被害者のクラスメイト 華京院徳香
第一の被害者……福田冬菜、第二の被害者……飯田岡薫。
この二人の共通点は同じ性別だということ……という共通点以上に重要な共通点は同じ高校で同じクラスであったということだ。
まあ、単純な考えかもしれないが、もしかしてこのクラス、何か呪われているんじゃないの?と思うのが普通の考え。
関連性があると思って当然だろう。
今まであえて他のアプローチからしてきたのだが、ついに僕らはこのクラスの生徒に聞き込みをすることにした。
この聞き込みは……正直かなり危険だと思う。
実を言うと僕はこの事件の犯人は被害者のクラスメイトの中にいると思っていたのだ。
同じクラスの生徒が連続で同じ殺され方をすれば仕方がない話だろう。
故にこの聞き込みは今まで以上に慎重に行う必要がある。
ばれないように。
気づかれないように。
「それでどう聞き込むつもりだよ、少年?日曜日だけど?」
「……そういえばそうでしたね」
日曜日に学校に来る生徒なんて余程の酔狂な人たち以外はいやしない。
「困りましたね。明日にしましょうか?」
別に急ぐ事件でもない。
いや、勇さんは急いで解いて欲しいかもしれないが……僕としてはこの事件、ぎりぎり解ければいいと思っているのでここは日を改めるのもありな話であった。
だいたい、スパッと解いてまた過大評価されるのもたまったものじゃない。
次も同じように難解な事件を持ち込まれたら?僕はそれを受けるのだろうか?
……断ることが出来ないから受けてしまいそうである。
何か、僕ってそんな性格をしているかも?直したほうがいいかな?
「何だ?明日にするのか?明日はお前ら学校があるだろう?」
「ありますけど?」
「学校があるのにどうやって聞き込みをするんだよ?」
「放課後とか?」
「お前らが学校が終わってここに着く頃には、生徒が皆帰ってしまっているんじゃないか?」
「皆はないでしょう?部活で残っている生徒とかいるんじゃないですか?」
「おぉ、なるほど。お前頭いいなぁ」
「いやいや、それほどでも」
ほめられていい気になる僕。
そこに、柚子が一言。
「日曜だって部活をやっている生徒はいるのではないですか?」
……そういうわけで僕らは現在部活をやっている生徒に聞き込みをすることにした。
とは言うものの毎回勇さんを抜いたメンバーで聞き込みをするのはきつい(トモがどう考えても足手纏い)ということで、今回は僕と勇さんで聞き込みをすることにした。
初のカップリングで若干ではあるが緊張する僕。
何かへまをして勇さんに壊されたらどうしようか?
まあ、それも運命だと思って受け入れようか?
ちなみに設定は刑事さんということにした。一番手っ取り早いし、何せこちらには偽手帳が存在するのだからその設定を使わない手はない。僕は新人刑事ということで、ちょっと蒸しているこの季節に、勇さんが用意したロングコートを着させられた。
作戦としては単純なもので、まず適当に部活動を行っている生徒に声をかけ、現在その部活動に参加している生徒で被害者のクラスメイト、つまりは二年五組のクラスメイトがいるかどうか訊ねる。結果いれば呼んできてもらって聞き込み。いなければ違う部活動の生徒に聞き込みをする。
「聞き込みはお前がやれよ」
「はぁ?何故ですか?」
「だって、めんどいし」
僕だって面倒くさい。そのうえ元は勇さんが担当する事件だろう。
「警察手帳(偽)は勇さんのでしょう?勇さんがやってくださいよ?」
「えぇ~」
「えぇ~じゃないです。当然ですよ」
「絶対お前が訊いた方が面白い展開になるのになぁ」
「面白さより事件を解くほうが重要でしょ?」
「案外真面目なんだな」
「勇さんが不真面目なだけです」
「ふうん。そういうものかね?」
「……そういえば、こういう聞き込みって学校に許可とか必要ないんですか?」
「いらないんじゃない?大抵手帳見せれば信じるし」
便利だな!?警察手帳!
