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またいつか

 新年の宴がなし崩し的に終了して、私は聖女寮の自室に戻っていた。


 この後、ルカが当番神官としてこの部屋に来る。


 夜明けになると当番が交代する。でもたぶん夜明けまでは時間があると思う。


 でももしこのままルカが来ないと……何もないまま元日が終わる。


 しばらく待っていた。


――コンコン。コンコン。


「ルカです」


 ノックの音と待ってた人の声が聞こえた。私は、疲労も何のその、軽い足取りでドアの前に立った。


 そして私はドアを開けた。


 目の前には、ルカがいた。私は中に招き入れた。


「宰相、話が長かっただろ?」


 ルカはソファに座りながら言った。


「本当。終わらなさそうで……」


 私も同調した。


「そういえば、ルカが宰相に飲ませたお酒、あれが効いたよね?あれ、なんだったの?」


「蒸留酒で、アルコール度数がとても高い酒だったのさ」


「ふうん……」


「お褒めの言葉は?」


 ルカがおどけて言った。


「感謝します」


 そう言ってお辞儀をして、私は微笑んだ。


「ありがとう。ああ、飲ませたかいがあったよ」


 ルカが笑った。私も笑った。


 ひとしきり笑った後、私たちは黙ってしまった。お互いの目を見つめあってた。


「なあ、ノエル?」


 ルカが先に口を開いた。


「ん?」


「俺の気持ち、分かるよね」


 ルカは私の顔を覗き込んだ。私はルカを見つめ返して、頷いた。


「うん……」


「全部は言わないよ?」


「言ってよ……」


 ルカは少し黙って、咳払いをして、深呼吸してから言った。


「俺は、ノエルのこと、す……好きだ……」


 すごく嬉しい!私は嬉しくなって、何かが込み上げてきて、涙が出てきた。


「ありがと……うれし……」


 振り絞って言った。


「ノエルは?どう思ってる?」


 ルカが尋ねてきた。


 私は、ルカと並ぶように座り直して、ルカの肩に頭を預けた。


 少したじろいだルカが可愛い。


 私は微笑んだ。


「これで分かる?」


「あ、ああ……」


 ルカは何度も頷いた。


 私は微笑みながら、ルカと手を繋いだ。


 * * *


「……ノエル……ノエル」


 呼ばれて目を開いた。


 私の部屋、ベッドの上にいた。布団が掛かっていて、行儀よく寝ていた。


 東の空が赤みを帯びる頃合いだ。まだ外は暗い。


 私は天井を見ていたが、私を呼んだ声の方にゆっくりと視線を動かした。


 天井から壁、壁から――ルカ。私の愛するルカ。彼が私を見ていた。


 私もルカの目を見つめた。


「だめだノエル。それは我慢できなくなりそう……」


 ルカが目を逸らせながら言った。顔が赤くなった。


 それを見た私も、たぶん顔が赤くなっていた。


「そろそろ当番交代だ。外から物音が聞こえだしてる」


 私はルカの顔を見直した。やはり目のくまがより悪くなってる。


「寝てないの?」


 私はルカに聞いた。


「ああ。当番は寝てはいけないだろ?」


 ルカは事も無げに言った。とはいえ、一昨日の朝から大して寝てないはずだ。


「ありがとうね。私のために頑張ってくれて。疲れたでしょう?」


「ノエルの寝顔を見てたら元気になったよ」


 ルカが元気になってくれるのなら、すごく嬉しい。でも面と向かって言われると、かなり照れる。


「なにバカなこと言ってるの……」


 私は目線を逸らせて言った。


「それより、衣服を整えてくれ。もうすぐ交代の神官が来るからな」


 私は寂しさを覚えた。


「もう終わりか……」


 私はふと口にした。


「終わりだけど、ノエルとの思い出が作れたからね。俺には充分だな」


 ルカはドアを見つめながら言った。


「……そうだね。大事な思い出、作れたよね」


 私も、自分に言い聞かせるように同意した。


 私は、少し意地悪なことを聞きたくなった。


「ルカ、私との思い出、もっと欲しくならなかった?」


 ルカは私の方を見た。驚いてるみたいだった。


「まあ……欲しい……」


 そう言った後、ルカは顔を逸らせた。黙ったままだ。でも、耳まで赤くなっていた。


 私はルカの横顔を見つめながら、微笑んでいた。


 * * *


 越年祭が終わって半月ほど経った。


 久し振りにルカが当番の日だった。


「新年の宴の時に宰相がいただろう?」


「うん。酔いつぶれてたよね」


「あの人、次の日には二日酔いもなく元気に仕事してたってさ」


「へえ、凄いのね」


 それよりね、私は、話が長い方が気になるんですけどね。


「あと、宰相が俺のところに使いを寄越してきたんだ。あの時飲ませた酒がやたらと気に入ったらしい」


「面白い人ね。よほどお酒が好きなのね」


 私はクスクス笑った。


 その日の夕方、私は入浴をして、入浴着のまま上がった。着物をまとっているとはいえ、水に濡れて、肌に張り付いている。


 私は、元日のことを思い出した。きっとルカも同じだと思う。


 私たちは、お互いの思いを確かめあった。とても幸せだった。それでも終わりは来る。そしてまた日常に戻っていく。


 今のルカは当番神官だ。私の身の回りのお世話をしてくれている。あの日とは立場が違う。


「ノエル?」


 ルカが小さな声で私を呼んだ。


「なに?」


 ルカは動きを止めた。そしてまた小さな声で言った。


「聖女様。またいつか」


 私は、込み上げてくるものを抑えてから、口を開いた。


「ええ。またいつか」


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