036 受付嬢 と 夕暮れの町
※ 祝 ※
遂にプレイ一日目終了か(36話
「わざわざ教えていただいて、どうもありがとうございます」
「いえいえー! それじゃ私も生産スキルのレベル上げしないといけないから行くね! バイバイ!」
床に突っ伏していた私が立ち上がるのに手を貸してくれた黒髪のお姉さんは、にこやかに顔の横で両手を振ると、個室生産スペースが広がっている方向へと歩いていかれました。
どうもありがとう黒髪のお姉さん。この駆け出し生産職フワモ、受けたご恩は決して忘れませぬ。
生産スキルのレベル上げ頑張って下さい。
それにしても、何故にレンタルを受付したときに入り口と出口が別の場所にある、と教えてくれなかったのでしょうかね、受付のお姉さん。
私が生産スペースの使い方について、詳しくお話を聞かなかったのも悪いのでしょうけれど。
ちょっと位は連想できるヒント的なモノが有っても、良かったのでは無かろうかと。
まぁ、あの時は後ろに他のプレイヤーさん達が列をなして待っておられましたので、余り時間を取るわけにも行かなかったという理由もあるのですけれど。
取り合えず、此処から生きて外へ出られる事が判ったのは幸いです。
無駄に絶望感を味わってしまいましたよ。疲労困憊。
さて、何時までもこのような所でグズグズしている訳には行きません。
このVRゲームを始めて大分時間が経ってしまっていますし、そろそろゲームを終了させて、現実で晩ご飯を食べなければなりません。
色々と出来る事が多いのが楽しくて、ついつい長時間プレイしてしまいましたね。
睡眠時間に影響が出てしまってはいけません。時間はシッカリと気を付けなければ。
左手に握り締めていた4枚目の毛皮をアイテムボックスに仕舞うと、教えられた出口の扉へと足を向けます。ちょっと意識して探せばすぐ見つかるような所にあるのですよね。
でも、入ってきた扉があるのですから、帰るときも来た道を引き返して最初の扉に向かうのが普通ですよね……あらかじめ出口専用の扉が他にあるよ、って教わっていなかったら私のようになるのは当然ではなかろうか。
うん、きっとそう。私が迂闊すぎるとかではないはず。
この事案は運営様にメッセージでも送って、もっと出口と入り口の位置を判りやすくするようにお願いしないとね。
出口方面へと歩いていくと、位置的には大体このホールの中央より少々扉側に位置するスペースに、四角いテーブルと椅子が幾つか設置されております。簡単な作りの休憩所のような場所ですね。
ああ、フリードリンクの飲み物を自分のスペースまで持っていかなくても、ココで座って飲んでいく事も出来ますね。そうしていたら私も出口専用扉の存在に気が付けたかも知れません。後の祭りですが。
休憩所スペースを通り過ぎると念願の出口の扉へ到着。
言われたとおり扉の上の案内板に、丸っこい字で『こちら大部屋スペース出口』と書いてあります。
正面に立てば確実にココが出口だと判りますね。うむ。
私の頂いた識別札の番号が500番以降だったら、入り口から此方の方へ移動する事になっていた筈ですので、流れでここにある出口の存在に気が付けたのでしょうけれど。
背後を見回すとスペース番号550番でした。
奥を確認すると600番まであるようですね。
この辺りも人が動き回ってるようなので大盛況のようです。
生産職仲間ですね。皆さん頑張れファイト。無事に脱出できる事をお祈りいたしますよ。
では早速この場所を退出しましょう。ちゃんとドアノブが回ってくれる事を祈りつつ扉に手を伸ばします。すると何度か聞いた例のキン! という金属音がしました。
恐らく扉のロックが外れた音ですね。ドアノブは問題なく回りましたので、扉を押し開けます。
見える風景はスペース入場の手続きをした場所と変わっていない……うん!?
受付のお姉さん達が先ほどと違う人になっております。
あれー? また不思議なパワーか何かでどこか違う場所にでも飛ばされたとか、そういう事ですか?
原理は良く判りませんが扉を開けるとそこは別世界、という設定にはある程度慣れたので、何とか焦らずに扉を閉めて受付のカウンターに視線を向けます。
見た目的にはさっき入場受付でお金を払ったカウンターとそっくりなのですが。
辺りを見回して確認してみると、位置的に先ほど売店が設置されていたと思われる場所は、休憩や待ち合わせ等に使用する場所のようで、テーブルとソファが幾つか設置してあります。
施設の出入り口があったと記憶している場所は壁になっています。一体ココは何処なのだろう?
