解決編 綾瀬真
週明けの月曜日。
雨は依然降り続いているが、朝見てきた天気予報によると夕方からはこの地域も晴れ間が見えるとか見えないとか。
まあ所詮は予報だからどうなるかわからないが。
そして、そんなことはどうでもいいのだ。
僕はまたもや小鳥を先に一人で帰らして、屋上の階段で人を待っていた。
本当にごめん小鳥。
でも、今日はどうしても外せない用事があるのだ。
この事件……やはり小鳥は巻き込まなくて正解であった。
勇さんはここまでのことがわかって、小鳥をこの事件から外したのであろうか。
そうかもしれないし、違うかもしれない。
僕以上に、勇さんは自分を見せない人であるから、答えなんてわかりはしない。
かつん。かつん。
階段を上がる音が聞こえる。
さて、僕も気持ちを切り替えるか。
小鳥のこととか、この先のこととか、テストのこととか全てを忘れて……僕は犯人と対することにした。
眼鏡を外す。
僕は眼鏡を外すと人の殺意が視える。うんざりするほど視える。
今回の事件の犯人は非常に巧妙な殺意をしていた。
その殺意と同じように、巧妙に事件を隠した。
だが、その巧妙さが命取りになったのだ。
かつん。
どんなことでもやりすぎは注意という話。
「綾瀬君?」
階下から女の子の声。
やっとおでましだ。
「やあ、ごめんね。急に呼び出したりして」
「構わないけど……用って何?」
「その前にさ……実は僕って女の子に手紙を送ったの、初めてなんだよね」
「え?そうなの?」
「そうなのです。だからさ、文面とかちょっと気にしていたんだけど、変じゃなかった?」
「んとね……そんなに変な文章はなかったと思う」
「そうか。それならいいけど……」
「小宮山さんには手紙を出したことないの?」
「ないね。僕と小鳥はそんなことをする性格じゃないから」
「そうなんだ」
「ついでに言うと風間さんともしたことない」
「あの子も手紙とか書かない性格なの?」
やっぱりな。これで僕の推測は間違ってなかったと証明された。
「さあね。さて、時間は無限ではなく有限だからそろそろ本題に入ろうか?」
「うん。そうだね。それで用って何なのかな?」
「非常に簡単なことだよ」
何?と彼女は首を傾げる。可愛い仕草だ。
事としだいによっては彼女にも罪はあるのだろうけど、僕はそう思った。
いや、そもそも罪人のことを可愛いと思ってはいけないという法があるわけではない。
思考の自由は認められているわけだし。
どうでもいい思考が終了したところで、本題に入るとしよう。
「冬菜さんを出してもらおうか、春菜さん」
「な、何のことかな?」
どもったところを見るとどうやら春菜さんは事情を知っているようだ。
とぼけてもわかる。僕の観察力を侮らないで欲しい。
「僕はね人を追い詰めるのが結構好きなんだ。嫌な奴だろう?でも女の子には出来ればそんなことはしたくはない。だからもう一度だけ言うよ。冬菜さんを出してくれないかな、春菜さん?」
「私には綾瀬君が何を言っているか……わからないよ。だって、だってお姉ちゃんは死んじゃってるんだよ!?」
「そうだね」
「そうだねって……それじゃあどうしてそんなことを言うの」
「なるほど。あくまでもしらを切り続ける気なのか」
いいだろう。
前述したとおり僕は人を追い詰めるのが嫌いではない。
とぼけるというのなら、どこまでも追い詰めてやろうじゃないか。
「いくら綾瀬君だって、それ以上言うと私、怒るよ?」
「最初に疑問に思ったのは、春菜さんの家を訪れたときだった」
「綾瀬君?」
これ以上彼女のたわ言に付き合っている時間はない。
僕は春菜さんを無視しながら続けた。
「トモを紹介したときに君はまるで知らないかのような態度をした。それはいったい何故なんだろうね」
「それは、だって……あのとき初対面だったし」
「確かに対面したのは初だったけど、しかしクラスにトモが来ていて君はそれを覚えていたはずだ。先週の金曜に確かに君はトモを知っていた。それなのにどうして日曜日にはそれを忘れてしまったんだ?」
そのとき僕は福田さんのことをフクモトさんと間違えていたけど。
「そ、そんなこと……あったっけ?先週のことだから忘れちゃったよ」
「ふーん。そう。じゃあ、何でトモのことは日曜日初めて知ったということか?」
「うん。そうだよ」
「それじゃあ、何で今トモの苗字がわかったんだ?」
「え?」
