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聖フラグ3-1

「大体こんなもんですかね」


「やっと終わり……? 軽い気持ちでお願いした事を後悔しているわ……」


 俺の言葉に(うらら)さんが嘆息する。


「施設だけは一通り揃ってますからね、この学園。だから」


「──こう言った人目のつかない場所や死角が至る所にあると」


 言いつつ、メモ帳を取り出してサラサラと何かを書き込んでいく。

 恐らくは場所の概要かな? こういう場所は大抵が建物の陰とかになっていて似たり寄ったりだし、他の箇所と区別する為に何かしらの特徴をメモしているっぽい。勤勉だ。


「やー、少年もごめんね。病み上がりの所なのに引っ張り回して」


「ちゃんとした依頼は基本的に受諾するんで」


 まあ、義務で補習を受けた後、麗さんに捕まって「噂で聞いたけど、君は報酬さえ払えばなんでもしてくれるんだよね?」と言われた時は、かなり身構えたけどな。前科あるから。

 ただ、その内容は俺が想像するよりもかなり真面目な物だった。


「それにしても……頼んだ側でこう言うのもなんだけど、人気のない場所について詳しすぎない?」


「……色々あったんで」


「ふーん? 君も隅に置けないね?」


 記憶にはあるけど、それはあくまでも転生する前の俺がやった事で、自身が体験した事じゃないからなあと説明を省いたら勘違いされました。

 女の子を連れ込んだ事は一度もねえよ! ……いや、桐原先輩との追いかけっこを連れ込みに入れるのであれば或いは?


「麗さんが想像しているようなことはしてませんよ」


「あはは。冗談冗談。あたしも生徒会長さんから少年の話は聞いてるし」


「そうですか」


「おや、素っ気ない。良いんだよ、照れなくて。学園の風紀を正すなんて立派な事じゃない」


「なんの事か分かりませんね。俺は問題児で寧ろ風紀を荒らす側ですよ」


 少なくとも大なり小なりの騒ぎは起こしているし。平穏な学園生活を送りたい人からすると迷惑千万な存在だろう。


「ほほー。軽度の問題を起こして風紀委員から逃げる先に、偶々カツアゲや虐めの現場があっただけって?」


「……」


 なんだ? ただ話を聞いただけにしては詳しいな、この人。

 幾ら会長でも、外部の人間に対してここまでの情報は落とさない気がするんだが。加害者の大半が反省した上で更生したとは言え、ぶっちゃけると身内の恥みたいなもんだし。

 ちなみに更生後の奴らは俺に対してめちゃくちゃ怯える様な目を向けてくるようになった。俺は何もしてないのにどうして。


「ありゃ、警戒させちゃったかな。ごめんごめん。先にちゃんと伝えとけば良かったね」


「?」


 メモをしまい、こちらを向いた麗さんが丁寧に頭を下げる。


「弟を虐めから助けてくれてありがとう」


「……はい?」


 寝耳に水ですけど?

 とりあえず、頭を上げて貰って良いですか?


「恥ずかしながら、弟が虐めに遭っていたと知ったのは全てが解決した後でね。だからこそ、君には本当に感謝しているの」


「現場を制圧したのは桐原先輩で、諸々の処理をしたのは生徒会長だと思いますけど」


「その桐原先輩と会長の両人が『礼を言うなら海鷹に』って。だから、弟も君に感謝を告げたと思うんだけど……」


 ……それは覚えてないな。

 あの頃は、先輩の風紀委員内での地位向上を狙うため、新聞部と協力してそう言う現場に片端から誘導してたとは言え、数が数だったんよなあ。

 入学当初の学園は風紀委員のやる気がなさすぎる上に事なかれ主義の教師陣だらけで、結構荒れていた……らしい。記憶によると。それにしても隔週くらいの周期で問題起きていたのどうかと思うぞ。犬も歩けば棒に当たるじゃないんだわ。


「その様子だと覚えてないみたいだね。つまり、こう言う人助けは君にとっては当たり前で、日常的だったという事かな?」


「いいえ?」


 買い被りすぎです。俺はそんな立派な人間じゃない。というか、立派な人間がこんな世界望まんやろがい!

 何より、その人助けは現在の俺がやった訳じゃないし。評価されればされるほど、とてつもなく居た堪れない。


「聞けば、夏休み明けからの半年足らずで学園の澱みを一掃したらしいじゃない」


 行動力の権化かな?

 誰だそいつ。俺の事だったわ。知らないよ、こんな俺!


「まあ、俺が手を出さなくても会長ならいずれ何とかしたと思いますけどね」


「そうかな? ああいう立場のある人って逆に派閥争いとかで雁字搦めになりそうだけど」


 一理ある……か?

 確かにこの学園には亜久野君みたいな口の出しにくい資産家の子息子女も通っているが、あの会長が後々の付き合い方や影響を考えて遠慮をするのか? あの会長だぞ?

 分からない。少なくとも、俺のデータにはない。

 そもそも、現場に突入する先輩は相手が誰であろうと加害者を一刀の元に切り捨てていたんだが……? あの人は確か会長と連携を取っていた筈で……雁字搦めってなんだっけ? 自由に振る舞う事だったかな?


