8.幸せ
忙しいロランさんは、中々家に帰ってきません。
「専属騎士さんですか。」
聞いたことの無い名称だ。リュカはすっかり、ロランは警邏の方だとばっかり思っていた。犯罪の捜査をしているのだとばかり・・・。
「正式には、フェルディナンド王子殿下付き専属護衛騎士。です。」
「はぁ。」
すいません。長い。もう忘れました。
リュカは曖昧に頷いておく。ウィルさんを失望させたくないので。
この屋敷には、侍女の統括役がいないので、執事のウィルさんが直々に事細かく屋敷のしきたりを教えてくれ、かっこいいおじさんとの掃除しながらの勉強時間は楽しくて、世話をかけているのが申し訳ないくらいです。
人生最大の良運じゃないかと思う。真面目にしてきた恩恵か?とリュカはますます元気に働いていた。
なんといってもこの仕事は給金がよい。前の三つの掛け持ちの時よりもいいのだ。ほくほくで、毎日笑顔が自然にでる。新参者に対する古株の侍女たちの嫌味もお給金の前では、些細なことだ。水仕事や庭掃除を押し付けられているにも関わらず、まったく気づかぬまま鼻歌とか歌いながら仕事するリュカ。
執事のウィルは気付いて他の侍女を諌めるのだが、リュカが、ローランド様に特に親しくしてもらっている。という事に感づいている侍女たちのやっかみは収まりそうにない。
(ローランド様に言っても、リュカに対する態度は改まらないだろうな。)
彼は仕事上で知り合ったリュカに、騎士らしい彼特有の、守護してやらなければという義務感を感じている。リュカが幼く見えるのでよけいだろう。
ウィルドレッドはため息をつきながらも、楽しそうに押し付けられた仕事をこまごまこなすリュカを見た。あの子が笑っている内は、注意程度にしておこうか。
あー幸せ。私の悪運もやっと払われたのだ!わはは。
「リュカ。」
今日も楽しく、幸せのエンドレス庭掃除をしている時に声をかけられた。
「はい。お帰りなさい、ませ。なんでしょう。ローランド様。」
久しぶりに顔を見たロランは一瞬黙って、眉間にしわを寄せた。
「それは、止めてくれ。」
「それ?」
「ロランでいい。」
私使用人ですよ?とリュカが首を傾げる。
「突然呼び方を変えられると気持ち悪い。」
何ですか気持ち悪いって。失礼な。
「変わりはないか?」
ロランは忙しいだろうに、時々帰ってきてはリュカの様子を気にしてくれる。優しい人なんだなと、ほっこりするリュカにロランはいつも申し訳なさそうな顔をする。
自分の秘密を知っているこの娘を、屋敷の外に出すわけにはいかない。そんな後ろ暗い気持ちがあるのも知らずに、リュカは気遣うと嬉しそうな顔をする。解りやすいこの少女を騙しているような気になって、また何度も尋ねるのだ。「変わりはないか?何か困ったことは?」と、そしてその言葉にも裏がある。リュカの動向を見張るという。
「皆さんいい人です。概ね。」
「そうか。」
「ロランさん。」
「ん?」
「休日のシフトはどうなっているんでしょう?」
ロランの気配が硬くなった気がする。
「お仕事頂いておいて、失礼かと思うのですが、自分の日用品も買い足したいので、休日が欲しいのですが。」
この屋敷では色々な物を与えてくれるとはいえ、やっぱりお買い物は女子の楽しみ。たまには外に行きたい。ロランさんはかなり黙ってから口を開いた。
「分かった。」
「いえ、いつ貰えるものなのかと・・・。」
「来週末に。私の休日があるから一緒に行こう。」
「いえ。」
一人で行きたいのですが?なんでついて来ようとするの?
「ひとりで~・・。」
「リュカ。荷物持ちはいた方が良い。君はチビだからな。」
爽やかに笑ったロランは、もう何も聞かないと身体で表すように手を振って、屋敷の中へと戻って行った。
「一人がいいんですってば~。」
リュカはこっそり誰にも聞こえないように言った。