「日曜が初対面であるなら君はトモの苗字がわからないはずだ。だって僕はあの時面倒だからという理由でトモの仇名のほうしか君には教えなかった。それだというのに今君は僕がトモのことを風間さんと言ったのに即対応できた。つまり、今の君と金曜の君は同じ君であるけど、日曜の君は違う君だった。そうなんじゃないのか?」
「違う!し、調べたの!今日あの子のことを調べたの。日曜日出会って気になったから。だから知ってるの!」
「まあ、確かにそれは証拠にならないよね。でもね日記はどうだい?」
「日記?」
「冬菜さんが書いた日記だよ。まだ君はしらばっくれる気?」
「……」
「あの日記ほど奇妙なものはない。わかっているかい、春菜さん?柚子もトモも気づかなかったけど、僕の目は誤魔化せないよ。あれこそが決定的な証拠品なんだよ」
「……何が?何が、ですか?」
「僕はね日記というものに軽いトラウマがあるんだよ。小学校のころ、夏休みの宿題で日記というのがあってね。でも僕は夏休みの宿題は最後の一週間でいっぺんにやる人間だから、もちろん最後の日にいっきに書いたんだ。でも担任の先生にはバレた。何故だと思う?」
「……」
「毎日の日記が同じ調子に書かれていたからだ。内容がじゃないよ。力の入れ具合とかそういうやつがだ。人間は生きているんだから、その日によって体調は異なるし、同じ力加減で書くことは出来ない。だから僕はバレた。さてあの日記にも同じことが言えるのだけど、どうしてかな?」
「……」
「さらに言うと、あのときに見せてもらった二冊の日記は綺麗過ぎた。ほとんど手垢もついていない。新品同様の日記帳。一日一回日記を書くというのに、あんなに綺麗な状態を保ち続けることが出来るだろうか?いや出来ないね。現にあの二冊以外の日記帳は薄汚れていた。つまりあの二冊の日記帳は両方とも最近になって購入され、そして書かれたものだろう」
「……」
「店を調べればわかるだろう。それでもわからなかったら指紋を取ればいい。おそらくあの日記帳には僕、柚子、トモ、そして君以外の指紋はないはずだからね。さて、もう一度訊こうか?ここでまだとぼけるようなら、本当に日記帳の指紋を取らせてもらうけど?」
「……」
「冬菜さんを出してもらおうか、春菜さん」
「……ごめんね、綾瀬君。私……」
にやりと春菜さんが……いや冬菜さんは笑った。
「あなたのこと甘く見ていたみたい」
「はじめまして……ではないけれど一応挨拶はしておいたほうがいいかしら?私は福田冬菜。もっとも身体は春菜のものだけどね」
「それじゃあ僕も自己紹介しておこうか?」
「いらないわ。だいたい知っているし」
「そうかい」
「それで、私に何の用かしら?」
「ここでもとぼけるのか?飯田岡さんを殺したのは君だろう」
「そうよ。でもよくわかったわね」
「普通ならわからないね」
そう、普通ならわからない。
しかし僕は殺意を複製でき、そして事件のことについてほんのわずかだが手がかりを得ることが出来た。
「ねえ?あなたはどうして私が犯人だってわかったの?あの子みたいにそういう能力があるのかしら?」
「あの子というのは篠本さんのことかい?」
「先に質問したのはこちら。でもいいわ。答えてあげる。そうよ。あの子は恐ろしい力を持っているわね。あの子に訊かれたとき、わかったわ。全てが知られてしまったって。だから悪いけど彼女たちには私の能力をつけさせてもらったの」
「でも殺さなくてもいいじゃないか」
「死んでないから、いいじゃない。そもそもあれは脅しのためにつけただけよ」
「嘘だろ?」
「半分嘘。半分本当。あの子には自殺するまでに長い時間がかかるようにプログラムしておいたのよ。だから運がよければ助けが入るし、悪ければ死んじゃうね」
まるでゲームだな。
死ぬか生きるかはフィフティフィフティ。
おそらく、彼女にとって篠本さんの死はどうでもいいことなのだ。死んだら口封じになるし、生きていても殺意がついているから自分のことを喋ることは出来ない。
「じゃあ、今度はこっちの質問に答えてよ。ねえ、どうして私が犯人だとわかったの?」
「調べてればわかる。君は巧妙だけど神経質な性格をしているだろう?」
「そうよ。よくわかるわね」
「日記の件もそうだけど、君は事件のことを隠そうとした。そのために行ったのが華京院さんを操ってクラスに警告することだった」
「うん。そうそう」
「推測で悪いんだけど、君はあのクラスでいじめにあっていたね?」
