第28色
アールの一言で、目を見開いて固まるエレン。写し子として生まれたからには、定められてしまった運命を理解する。それと同時に、その結末を自分に聞かさないようにしてくれていたアールに対して、複雑な想いが生まれていた。
「……それともう一つ」
「な、何……?」
「俺とエレンは、歴代の中でもかなり特殊なんだ……先代までは、姿は似ていても、力の発現は一部だけで済んでいた」
振り絞るように、言葉を選びながらエレンに説明を続ける。次の言葉を聞かせた時の彼女が、どんな反応をするのか想像に難くない。どんな表情をするのか見たくない。彼女を連れて逃げてしまえるのなら、どれだけ気が楽だったか。そんな思いを巡らせながら、重い口を開く。
「俺たちは、神下ろしの為の器だ。写し子として完全に力を覚醒させたら、いずれこの体を二柱に明け渡して、二人揃って人格を上書きされることになる」
「……え……?」
「写し子の代を巡り巡って、神代回帰なレベルの力が蓄積されて生まれたのが、俺とエレンだ。ほぼ、二柱の直接の生まれ変わりと言ってもおかしくない」
「……人格を、上書きされる……って、ことは、私とアールとしての存在は……」
「……記憶も全て無かったことになる」
「っ!! そ、んな……」
狼狽えているエレンの言葉に答えれば、彼女の頬を涙が静かに伝っていく。これまでの写し子よりも酷な運命であることを知っていたからこそ、この事実はできる限り話したくないと、アールは頑なに決めていた。気丈でいられる彼女であっても、受け入れるにはあまりにも荷が重すぎる。
制服を着て任務に赴く際のエレンは、中立的な判断も素早くでき、あまり悩まずさっぱりしているところが多い。しかしこの話を聞いてからは、アールの想像通りそんな殻はとうに脆く崩れ、本来の彼女としての感情が溢れていた。
「そん、な……そんなの、いやよ……わたし、私も、みんなの役に立ちたいのに……!」
「エレン」
「それに……! それに、私……っ」
「エレン!」
「私ずっと……! アールのことが、好きなの……っ」
「……っ!」
「す、き……好き、だよ、なのに……なのに私も、アールもいなかったことになる、なんて……!」
「……」
普段の穏やかな彼女にしては珍しく、幼な子のように泣きじゃくりながら、自分の素直な想いを吐露していく。アールは何も言えず、はらはらと涙を零す想い人の頭をそっと抱き寄せ、壊れ物を扱うようにただ優しく髪を撫でることしかできなかった。残っている片腕で、そのまま彼女を力強く抱きすくめることもできるのだが。余らせた手の行方に一瞬戸惑いながら、自分の気持ちさえ拳を握り固く抑えてしまう。
「……エレン」
声が震えないよう動揺を隠し、再び重く口を開く。