どこで売っているんだろう?お金があったら買おうかな?(犯罪です)
「そういえばさ」
「はい?」
「お前、この事件どれぐらいわかった?」
「どれぐらいわかったと言うと?」
それは妙な質問であると勇さん自身おそらくわかっていて聞いてきたのだろう。
そして僕はその質問の意図をわかっていながらとぼけて返した。
「ふうん。お前はそういう返し方をするわけか」
「何もわかってないですよ。現段階では何も……」
犯人は勿論のこと、この犯人がどれだけの被害者を生み出したのかさえわかっていない。
「だが推測ぐらいはしているんだろう?」
「推測ぐらいはしていますけどね。所詮は推測で正しいものではないですから。そんなに過大評価はしないでください。僕は確かに異常者ですが、勇さんのような探偵向けの能力ではないんですよ」
「俺は過大評価しているつもりはない。俺が見たところ、お前はかなり勘がいい。そして運もいい」
「僕の運がいい?」
その意見はどう考えても間違っているとしか思えない。
何故なら僕はこんなこと自ら望んでやっているわけではないのだから。
「俺は思うんだよ。推測とはいえお前は既に事件の真実に辿りついているんじゃないかってね」
「そうなんですか?」
「さあね、事件の真相を知らない俺に聞かれても困る」
成るほど。そうかもしれない。
この事件のことについて、確かに現段階である推測をしている。
ある矛盾点、そして言動……僕はそれらをつなぎ合わせてある推測を立てた。
しかし推測は推測。
まだ答えを出すのは早すぎる。
まだ、情報は得られるはず。
「……さてさて、どうなることやら」
最初は校庭でトレーニングをしていた陸上部に声をかけた(勿論勇さんが)。
部長さんのような人に話を伺ったところ、「陸上部にはそのクラスの生徒はいませんね」ということで、僕らはそうそうに他の部活動に聞き込みをすることにした。
念のため「二年五組とはどのようなクラスか?」と訊ねたところ「さあ?私のクラスではないんでわかりません」と非常に冷静な意見が返ってきた。
まあそうかもしれないな。
ちなみに僕なんて自分のクラスのこともよくわかっていなかったりする。
それは余計な話であるかもしれないが。
次にテニス部を求めてテニスコートに向かった。同じようにテニス部の部長さんに話を伺ったところ、「所属はしているけど、今日は来てませんね」ということ。
「部活動は自由参加なんですか?」と僕が訊ねたところ、「自由参加です」という淡白な答えが返ってきた。
「所詮、部活動なんて趣味の一環ですから。強制させてやるものではありません。受験に役に立つっていうのであれば、話は別ですけどね」
非常にクレバーな意見をありがとうございます。
念のため「二年五組とはどのようなクラスか?」聞いてみたところ「普通のクラスではないでしょうか?」ということだった。
普通のクラス、か。では異常なクラスとはどういうクラスなのだろうか?
普通ということ……一般的であるということ。それこそがおかしなことではないのだろうか?
どうでもいいけどね。
「しかし、惜しかったなぁ。その部活動を休んでいた生徒がもしいたらそこで話が聞けたというのに」
「仕方がないですよ。休みなんですから」
「あぁ、面倒だな。それで次はどの部活にする?」
「そうですね……あ」
「どうした?」
「今の部長さんにその休んだ子の情報を聞いていれば、家に聞き込みにいけたんじゃないですか?」
「あ」
……失念していた。
というか、勇さんも気づいて欲しい。仮にも探偵ということになっているのだから。
「あぁ。で、どうするよ?今から聞きに戻るか?」
「いえ、面倒なんで。いいでしょう?」
「いいよなぁ。とりあえず、次の部活動を探そうぜ」
「そうですね」
こうして僕らダメダメな二人は次の部活動に足を運んだ。
「二年五組の生徒ですか?いますよ」
体育館で部活動をしていたのはバスケ部であった。同じように部長さんに聞いてみるとなんとそんな答えが返ってきたのだ。
「それでは呼んできてもらえるかな」
「あ、はい。わかりました」
バスケ部だけあって動きが機敏で、部長さんはすぐにその子を呼んできた。
「えっと、彼女が二年五組の生徒で、名前を華京院徳香さんといいます」
「はじめまして、華京院徳香です」
「どうも、私は刑事の風間です」
勇さんが偽の警察手帳を見せながら自己紹介をする。
「同じく、綾瀬です」
僕はそんなもの持っていないのでお辞儀で挨拶をする。
「刑事さんが、私に何の用でしょうか?」
刑事というものが訪ねてきたせいか、華京院さんはおどおどしていた。
「そんなたいしたことを聞くわけではありませんよ。どうか気を楽にしてください」
勇さんにしては珍しく他人に気を使った言葉を発した。
「確認ですが、華京院さん。あなたは二年五組の生徒ですよね?」
「はい」
「では私があなたを訪ねたわけがわかるんじゃないですか?」
華京院さんが小さくだが震えたのを僕と勇さんは見逃さなかった。
やはりそうなのか?