「会長の事はともかくとして。麗さんがどうしてこんな依頼をしてきたのか、やっとその意図が分かりました」


 意味が分からなくて首傾げたもんな、最初。「学園内で人の出入りが少なく、虐めの現場になりそうな所を全て案内して欲しい」なんて、臨時で雇われた清掃員から言われると思わんて。


「折角綺麗になった学園を維持したいと思うのは、清掃に携わる身として当たり前じゃない?」


「ですね」


 その根幹にあるのは、第二第三の弟を出したくないという想いか。身内に起きかけた不幸をこの学園から二度と出さないようにと。

 そうして、麗さんは業務の傍らで密かに目を光らせるのだろう。


「あわよくば傷心中の男の子に声を掛けたら、そのまま食ってしまえるかもしれないし」


「あ、そこはブレないんですね」


 ちなみに、この後ちゃんとしたお礼の品も貰いました。



「そんな訳で、聖。デカいプールで遊ばねえか?」


「え?」


 麗さんの依頼がいつ終わるか分からなかったので、学園の図書館で時間を潰して貰っていた聖を拾い、いつも通りプールの更衣室へ向かう道すがら、つい先程麗さんから報酬として貰ったチケットを見せる。


「そ、それってデート……」 


「いつまでも同じ環境ってのは芸がないしな。それにアミューズメントパークで色んなプールを体験したら、水への恐怖心や抵抗も薄れるかもしれないし」


「ああ、うん。分かってた。分かってたよ、ルミナがそう言う奴だって事くらい」


 あれ? 何故か聖が白けているんだが。なんで?


「とりあえず、このチケットで4人誘えるみたいだし、水夏と隼に声を掛けるか」


「しかも、二人きりですらない!」


「当たり前だろ。お前に何かあった場合、俺一人じゃ責任を取れない。せめて、事情を知っている奴が後二人は欲しい」


「くぅぅ、ボクの事を案ずる発言にちょっとときめいちゃうのが憎い!」


 テンションの乱高下が激しいんだが、本当に何があった?

 あと、背中をバシバシ叩くな。思いのほか痛いぞ。俺はか弱いんだ。


「あ、やっと来た」


 なんてやり取りをしていたら、その声が届いたのだろう。更衣室近くの壁へ所在なさげに寄り掛かり、桃色の髪先を指で弄んでいた少女が顔を上げた。


「杏樹……?」


「何よその顔。あーしが居るのがそこまで意外?」


 意外ですとも。だって、ギャルって何かしらの用事がなければ、学園に寄り付かない存在だと思っているし。ギャルと学園って親和性が皆無でしょ、個人的見解だけど。


「学園に何か用事が?」


 さり気なく聖を背中に隠しつつ、杏樹と視線を合わせる。

 普段と違い女子の制服を着ているとは言え、じっくりと観察されたら聖だとバレる可能性があるし。


「ルミナを待っていたに決まっているでしょう?」


 決まっていたらしい。だから「やっと来た」って言ったのか。


「俺がなんで学園に居るって」


「水夏に聞いたの。補習になっているから学園に行けば会えるって。なにアンタ、そんなに成績悪かったの?」


「それなら教室の近くで待っている方が確実では。なぜ更衣室の前に……?」


 わざと低い点を取ったなんて説明するとややこしい事になりそうなので黙殺。代わりの疑問を口にする。


「その当の本人が既に教室に居なかったから、教室の近くで待つという選択肢は消えたわ」


 だって、テストを解き終わったら解散して良いって、エレちゃん先生が言ったんだもん。

 所詮は義務補習だから、サクッと終わらせて即座に退室したよね。まあ、その直後に麗さんに捕まった訳だが。


「それで、どうしようかと悩んでいたら妙な噂を聞いて」


「妙な噂?」


「そう。最近、ルミナが見た事のない女子に泳ぎを教えているって」


 ぎくりと、背後に居る聖の雰囲気が強張る。


「だから、用事ついでにその真相を確かめるべくここで待っていたわけ。……それで? その子を紹介はしてくれないの?」


「取って食わないか?」


「食わないわよ! アンタの中であーしはどんな印象なの!?」


「……へへっ」


「笑って誤魔化すな!」


「どうどう。落ち着け杏樹。そんな圧を出されると後ろに居る子が萎縮する」


「誰のせいだと……!」


 俺の勝手すぎる言葉に憤る杏樹。いや、すまん。どうにか対面を拒否出来ないか試行錯誤してたんだが、流石に厳しそうだ。

 いけるか、聖……?


「……うん」


 肩越しに視線を投げかけると頷きが返ってきた。

 ふむ。よくよく考えなくとも、こういう場面に遭遇した際のシミュレーションくらいはしているか。それなら、下手に庇い立てしなくて良かったかもしれん。

 やれやれ。完全な取り越し苦労だったか。


「こっ……コンニチハ」


 そして、俺の背中から出て、すぐ横に立った聖の第一声がこれである。

 なんでカタコト。


「え? 姫川……?」


 当然のように即バレしとるし。あの、聖さん?


「ち、ちちち違うよ!? ボク、姫川、知らない!」


 ……こんなんもう自白だろ。

 ほんと、よくこれで今まで男装がバレなかったもんだなあ……。

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