、忘れ物には気をつけよう。


 ああ、薬草採取のときに思いついた、布の袋か何かにまとめて全部入れてから、アイテムボックスへ収納したりすれば良いのかな。

 なんの機能も付いていない様な布の袋なら、恐らくたいした値段はしないでしょうから、一回試してみても良いですけれども。


 袋に入れてガチャガチャ動かしたら、壊れやすい機材が破損したり、小さい物が紛失したりしそうで少々不安がありますね。ううむ。


 などと色々考えつつも、滞りなくお片づけは完了いたしました。無駄に平行思考。


 忘れ物は無いかなー? 念のため周りをざっと見回してチェックしてみましたが、問題無いようですね。

 【識別札257】をポケットに収納して、いまだ揉み終わっていない4枚目のカチカチ毛皮と、光茶の入っていたカラのコップを手に、椅子から立ち上がります。


 と、このタイミングで制限時間が0になってしまったようです。

 ピピピピッとお尻の辺りから6度目のアラームが鳴ると、透明なメニュー板が出現しました。どれどれ?


 『スペース内の全機材がロックされました 使用時間を延長しますか?  はい  いいえ』


 あっ! やっぱり延長できるんだ!? でもお片づけも済んでしまいましたし、一体幾ら掛かるのかちょっと不安なので止めておきましょうか。延長も1時間区切りなのだろうか。


 とりあえず『いいえ』を選択しておきましょう。


 延長の選択を終了させると、ピロン♪ という可愛い音が鳴ってメニュー板の表示が切り替わりました。


 『ありがとうございました またのご利用をお待ちしております』


 いえいえ、此方こそありがとうございました。中々に有用な施設だという事が良く判りましたよ。

 誰もいないのに思わずペコペコと頭を下げてしまいました。


 電話の向こうの方に頭を下げる的な。


 1時間もの間、お世話になった257部屋にぐるりと視線を巡らせて、とくに扱いのヒドイ飲みすぎ魚くんにはしっかりとエールを送っておきましょう。

 水関連の施設や機材は、魚モチーフなのがお決まりなのでしょうかね。陸の上でも頑張ってね。


 さて、ドアを開けようと思ったのですが、またもや両手が塞がっておりますね。

 えーと、ひとまず硬いままのラビの毛皮は、尻尾の上にでも置いて保持しておこう。よいしょっと。


 そうそう、この自前のふわふわ尻尾なのですが。


 いつの間に出来るようになったのかは判らないのですが、ぐりぐりと自在に動かすといった様な事はいまだ無理ですけれど、勝手に動かさないようにする位ならば、尻尾にある程度の意識を向けておけば可能になっていました。


 激しい戦闘を通じて、色々と身体を動かしたりしたから馴染んできたのだろうか? うーん。

 自由自在にフサフサーと動かせるようになる日は来るのだろうか。来て欲しい。


 おっと危ない、そんな事を考えていたら、また無意識の内に尻尾を動かしそうになった。

 油断せずに気をつけて移動せねば。


 最後の4枚目の毛皮、まだ揉んで柔らかくしてないですからね。

 折角ならきっちり4枚とも終わらせてから仕舞いたいです。うん。


 保持しているアイテムに気をつけつつ、左手でドアノブを捻って外へ出ると、背後でスッと自動でドアが動いて閉まります。

 キン! という聞き覚えのある音とともにドアがロックされました。

 このドアも特に仕掛けがあるようにも見えないんですけれど、勝手に動くんですよね。


 次回来たとき挟まれないようにしないとね。などと思いつつ周りを見回しながら、何となく左手でドアの表面を触ったら、ピロン♪ という音とともに透明な表示板が出現。


 『257 空きスペース』


 という表示が出ております。なるほど、現在使われているかどうか等のインフォメーション的な物が表示されるんですね……

 んん? という事は私が中に入って作業している時は『フワモ 使用中』とか表示されるのでしょうか。何となく恥ずかしい感じですね、うん。


 おっと、余りゆっくりとしていたら、延長料金を請求されてしまうかもしれません。

 流石にそこまで、厳密に料金の区切りを入れているような気はしませんけれど。


 でも絶対ないとも言い切れませんね。私の知識では可能性を否定できませぬ。

 ウロウロしていないで、さっさと出口へ向かいましょう。


 ついでにフリードリンクの所に寄り道して、ちゃんとコップも片付けました。


 尻尾で持っていた4枚目の毛皮を歩きながら揉みつつ、一番最初に使用した入り口の扉まで無事戻りますと、生産スペースから退出するべく、扉のドアノブを捻ります……捻ります……うん?


 あれぇ? いくらガチャガチャやってもドアノブが全く回りません……


 ええ!? ちょ、まさか閉じ込められたんですか!? 制限時間は命の時間ですか!?

 そこのところ詳しく聞いてないですよ受付のお姉さーん!?


 焦りつつも、試しにポケットから識別札を取り出してドアに当ててみました。

 が、全くもって反応がありません。ぐおおおお一体どうなっているんですか。


 これは安寧の女神様に祈りを捧げつつ、此処で自害して果てる以外方法は無いのでしょうか。


 初の【死に戻り】使用が『生産スペースからの脱出』とか嫌だー!


 ガチャリ、と唐突に開く目の前のドア。思わずビクッっと反応してしましました。

 半泣き状態で扉の前で床に突っ伏していた私の視線に、どなたかの足に装着されたブーツが映ります。あれ!? 扉あいてる? じゃない、こんな所で突っ伏してたら通行の邪魔になる!


「あっ! どうしました? 大丈夫ですか? どこか具合でも?」

「あっあのっ大丈夫です! 退出しようと思ったら扉があかなくて、その」


 起き上がろうとした矢先、扉を開けてスペースに入ってこられたプレイヤーさんが、素早い動きで突っ伏している私に小走りで近寄ってきて、私の肩を支えつつ声をかけて下さいました。

 事情を説明しつつ身を起こします。ううぅご迷惑お掛けします……


 顔を上げて正面に立っていらっしゃるプレイヤーさんを見ると、黒髪の女性の方でした。

 ぱっと見た感じでは、私より年上の方っぽいです。


「ああ! 初めてだと判りづらいよねー出口! ほらほらあっち、左の方にもう一つ扉があるでしょ」


 黒髪の女性が、指を挿して説明して下さいました。

 フリードリンクのスペースがある方向とは逆の場所ですね。確かに扉がもう一つ。


「あ……向こうにも同じ作りの扉があります!」

「うん、あっちが出口用なんだって! 近寄ってみると『出口』ってちゃんと書いてあるんだけど、最初は判らないわよねー」


 ぐはぁ!? 何ですかその罠は!?


 あっ! 開きっぱなしになってる入り口の扉の向こうで、例の受付のお姉さんが微笑んでいらっしゃる!

 まさか退出時までがセットの罠だったのか!? うぐぐ!

ちなみにスペースからの退出方法は、受付嬢に質問すればきっちり教えてくれます。

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