この事件、西宮高校の二年五組と少なからずだが関係があるのだろうか?
「何を言いたいのか、わかりません」
「それなら率直に言いましょう。ここ二週間近くであなたのクラスの生徒が二人も亡くなっている。何か二人について知らないでしょうか?」
「知りません」
カタカタ、ガタガタ。
今度は明らかだった。
僕らじゃなくても、誰でも気づく。
華京院さんはその手で身体の震えを止めようと押さえつけていたのだが、それでもわかってしまうほど震えていた。
明らかに恐怖で震えていた。
何を、何をそこまで恐怖しているのだろうか?
ここまで恐怖に落ちた人間を僕は見たことがない。
「落ち着いてください、華京院さん」
「私は落ち着いて、います」
カタカタ、ガタガタ。
「私じゃないんです。私は何も知らないんです。本当なんです。信じてください」
カタカタ、ガタガタ。
「どうしてそんなことになったか。わからないんです。ごめんなさい。ごめんなさい。許してください。お願いですから、許してください……うぐ、うぁ」
遂にはひざが落ちて、肩を抱きながら泣き出してしまった。
「華京院さん?華京院さん!?」
おかしい。いくらなんでも壊れるのが早すぎる。
どういうことだ?
これはどういうことなのだろうか?
「すいません。しばらく彼女を保健室に連れて行ってよろしいですか?」
華京院さんの隣にいた部長さんが彼女の背中をさすりながらそう言った。
僕らはそれにただ首を縦に振るしかなかった。
明らかに、明らかに二年五組に何かあるのは間違いなかった。
あの様子でそれを疑うのは頭が悪いやつだけだ。
しかし、華京院さんから話を聞くのはどうやら無理のようだ。
知らぬ、存じぬの一点張り。挙句の果てに壊れたかのように泣き出してしまう。
勇さんは本当に面倒になったのか先ほどからバスケ部の練習ばかりを眺めている。はたから見ると変態だ。
仕方がない。
甚だ不本意ではあるが、僕が動くことにした。
勇さんの意図はわかっているのだから、僕が動くしかないのだ。
華京院さんを保健室に連れて行った部長さんが戻ってくると、早速僕は話を聞くことにした。
「彼女の様子はどうですか?」
「今は落ち着いて、ベッドに横になっています。ただ……」
「ただ?」
「おそらく刑事さんが同じ事を聞くなら、またあのように取り乱すと思います」
それは遠まわしに聞くなと言っているのだろうか?
ふむ、なかなか後輩思いの良い部長さんではないか。
「すいません。刑事さんにこんなことを言うのは失礼かと思いますが……」
「今日のところは帰れ、と」
「……そこまではっきりとは言いませんが、でもニュアンス的には間違いではないです」
「なかなかはっきり言いますね」
「すいません」
「謝らなくていいですよ。むしろ好感が持てます。しかしね、我々としても何も情報を得ずに帰るというのはね」
「日を改めるということは?」
「改めて、彼女は話してくれるのでしょうか?」
「それは……」
「あなたは二年五組のことについて、何か知りませんか?」
「え?」
……顔色から察した。
何かを知っていると。なら畳み掛ける。
悪いが、どんなにいい先輩だろうと関係がない。あなたから情報を頂きます。
「華京院さんがあんなに取り乱す理由、何か知りませんか?」
「一つ……一つだけ約束してください」
「何でしょう?」
「……私が言ったとは誰にも言わないでください。それさえ守ってくれればお話します」
「いいでしょう」
守るつもりなど全くなかったが、僕は嘘つきなので約束することにした。
「私も実際に見たわけではないですし、これはあくまで噂なんですが……あのクラスは呪われている、ということです」
「呪われている、ですか?」
それは、随分と非現実的な話が出てきたな。
呪い、呪いか。
呪いのせいで、華京院さんがああなったというのだろうか?