「うん。あってた。私は別に暗い性格とかしてたわけじゃないんだけどね、まあ昔取った杵柄ってやつかな。中学までいじめられてた関係で高校でもいじめられちゃってさ。ほんと、今の時代って何でいじめられるかわからないよね?」
その杵柄の使い方、間違っている気がする。
「いや、そもそもいじめられるのに理由なんてあるのかな?あいつらってただ自分よりも下の人間を作りたいだけなんじゃないの?だから誰でも良かったんだよ。私でもよかったし他の人でもよかった。つまり自分じゃなかったら誰でも良かったんだ、きっと」
「人間っていうのは、どうしようもなく救えないね」
「全くだね……ってあなたも人間でしょうが」
冬菜さんにノリツッコミされた。
思った以上に面白い人だなぁ。なんだか好きになっちゃうかも。
「話を戻すけど、君はあのクラスでいじめにあっていた。だから日記の内容を春菜さんを使って変更させた。そこまではいい。それでまた推測なんだけど、いじめの主犯は飯田岡さんだね」
「うわ、すごっ!どうしてそこまで解るの!?やっぱそういう能力を持っているとか?」
「そこまで便利ではないけど、確かに僕も異常ではあるね」
もっとも能力を使って判明させたわけではないけれど。
「君が死んで、さらに飯田岡さんが死んだらクラスメイトは気づくはずだ。いや気づくじゃないね、思うはずだ。『これはもしかして冬菜さんの呪いなんじゃないかって』ね。実際そうだから、君は恐れた。噂だとしてもそれが世に流れることを恐れたんだ。だから華京院さんを操ってクラスメイトに警告した」
「そのとおりよ」
「しかし、それはやりすぎだった。結果僕はこのクラスに関係がある人が怪しいとわかったわけだ」
「おぉ。なるほどね」
何事もやりすぎにはご用心。
「すごいね、綾瀬君。名探偵じゃん」
「僕も驚いているよ。それで、君が自殺したのはやっぱりいじめのためかい?」
「うん。そうだね。結構つらかったからさ、もういいかなってことで電車に当たってみたよ。死ぬ前にすっごい痛くて死にそうだったけどね。あ、死んだんだった」
「君……電車にぶつかったときに頭を打ったろう?」
「そりゃ打ったよ。でもそれと発言がおかしいのに何の因果関係もないのはわかるよね」
「ん?何で?」
「だって、私もう魂だけの存在だし、あの時頭を打っていたっていなくたって関係ないでしょ?」
「そういうものなのか?」
どうも死後の世界のことはわからないからな。
こればかりは死んでみないと何とも言えないかもしれない。
「まあいい。それで飯田岡さんを殺したのは、やっぱり復讐から?」
「ん?いんや、違うわよ」
「?それじゃあ何で?何で飯田岡さんを殺したんだ?」
「運命だから」
「……」
「これはね、死なないとわからないだろうけど、そういう運命だったのよ。私は死んだ時わかったわ。ああこうやって死ぬのが私の運命だったんだな、って。そしてさらにわかったの。飯田岡さんは私が殺されるという運命に。だから飯田岡さんを殺したのよ」
「それは理由じゃないよ。言い訳だよ」
「そう聞こえるかもね。でもね死んでみればわかるわ。私の言っていることが真実だって言うことが。あ、そうだ」
冬菜さんの口元が不気味に歪む。
その理由が察せないほど僕は鈍くない。
「ちょうど私が犯人だって綾瀬君にバレちゃったしね。綾瀬君、死んでよ」
冬菜さんは殺意を僕に向けた。
冬菜さんの殺意は巧妙だ。
どんな能力かだいたいはわかる。『糸と穴』の能力だ。
だが彼女は決してその本体を僕の前に見せなかった。故に僕はその殺意を『奪取』することができなかったわけだ。
本体を見せないということは足を見せないということ。
冬菜さんは本当に巧妙だった。
だが……
「私の能力はわかってる?わかってると思うけど一応説明しようか。私の能力は『操』。この糸で人を操ることが出来るんだよ。と言っても綾瀬君には私の糸は見えないか」
「見えるよ」
僕には見える。
君の糸も、そして君の意図も。
「へぇ。私にしか見えないと思ったよ」
「そういう能力なんだ。『殺意視認』と言ってね。他人の殺意を、または能力を視認することができる能力のようだよ」
あの時は糸しか見えなかったけど、今回ははっきり見える。
彼女の殺意の本体が、僕には見える。
彼女の周りを取り巻くような黒い穴。これは本体じゃない。これはただの連絡機だ。
遠距離から人を操るときに使うモノでこれは本体じゃない。
右腕に腕時計のように絡まっている糸の束。あれが彼女の殺意。
珍しくも、巧妙な殺意。
……というか、僕はあれが奪取出来るのか?
