チャラ男の実力
「えぇそうかな。こんなん普通やで」
と音無さんは明らかに照れている。
俺は近くの店員に、目で訴えた。
「店員さん。こんな変身、天才ですよね」
と俺は店員さんに振った。
「うん。俺もこんなん初めて見た。これは才能だ」
と店員も手を叩く。
店員さんは、近くにいたホステスに目くばせする。
「うん。私もこんな天才見たことない」
とホステスも手を叩く。
「えっそうなん。こんなん普通の芸やけどな」
と音無さんは頭をかいた。
「えー。ちょっと、もっと見せてくださいよ」
と俺は言った。
「そう。じゃあリクエスト出して」
と音無さんは答えた。
「じゃあ。これ難しいと思います。モアイ像」
と俺は言った。
「いや、さすがモアイ像は難しいでしょ」
とホステスさんは言った。
さすが、接客のプロだ。
俺はそう思った。
「モアイ像なんか、余裕やで。待っとれ」
と音無さんは言った。
『兎』の字が『百相』に変わる。
すると、100面の顔をした仏像に変わった。
「あれ?おかしいな。これ今何になってる」
と音無さんは尋ねた。
「100面の顔を持った仏像ですね」
と俺は言った。
「あれなんでやろ」
と音無さんは首をかしげる。
白髪頭の初老の男性が近づいてきて、
音無さんを観察する。
「なんかわかりますか?」
と俺は尋ねた。
「これはな。漢字が百相になってるやろ。これでモアイと読むんやろな。でもイメージしたモアイ像やなかったってことやわ」
と初老の男性は言った。
これはまずい。
音無さんの挫折だ。
なんとかフォローしなくては。
「じゃあ逆に、漢字で表現できたら、なんでもイケる系じゃないですか」
と俺は音無さんのほうを見た。
「そうかもしれん。漢字のやつを出してくれ」
と音無さんは言った。
周りはシーンとする。
漢字のやつと言っても、ピンとこないのだ。
「じゃあ。モアイ像っぽいので、土偶とかどうですか?」
と俺は言った。
「おお土偶か。やってみるで」
と音無さんは言った。
文字が百相から土偶に変わり、
身体が土偶に変化していく。
キャバレーの客、ホステス、店員がいっせいに立ち上がり拍手をした。
スタンディングオベーションだ。
音無さんは、その様子に驚いている。
「いや。俺今、スタンディングオベーションされてんで。
こんなん初めてや。
なんかありがとうな。お前のお陰や」
と音無さんは言った。
「いやいや。音無さんの芸ですって、腕がいいんですよ」
と俺は自分の腕を叩いた。
「そうかな。まんざらでもないな」
と音無さんは言った。
(ぱちぱちぱち)
厨房のほうから拍手が起きた。
そこにはママがいた。
「やっぱり音無さんは、芸のできる人やったわ。なぁ音無さん。たまにお客さんや、店の女の子に、あんたの芸見せてあげてくれへん?」
とママは音無さんをじっと見つめた。
「そんな。ママも口うまいな」
と音無さんは頭をかいている。
「ただとは言わないわ。私のお手製のチャーハンあげるから」
とママは作ったばかりのチャーハンを差し出す。
ママはちらりと俺のほうを見た。
これは何かを言えということだな。
「音無さん。念願の芸人デビューですよ」
と俺は言った。
「えっ俺芸人なりたかったんか?」
と音無さんは尋ねた。
「そうよ。音無さん。あなたはずっと認められたかったのよ」
と相沢は笑った。
「音無さん。あなたの力を私たちに貸して。ねぇみんな」
とママはスタッフや客の方を見る。
(ぱちぱちぱちぱち)
拍手が起こった。
「よかったですね。音無さん」
と俺は音無さんをじっと見た。
「まぁそこまで皆が言うんやったら、頑張るわ。ママのチャーハンも美味いしな」
と音無さんは笑った。
「八百井がここまでやるとは思わなかったわ」
と相沢は俺の頭をなでた。
「ありがとうね」
とママは俺の耳元でささやき、耳に息を吹きかけた。
(ひゃっ)
思わず声が出た。
「もうママ。うちのスタッフに手を出さないでね」
と相沢はむくれた。
ママは笑みを浮かべ、厨房の奥に入っていった。
音無さんに手を振られながら、
俺たちはキャバレーを出た。
「疲れました」
と俺は言った。
「そうね。緊張したわね。しかしネームド相手によくやったわね」
と相沢は笑った。
「なんか、同級生のチャラ男君のこと思い出して」
と俺は言った。
「へぇどんな子」
と相沢は尋ねた。
「あだ名がトランポリンっていうんです。
変わった人でした」
と俺は言った。
「トランポリンって……」
と相沢はスマホをいじりだす。
「もしかして。この子のこと?」
と相沢は一枚の画像を見せた。
「あっこいつです」
と俺は言った。
「へぇあんた。あの子と同級生なんだ」
と相沢は言った。
「相ちゃんも知っているんですか?」
と俺は尋ねた。
「知っているもなにも、彼はかなりの実力のある霊能者よ。
ライバル企業の幹部クラス。
落としのトランポリンとも呼ばれるわ」
と相沢は言った。
落としのトランポリン―――
チャラ男君も、そうだったのか。
ふと腕の違和感に気が付く。
腕がかゆい。
俺は腕を見た。
するとそこには、黒い腕輪のような跡があった。
蛇のような形で動いて見えた。
「うわ。なんだ」
と俺は思わず叫んだ。
「なに?見せて」
と相沢は俺の腕を引っ張り、跡を見た。
相沢の顔から血の気がひくのが見てわかった。
……
都内某所。
湾岸沿いの道路を、黒塗りの車が滑るように走っていた。
窓の外には、灰色の海と倉庫群。
夕方の光が、水面に鈍く反射している。
運転席には黒服の運転手。
表情は固く、前だけを見ている。
助手席には、黒いスーツの女。
秘書らしい佇まいで、背筋を伸ばして座っていた。
後部座席には、ひとりの若い男。
金髪。
ひょうたん柄のアロハシャツ。
その場の空気から、明らかに浮いている。
男は足元のクーラーボックスを開け、
氷の中からカレーパンを取り出した。
包装もなく、少し湿った紙に包まれている。
男はそれを、何の躊躇もなくかじった。
車内には、静かなエンジン音。
そして、パンを噛む小さな音だけが響いていた。
「トランポリン。前から気になっていたのだけど、カレーパン、なぜ温めないの」
と秘書らしき女は尋ねた。
「愚問やな。それはプリンをなんで冷やすんですか?と聞いてるようなものやで」
とトランポリンと呼ばれる男は笑った。
車の中を沈黙が走る。
「ふふふふふ……、
神原のやつ、とうとう芽が生えたで」
とトランポリンと呼ばれる男は笑った。
そして傍らにあったコーヒー牛乳をぐいと飲み干した。
END
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は完結していますが、
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