部長さんには悪いがとても信じられる話ではない。
「信じられませんか?」
「ええ。正直に言いますが、信じられません。この時代に呪いですか?」
「私も信じられません。あくまでも噂です。でも確かにおかしいんです。あの二人が亡くなってから、二年五組の生徒は皆が皆何かがおかしいんです」
「どうおかしいのですか?」
「なんていうか……暗くなったと言うんでしょうか?あまり話さなくなり……行動的でなくなりました。二人も亡くなったのでそういうこともあるのかもしれませんが、それにしたってあんなに閉鎖的ではなかったと思います」
まあ二人もクラスメイトが亡くなったので、当然と言えば当然の結果であるかもしれない。
「華京院さんも元はあんなではなかったと?」
「はい。明るくて元気で、部活でも皆を引っ張っていくような子でした」
「今とはまるで正反対ですね」
僕らが見た華京院さんは、暗くて取り乱している印象しかなかった。
と言っても数分の付き合いじゃそんな人の内面など見ることは出来ないが。
「そうなんです。全くの正反対です。でもあの噂が本当ならそれも仕方がないのかと思います」
あの噂?
まだ二年五組の噂があるというのか?女子高だからかもしれないけど……何というか、女の子は噂話が好きな生き物だよね。
「あの噂、というのは」
「……これは絶対に秘密にしてくださいね。先程二年五組が呪われているって話しましたけど、それにはある話があってそういう噂が流れたんです。両方とも噂話なんですけどね。この噂が流れたから、二年五組が呪われているという噂も流れたんです」
わかったからさっさと本題に入ってもらいたいものだ。
「刑事さんは憑依とか悪魔憑きというものを信じますか?」
「信じないね」
僕は現実的な人間なのだ。殺意なんてものが見えるけどね。
「それがどうかしたんですか?」
「噂です。あくまで噂です。それを踏まえて聞いてください。噂によると彼女は一時的に何者かに乗っ取られたことがあるようです」
「は?」
「ですから華京院さんは何者かに乗っ取られたことがあるらしいんです」
「それはいつ頃の話なんですか?」
「噂ですよ。噂ですからね。私は見てませんからね……噂によると二人目のクラスメイトが亡くなった次の日、つまりこの間の金曜に起こったらしいです」
「乗っ取られたって……では乗っ取られて何をされたんですか?」
「乗っ取られた詳しい時間はわかりません。朝のHRの前なのか、帰りのHRの後なのか……とにかく二年五組の生徒が全員集まったときだと聞いています」
詳しい時間などどうでもいい。しかも特定できてないし。
「僕は何をされたか聞いているんです」
「結論を急がないでください。ここで重要なのは二年五組が全員揃っている時に起きたというのが重要なんです」
「どういうことですか?」
「華京院さんはみんなが集まっている教室の黒板にある文字を書いたらしいんです」
「ある文字、ですか?」
「はい。残念ながら何を書いたかはわかりません。華京院さんは勿論のこと二年五組の生徒は絶対にそのことは語らないそうです」
「絶対に、ですか?」
「絶対に、です」
……書いたのは確実に脅迫文であろう。
脅迫されたから、彼女たちは何も言えないのである。
クラス全員がその脅迫文に従うというのは異常に思える。果たして何が書かれていたのか?
こればかりは本人に訪ねなければならない、か。
「しかし、私はそこに脅迫的な文章が書かれていたんだと思います」
「僕もそう思います。だから、二年五組の生徒は誰もそのことについて語らない……しかし何故それで華京院さんに何かが乗り移ったと?」
「彼女はそんなことをする生徒ではないので」
「成るほど」
納得が出来ない理由だ。
だが、仕方がない。納得しよう。辻褄……全て辻褄が合えばどうでもいいことなのだ。
しかし、呪いに憑依か……ホラーな展開になってきたじゃないか。
「ところでこの学校……噂が広がるのが早くないですか?」
「女子高なので」
実に的を得た答えだ。
自分で言うと非常に自嘲的なのだが、僕は最低な人間なのでいきなり約束を破ることにした。
コンコン。
ノックを二回叩き、中にいる人の了承も取らないうちに僕は保健室に入った。
僕はもうこの段階で眼鏡を外していた。
「え?」
「お休みのところ悪いね。話を少しいいかな」
「……すいません。体調が悪いので」
「すぐ終わるよ。こっちも仕事だからね、わかって欲しい」
「……」
華京院さんは凄い嫌そうな顔をする。
「聞きたいことは一つだけだ」