まぁ、このポケットに入れっぱなしになっている識別札は、返却しないと多分まずいでしょうし、長々と考えるのは止めてカウンターへ歩み寄ります。
入場の時とは違って、全く人の列が出来ていませんね。
そりゃそうですよね、ココまで着たら恐らくこの識別札を返却して帰るだけだろうし。
独断と偏見で、向かって一番右にいる獣耳のお姉さんへ声を掛けてみましょう。お耳ふさふさ。
お姉さんは何の獣人さんだろうか。ぱっと見は犬の様な。
でも狼の獣人とかも存在しそうです。うーん気になる。
「あの! えーと! 私の顔に何か付いてますでしょうか?」
受付のお姉さんが首をチョコンと傾げつつ、私に声を掛けてきました。現在の私は傍から見ると、じりじりとカウンターに近寄りつつ、受付のお姉さんを凝視する怪しい人物です……やらかした。
大変失礼な事を! ちょっと色々気になっただけなんです!?
「あっいえ!? そんな事ナイデス」
「あの、もしかして識別札のご返却、でしょうか?」
「あ、はいそうです!」
思わず両手を正面に突き出してブンブン振りつつ、否定の言葉を吐き出していますと。
なんと向こうから識別札の返却を提示していただきました。
うう、何やら気を使ってもらえたようです。テキパキ物事を進められず、どうもスミマセン。
でも予想通り、この識別札はお返ししないと駄目な物の様ですね。
作りとかキッチリしていますし、使い捨てるには少々勿体無い感じですもの。
あまりお待たせしてはいけない、と急いで左手でポケットから五角形の金属板を取り出し、カウンターへパチリと置きます。
受付のお姉さんは金属板をつまみあげると、例のカード読み込み用っぽい小さな黒い機械にペタリとセットしました。
数秒後、どういう仕組みなのかは判りませんが識別札が光になって消失します。
一体何処に消えたのだろう。使いまわしているようですし、恐らくは入場の手続きをしているカウンターに飛んでいったのかな?
「【識別札257】返却確認完了致しました! 生産スペースのご利用ありがとうございます! またのご利用をお待ちしております!」
「はい、では失礼します!」
このお姉さん、ハキハキとしていて凄い元気だ。私もちょっと元気出てきたぞ!
お姉さんが何の獣人なのかは今だ気になってはいますが、唐突に聞いたりするのは失礼かもしれないし、ココは我慢してそのまま退出しましょう。
と思ってカウンター前から離れようと思ったのですが。
建物から出るにはどっちに行けば良いのか判らない事に気が付きました。しょんぼり。
うん、先ほどの『出口見つからない事件』に対する失敗を鑑みて、ここはカウンターに戻って受付のお姉さんに聞いてみる事にしましょう。同じ轍を踏みはしません!
「あの、たびたび申し訳ありません。今回始めてここを使ったのですが、建物の出口へ向かうにはどちらに行けば良いのでしょう?」
「はい、出口はそちら、扉がある壁伝いにあちら奥のほうへ進んでいただければ、最初の入場手続きをしたカウンター前へ出ますので!」
受付のお姉さんは説明しながら、左手を扉のある壁の方へ向けて、ぐるっと回り込ませるような感じで動かしました。
ああ、このカウンターと最初のカウンターって背中合わせ? っぽい配置なのか。
建物内部の構造的に、上から見たら『 回 』みたいな感じの形だろうね。中の□の上と下にカウンターがある形状で間違い無さそう。
「判りました、どうもありがとうございます! それでは失礼しますー!」
「いえいえ! どうぞお気をつけてお帰り下さいませ!」
ヒラヒラと受付のお姉さんが笑顔で手を振りつつ、私を送り出してくれました。
先ほどは失礼な事をしてしまったと言うのに、何と言う寛大な心の持ち主様でしょうか。
もう人様をジロジロと不躾に見回すような事をしない様、しっかり気を付けなければ。
でも、どうしても気になるときは気になっちゃうんです。ジレンマ。
教わった通りに扉のある壁を伝って奥へ進むと、見覚えのある売店の横に到着しました。
ああ、やっぱりこういう風に繋がってるんだね。把握したぞー!
売店横を通り抜けて、無事建物の外へと脱出する事ができました。ああ、初めての生産スペース活動は無駄に大冒険だった。でも便利だった。得た物は大きい。思わず深呼吸しつつ両手を上に上げて伸びをします。
特に身体が固まったりはしていないんですけれど。まぁ気分の問題です。
そして大方の予想通り、日が傾いてきて茜色にそまっている空。綺麗です。
暫くすると夜になってしまいますね。という事は大体6時間は経っているのではなかろうか。
今日のゲームプレイはココまでですね。ログアウトしたら深夜0時過ぎているのでは……
睡眠時間がマズイ事になってしまう! でも満足!




