表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/21

第20話 覚醒!黄金の暴君(5)

ゴゥッ!


強烈な熱風が頬を打ち、思わず腕で顔を庇う。

視界の先で、ザラだったものが、黄金の炎に包まれて消失していくのが見えた。

悲鳴すら置き去りにする、完全なる消滅。

熱気が揺らぐ中心に、彼が立っていた。


「アズール!」


わたしの呼びかけに、彼がゆっくりと振り返る。

逆光の中で輝く黄金の瞳。

背後には、まるで後光のように揺らめく赤黒い陽炎。


彼は、まるで散歩の途中で綺麗な花を見つけた子供のように、無邪気で、そして背筋が凍るほど美しい微笑みを浮かべた。


「ああ、ミリアさん。見ていただけましたか?」


彼は愛おしげに目を細め、ザラがいたはずの空虚な空間を示した。


「あなたの障害になる石ころは、綺麗に取り除いておきましたよ」


「……っ」


背筋が凍りついた。

その笑顔があまりにも穏やかで、優しさに満ちていたからこそ、わたしは戦慄した。

命を奪ったことへの躊躇いも、恐怖もない。

ただ「掃除をした」と報告するような軽さ。


「アズール……お前、正気かよ……」


隣でブレイズが呻くように呟いた。彼の手が、小刻みに震えているのがわかる。

わたしたちは、本能で理解していた。

目の前にいるのは、わたしたちの愛するアズールであって、アズールではない。

愛という名の狂気を孕んだ、制御不能の「何か」だ。


「さて……」


アズールはわたしたちの戦慄など意に介さず、視線をゆっくりと巡らせた。

その黄金の瞳が、彼方に見える街――水上都市アクア・アルタールを捉える。


「もう一つ、邪魔な石ころが残っていましたね」


彼が右手を掲げる。

手のひらに、太陽を凝縮したかのような、凶悪な熱量が収束していく。


「――っ、ダメッ!!」

「おい!何してやがる!!」


わたしとブレイズは悲鳴を上げた。

彼は、本気だ。

あの街を、そこに住む人々ごと、今のザラと同じように消し去るつもりだ。


「よせッ!!あそこには何千人も人がいるんだぞッ!!」


ブレイズが叫ぶ。

けれど、アズールは心底不思議そうな顔で、きょとんとわたしたちを見つめ返した。


「人がいる?それがどうかしましたか?」


「罪のない人間がたくさんいるんだぞ!お前のやろうとしてることは虐殺だ!」


ブレイズの怒号に、アズールは冷ややかに目を細めた。


「罪がない……?冗談でしょう」


彼は吐き捨てるように言った。


「彼らはミリアさんを利用しようとしました。彼女をにえにして、自分たちの街を守ろうとした。……その薄汚い思考そのものが、万死に値する大罪です」


その言葉には、一片の迷いもなかった。

論理が飛躍しているのではない。彼の理屈の中では、それが絶対的な正義として完結しているのだ。


彼の瞳が、爛々と黄金色の輝きを増す。


「それに……いい機会だと思いませんか?」


アズールは夢見るように瞳を輝かせ、空いた左手をわたしたちへ差し伸べた。


「この街だけじゃない。ボクたちを縛る帝国も、クリフォードの家名も、賢者の塔も……全部、全部、焼き払ってしまえばいい」


「なにを……言ってるんだ、お前……」


「簡単なことですよ、兄さん。全て焼き払って、この世界を更地にすればいい。そうすれば……誰にも邪魔されない、ボクら三人だけの世界が作れる」


違う。

それはアズールの言葉じゃない。

狂気的な思考の裏側に張り付いている、傲慢な「意志」の声。


……いる。


アズールの魂の奥底。

彼自身の独占欲や渇望を依り代にして、この世界を見下ろしている何かがいる。


『真昼の瞳』。


かつてゾルデが選び、帝国を築く礎となった、支配と情熱の神。

その「意志」が、アズールの心の奥底にあった「執着」と「独占欲」を極限まで増幅させ、歪な正義へと書き換えてしまっている。

それがわたしへの、究極の愛の証明だと信じ込ませている。


「……ふざけるなッ!!」


ブレイズの怒号が、熱気を切り裂いた。


「そんなものが、ミリアの望む世界なわけねえだろうがッ!!」


ブレイズが地を蹴った。

大剣も構えず、身一つで、炎を纏う弟へと突っ込んでいく。


「兄さん……?近寄らないでください。今のボクに触れると、消し炭になりますよ?」


アズールが警告するが、ブレイズは止まらない。

アズールの周囲に渦巻く熱波は、鉄さえも溶かす高温だ。

近づくだけで、ブレイズの服が焦げ、肌が赤く爛れていくのが見える。


「ぐ、ウゥゥゥォォォォォッ!!」


「なっ……兄さん、正気ですか!?」


アズールの表情が、初めて驚愕に歪んだ。

自分の絶対的な力(熱)をものともせず、ただの肉体で突き進んでくる兄の姿。

その理屈を超えた行動に、アズールの中の論理が混乱し、周囲の熱気が弱まる。


「正気じゃねえのは、てめえの方だッ!!馬鹿野郎がッ!!」


ブレイズの拳が、炎の壁を突き破る。

皮膚が焼ける音。

それでも彼は止まらない。火傷など意に介さず、ただ弟の目を覚まさせるために、その手を伸ばす。


「わ、訳がわからない……どうして……!?」


アズールが動揺し、後ずさる。

『真昼の瞳』の傲慢な意志は、この理不尽な熱血漢の行動には困惑しているようだ。愛する弟を止めるために我が身を焼くブレイズの行動原理が、「意志」には全く理解できない。


――今だ。


わたしはブレイズが命懸けで作ってくれた、その隙を見逃さなかった。

風のように駆け抜け、アズールの背後へと回り込む。


多少弱まったとはいえ、燃えるような熱気。

近づくだけで、肺が焼け付きそうだ。

けれど、躊躇いはなかった。


「アズールッ!!」


わたしは火傷するのも構わず、高熱を発するアズールの身体を、背後から強く、強く抱きしめた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