腕に巻きついているけど。
まあ、いい。
奪取出来ないなら出来ないで、方法はある。
「珍しい能力だね。でもさ、見えるだけだったら意味がないよね」
「見えるだけなら、意味がないね」
殺意が見えるから、僕は二つの能力がある。
それは奪取と……
「それならこれを避ける方法もないというわけね。じゃあさ、悪いけど死んでね。死に方は屋上から飛び降り自殺。でどうかな?」
「……出来るものならね」
「そう?それじゃあ」
冬菜さんの糸が蛇のようにくねくねと動く。
そういう動きをしばらく見せた後、一本の糸が僕に襲い掛かってきた。
「早速死んでね」
「悪いけどさ」
僕は『複製』を行った。
何の殺意を複製したかというと……
バグン!
僕に襲い掛かってきた殺意の糸は、直前で起こった爆発によってその姿を消滅させた。
「え?どうして?何が起きたの?」
そう、この能力は殺意の対象とそれを使う者(つまりは僕)しか視認することが出来ない能力。そういう意味では冬菜さんの能力と非常に似ている能力。
冬菜さんと同じように事件が表に出ることを恐れてそのようになったのかはわからない。
わからないがそんなことはどうでもいい。
悪いが、今回は君の殺意を利用させてもらうよ。
マカベ君。
「騙していたわけじゃないんだよ。ただ言っていなかっただけだ。僕は殺意を視ること以外にも殺意を複製することも出来るんだ。この能力は『火薬庫』といってね。対象だけを爆発に巻き込める能力なんだ。対象以外は視ることすら適わない。今回は君の殺意だけを対象にさせてもらったよ」
「くっ!一本防いだぐらいで調子に乗らないでよ!」
今度は数え切れないほどの糸が僕の方を向いた。
しかし無駄である。
既に僕の周りにはいくつもの生成された爆弾が何の悪意もないかのように、ふよふよと浮いているのである。
無駄話中に生成。設置。みたいな形で。
ちなみに最初から彼女の殺意しか対象にしていないため、冬菜さんにはこの爆弾は見えなかったというわけだ。
閑話休題。
そして冬菜さんの殺意の糸が、今度は複数、僕に襲い掛かってきた。
もちろんそれは無駄である。
バク、ボク、バク、ボク。
いたる所で爆発音が響く。でもこれも僕にしか聞こえていないのだろう。
「どうして!?どうして私の『操』が届かないの!?」
「だから、君の殺意を爆発させているからだよ。確かに君の殺意はつけられてしまえばもうこちらには勝ち目はないけれど、その前だったらいくらでも対処方法があるということさ」
「くっ!」
「もうやめようよ。冬菜さん」
「そうはいかないわよ!私が、私があなたを殺さなければ、春菜はどうなってしまうというのよ!」
「やっぱり、それが理由だね」
どうして自分も死んだというのに、冬菜さんはこれほどまでに几帳面に証拠を消去しようとしたのか、それがこの理由だった。
「冬菜さん…あなたはこの事件、運命で決まっているとか後悔がないような口ぶりだったけど、一つだけ後悔していることがあるよね」
「……」
「それは春菜さんを巻き込んでしまったことだ。どういうわけかはわからないけど、君は死後、春菜さんの肉体に乗り移った。それは間違いないね?」
「……そうよ」
「その後君は、運命か復讐か僕にはわからないけど飯田岡さんを殺さなければならなかった。春菜さんの肉体でね。でも君は考えたんだ。この身体で飯田岡さんを殺したら、春菜さんが犯人ということになるのではないかと。だからあんなに几帳面に証拠を消しまわった。違うかい?」
「そうよ!私は、唯一自分が許せないという点があるなら、それは春菜を巻き込んでしまったことよ!私は自分のことは自分で責任を取りたいの!春菜にはこんな人殺しの責任を取らせたくなかったのよ!だって、春菜は何も関係がなかったのだから!」
「違うよ!」
その声は、冬菜さんから発生された。
いや、あれは春菜さんか?
