死人坂の歪な寒気
次のスポットに向かうために須口は車を出した。結局、元処刑場では車から降りずにただ道と畑を眺めただけだった。それでも須口は割りと楽しそうであり、こんな何もない場所でも楽しめているならそれはそれでいいのかもしれない、下手に危ないところに行って変なものを連れてくるより良いだろうと思う。
ふたりとも煙草が吸いたくなったので、灰皿を取り出した。窓を全開にし、煙草に火をつける。冬の冷たい風が車内へと吹き込んできて、後部座席に置いてあるビニール袋をバサバサと揺さぶった。
「次の目的地は、この近くかい。」
咥え煙草に鼻歌を歌う須口はナビ代わりにおいてあるスマートフォンを指差した。マップには赤い丸がこの近くを指している。
「次の目的地は坂だ。死人坂とも言われている。まあここも、ネットでみた限り何もない坂だがね。あまり期待しないで待っていてくれ。」
そうか、次もただの坂か、等と思いつつ、だいぶ減った煙草を灰皿へと捨てた。
坂自体は道が細く、急勾配になっているため、まあ車でも入れるのであろう、だが慣れない道ですれ違い等も考慮するとあまり入りたくはないような所だった。
幸いにも近くに大きめの書店があり、そこの駐車場を借りることにする。そこから坂まではおよそ歩いて3分といったところだった。
「ほら、ここも何もないただの坂だろう。」
須口はニコニコと笑いながらそんなことを言う。確かに、廃車が置いてある駐車場に、割りと新しめの一軒家が建っているくらいだ。
だが、何もないただの坂、ではないような気がする。なにか、そう、それこそ霊感ではないが、妙な寒気がするような、背中を柔らかいもので撫でられるような、そんな気分に陥る。
「須口、トイレに行きたくなってきた。もう行こう。」
そんなことを言い、足早に坂を立ち去る。事実トイレにも行きたかったし、書店か、その隣のガソリンスタンドで借りよう、と頭の中で必死に先程の寒気の原因を考えることを止めようと歩みを進めた。
アレは多分、何かいたのだ。それが何なのか、どこにいたのかはわからない。だが確実にいたと思う。俺は霊感が強いというわけでもないが、母は霊感が割りとあるほうだった。自分も一度だけ霊障にあったことがあるが、それ以来は何かを感じたり見たりすることはなかった。
だが、ここは感じた。だから触れぬようにそそくさと退散したのだ。須口は何も感じないようだったが。オカルトマニアでありながら、そういうことには全く疎いヤツである。
書店より先にガソリンスタンドにたどり着いたので、そこでトイレを借りる。先程の悪寒はまだしているような、していないような感じだったが、トイレに行きたい気分はすっきりと収まった。
「見てみろ、テレビか何かの撮影をしているな。」
須口が顎で指す方を見てみると、ガソリンスタンドの給油所の所でテレビカメラが回っていた。車か何かの特集かCMだろうか、大手国産メーカーの新品であろうピカピカに光る軽自動車が近くにある。
「そうだな、まあ、行くか。」
だが、俺たちには関係の無いことだ。お互い興味もあまりないのでガソリンスタンドを立ち去る。書店の駐車場にある自動販売機でお茶を買って、車に乗り込んだ。
「そろそろ昼飯にしよう。街中だし、ファミレスでもあるだろう。」
確かに時刻は午後1時を過ぎたところだった。なんとなくではあるが、腹も減ってきたようだし、ここらで食事にするのも悪くはない。
悪寒のほうは収まったような気がする。まあ、もし何かいたとしても大丈夫だろう。後ろには人形があるし、車はもう定員オーバーだ。
ほっと安堵しつつ走り出した車は、死人坂とは反対の方面へと走り出した。ナビの赤い丸がだんだんと離れていく。もうあの嫌な、歪な寒気とはおさらばだと思いつつ、後ろを振り返り一応死人坂の方をみた。
妙な違和感がした。また寒気もする、おかしい。これが霊障とかの類でないなら、風邪を引いたのかもしれない、と思うくらい強い寒気だった。
人形が、ひとつ、ないのだ。確かに先程後部座席を見たときにはあったはずだ、俺の真後ろの、左後部座席にあったはずの人形は、止めてあったピンだけを残して忽然と姿を消していた。
「須口、人形が、ひとつない。」
震える声でそれを告げる。先程の悪寒といい、足りない人形といい、嫌な予感しかしなかった。だが、
「さっき煙草を吸うのに窓をあけただろう。それで飛んだのかもしれない。いいよ、あとで食事の時にもう一つ作れば。」
須口は何も感じないのだろう、そんな呑気なことを言っていた。俺は、須口が言うように風で飛んだだけで何もないと思うようにしつつ、早くファミレスにでもなんでも着いてくれと思っていた。