「……なんですか?」
「君は黒板に何を書いた」
「ひっ」
カタカタ、ガタガタ。
やはりダメか。恐怖が身体に染み付いている。
華京院さんはそのことを言わないのではなく、身体は既に言えないという状態にまで達していた。
それほどの恐怖。
僕はそれを知りたいと思う。どこをどうやれば人間がこうなるのか、その方法を知りたいと思う。
それは単に知的好奇心から?それとも……
まあそんなことは今は余計なこと。
恐怖の落とし入れかたよりも、僕は黒板に書かれた情報を入手しなければならない。
「ど、どこからそれを」
「この学園の生徒から」
「……い、言えません。絶対に言えません」
「あ、そう。わかった」
「え?」
僕があっさり引くもんだから、華京院さんは拍子抜けしたような表情をした。
「じゃあ、言わなくていいよ。ただこれから僕が言うことに『はい』と答えてくれ。それだけでいい。それ以外は何も言わなくていい」
「な、何ですか、それ?」
「いいから、そう言えばいいんだ。大丈夫絶対にそれ以上のことは聞かない」
聞きはしない。
「私は……はいと言えばいいんですね?本当にそれだけなんですね?」
「ああ、それだけだ」
君はそれだけやればいい。
それだけやれば僕の役に立つ。
「そ、それなら」
「OK?では華京院徳香さん。あなたが書いたという黒板の文字、『僕に教えていただいてよろしいですか?』」
「うっ」
「大丈夫。実際には何も聞きはしない」
「本当ですね!本当に聞かないですね!嘘は無しですよ!」
わかっている。
君の恐怖はわかっているから、さっさと答えるんだ。
「ではもう一度聞きます。華京院徳香さん。あなたが書いたという黒板の文字、『僕に教えていただいてよろしいですか?』」
「……はい」
そうして僕は蒼き目次録を『複製』することに成功した。
保健室を出るとそこには勇さんが立っていた。
「ふん。蒼子ちゃんの蒼き目次録までコピー出来るとはな。お前は思っていた以上に万能型の能力者なんだな」
「僕が『複製』したのがわかりましたか?」
「なんとなくな。雰囲気がそれに近かったから、おそらく蒼き目次録をコピーしたんだと思った。そこにあるのか?」
「僕と篠本さんにしか見えないでしょうが、あります」
僕には見える。目の前にあるこの本のようなものが。これは殺意なのか能力なのかはわからない。わからないが利用できるものは利用させてもらうのが僕のやり方である。
そしてそれが人間のやり方である。
「しかし……下手なやつだな」
「ん?何がですか?」
「別になんでもない。それでそこにはなんて書いてあったんだ?」
「僕もまだ見ていないです」
楽しみは後に取っておくのだ、ということではなく僕がその内容を読むから勇さんが考えてくれという意味を込めて。
「何でその場で読まなかったんだ?」
「それくらい察してください。いいですか?今から読みますよ……『まず、この内容は決して誰にも喋ってはならない。友達、先生、家族……誰にも喋ってはならない』。ここで一端黒板を綺麗にしたそうです」
「ほう。そんな細かいことまでわかるのか?」
「そんな細かいことまでわかるようですね」
確かに、恐ろしい能力だ。
こんなもので過去が全てわかってしまったら……
「それで次は?」
「あ、ちょっと待ってください……『このクラスで起こったことを決して他人に話してはならない。話せば呪が降りかかるだろう』だそうです」
「呪いなんて非現実的なことを」
「異常者が現実的なんて言わないでください」
とにかくこれで一つはっきりしたことがある。
「どうやら二年五組の生徒は犯人に何か心当たりがあるようですね」
「そりゃ、そうだろ。今の文を聞く限りではな」
「犯人と二年五組の生徒との関係は何なんでしょうか?」
「知らん。まあ脅迫をする者とされる者という関係にはなっているな」
……脅迫しなければならない理由。
それは二年五組の生徒が犯人を知っているということか?
しかしどうして?
どうして二年五組の生徒の生徒は犯人を知っている?
とわからないように思考してみたが、まあ推測はしてある。
ここではまだ語らない。
さてどうしようか?
「それで、結局何かわかったのか?」
「犯人と二年五組の生徒との間に何かあるってことぐらいですかね」
「だからそれで犯人に繋がるものは?ここに来てそれ以外で何かわかったのか?」
「何もわかってないですね」
「じゃあ、この次はどうするんだ?もう選択肢もあまりないぜ」
……さてどう動こうか?