「私に責任がないなんてことはないんだよ、綾瀬君。だって、私だって飯田岡さんを殺すことに了承をしたんだから」
「春菜!」
「お姉ちゃんは運命が殺す理由だって言ったけど、私は違うよ。私は単純に飯田岡さんが憎かった。お姉ちゃんを自殺まで追いやった飯田岡さんが憎かった。だからお姉ちゃんが私の身体に入ってきて、そして飯田岡さんを殺す計画を私に話したとき、私はそれに反対しなかったの。だって憎かったから。ねえ?どうして加害者が生きていて何の罪も受けないのかな?そんなのおかしいよね?私はおかしいと思ったよ」
「……春菜」
何か一人芝居みたいで滑稽だな、と言える空気ではないがちょっと思ってしまったり。
「綾瀬君……この事件で生き残っている加害者は私だけです。だからね……」
「春菜ぁ!!」
「私がこの事件の罰を受けます」
「何で!?何でよ、春菜!?あなたには関係ないじゃない。やったのはすべて私で、あなたは何もしてないじゃない」
「そんなことないよ、お姉ちゃん。私はね、わかってたの。飯田岡さんがお姉ちゃんに殺させるのは運命かもしれない。運命かもしれないけどね、罪がないわけじゃないんだよ。飯田岡さんにはお姉ちゃんをいじめていた罪があった。だから殺した。でもね、私たちにも飯田岡さんを殺した罪はあるんだよ」
「だからって!!」
「私はね、最初から覚悟していた。こうなることを。罰を受けるのは自分だと。覚悟の上でお姉ちゃんに身体を貸したんだよ。だから、綾瀬君。覚悟は出来ています。私を裁いてください」
「いい覚悟だね」
そしていい姉妹愛だ。
まあ、そんなことはどうでも良いわけで、僕がすることは決まっているんだ。
「それじゃあ、君代先生と篠本さんにつけた糸を外してくれ。それからこれからは出来るだけその能力を使用しないこと。危ないからね。うーんとそのぐらいか?じゃあ以上」
「え?」「は?」
福田姉妹が時間差で驚く。
たぶんお淑やかなほうが妹であるから、最初が春菜さん。後が冬菜さんであろう。
「時間は有限だから僕はもう行くけど、何か質問はあるかな?」
「あるに決まってるわよ!何でよ!?何でそれだけで済ませようとしているのよ!?」
えっと、言葉遣いが荒いから、冬菜さんだな。
「それだけって、不満なのか?もっと罰を与えたほうがいいの?」
「いや、そうじゃないけど……」
「人が人を裁くなんておこがましいよ。僕はそう思う。だから僕は裁かない。でもね、やっぱり篠本さんと君代先生が殺意をつけられたままじゃ可哀想だからそれだけは外して欲しい。あと、これから普通に生きていきたのなら、その能力は隠したほうがいい。僕から言えるのはそれだけだよ」
僕はその場を去ろうとする。
「待って、綾瀬君!」
えっと、今度は春菜さんかな?
「何?」
「私たちを、許すの?許してくれるの?」
「許すも許さないもないよ」
だって……だって僕は。
「僕は被害者でも加害者でもないからね。ただこの事件を解決しろと言われただけさ」
僕は屋上の踊り場を後にした。




