眠気(レベル99)
眠気に耐えながら授業受けて、さっさと帰って、何をとは言わないけど結季ちゃんにやることやって何時間か掛けてわたしを刻み込んで。
それで、とりあえず結季ちゃんを許してあげることにした。
まあ結季ちゃんも反省してるみたいだったし、わたしもそこまで鬼じゃないし。
それで、そのまま寝ちゃっても良かったんだけど、色んなものでベタベタしてるからさすがにってことで、今は早めのお風呂に入っている。
正直今すぐにでも倒れそう。眠気で。
シャワーの水音は子守歌に聞こえるし、温い水蒸気は布団だった。それで結季ちゃんもいるんだから、快眠三点セットが綺麗に揃ってしまっている。
目を閉じた瞬間一気に夢の世界に引き摺り込まれるみたいだ。
結季ちゃんの髪を綺麗に洗うって言う使命が無かったら、今頃バッタリといっていることだろう。
「ごめんなさい、今日は背中もお願いしていい?」
眠気に飲まれそうでも、結季ちゃんの声はちゃんと耳に入ってくる。わたしえらい。
結季ちゃんの長い茶髪に隙無く付いたシャンプーを洗い流しながら耳を傾ける。
「麻依のせいで体が痛くて。さっきあんなに弄ばれたし」
「それは結季ちゃんが悪いんじゃん」
「それは……そうなのだけど」
わざとらしく「あいたたた」なんて言いながら振り向く結季ちゃん。
「痛いのは本当だから、ね?」
ベッドの上でもこのぐらい顔火照ってたなあ。なんて、結季ちゃんの顔を見て思った。質感というか、感じるものは当然違うけど。
「しょうがないなあ。背中だけだからね」
「ありがとう」
シャワーを止めて、手に取ったボディーソープを泡立てる。
結季ちゃんとのお風呂に恥ずかしさを感じなくなったのはいつ頃だったっけ。
最初のころは慌てふためいてた記憶があるんだけど。
今はもう普通って感じ。結季ちゃんのすべすべ肌に触って、良い感じの強さで背中を塗りつぶすみたいになぞる。
こうして普通に洗えるようになったのは成長……成長? 結季ちゃんの素肌に直接触れるようになったんだから、一応成長なのかな。最初のままだったら結季ちゃんに迷惑掛かってるわけだし。
何事もなく洗い終えて、手に残った泡を結季ちゃんに渡す。
「残りはちゃんと自分でやってよ?」
「わかってるわ」
先に結季ちゃんに洗ってもらってるわたしは、一足先にお風呂に入る。
結季ちゃんすぐ逆上せるから、この順番で入らないとバラバラに出ることになっちゃうし。
浴槽の中に体を納めて、ホッと息を吐く。
肩まで浸かっていると、なんだかわたしが解けていくみたいだった。
繊維という繊維が離れ離れになって、わたしという存在そのものがお湯の中に浮かぶ。そしてそのまま、どこか遠くへと……。
「麻依、寝ないでよ」
「えっ……あっ」
結季ちゃんに言われて、一気にわたしの体が形を取り戻した。現実に戻ってきたとも言う。
それも一過性のもので、すぐに瞼が閉じそうになってるんだけど。結季ちゃんを洗うって言う仕事もなくなったし、この眠気でお風呂の気持ちよさに耐えられるはずもない。
「眠っちゃわないように結季ちゃんと何か話してたいなあって」
「何かって難しいわね」
「本当になんでも良いから」
「だからそれが難しいのだけど」
体を洗いながら「うーん」となやむ結季ちゃん。話してなくても見てるだけで起きてられるかもしれない。
「……お風呂で眠るのは、眠るじゃなくて気絶らしいわ」
「へえー。そうなんだ」
話題を繋げたくても、繋げられない。
ここで空しく会話が終わった。
「だから言ったじゃない難しいって。すぐに洗い終えるから待ってて」
「はーい」
眠気に抗うために、結季ちゃんの動作一つ一つを視覚に捉える。
結季ちゃんの動きはとても早い。なんて、まあわたしが急かしてるから当然なんだけど。
それに加えて、結季ちゃんはわたし以上に眠たいだろうし、わたしがしたお仕置きで疲れてるだろうし。
結季ちゃんより多めに寝れてるわたしがこれなんだから、わたしに見せてないだけで限界が来ていてもおかしくない。
結季ちゃんはぱぱっと泡を洗い流すと髪をまとめて、わたしと湯船の隙間に入ってきた。
そのまま軽く膝を立てて座って、わたしも結季ちゃんの足の間で緩い体操座りをする。
親が子供に読み聞かせするような体勢……って言うとわたしが子供みたいでなんか嫌だけど。
「寝そうになったら起こして?」
「……その時は私も寝ちゃおうかしら」
なんて言いながら、目を瞑ってみせる結季ちゃん。
閉じたまま全然開かなくて、本当に眠っちゃいそうな安らか具合だったから急いで叩き起こす。
「ちょっと結季ちゃん。そんなことしちゃったら、二人で溺れ死んじゃうじゃん」
結季ちゃんはとろんとした、夢を見ているような目で。
「二人で眠るみたいに心中して、誰にも見つからないままゆっくりと溶け出して、この湯船の中で一つになるの」
「……それ本気で言ってる?」
「ええ……」
結季ちゃんは一瞬固まると、ハッと意識を取り戻したみたいで。
「冗談よ。いつも麻衣が嫌がってることだし」
「だよね。うん」
眠すぎたから出てきた言葉だとも思うし。
……理性が働いてないってことは、むしろ本心だったりする?
いまいち結季ちゃんを信じられないのはなんでだろう。……一回前科あるしなあ。なんて。
とにかく目は冴えた。冴えざるを得なかったって言ったほうが正しいけど。
結季ちゃんと一つになりたいって思うことはあるけど、死んじゃってからじゃ意味が無い。
「早く出よっか。寝たいし」
「ええ」
一分ぐらいだけ浸かって、すぐにお風呂を上がる。
じっくりコトコト煮込んだスープはさすがに勘弁願いたい。本気じゃなくても、この睡眠不足な状況だと不慮の事故でってことも有り得るし。
もうわたしも結季ちゃんも限界だから言葉少なに着替えて、そのままベッドに……といきたいけどその前に。
「寝ないの?」
自分の部屋じゃなくて、リビングに行こうとしたわたしを、結季ちゃんが腕を掴んで止める。
「髪の毛乾かさないと」
「そんなの別にいいでしょ?」
「だめだって。結季ちゃんの髪の毛痛んじゃうし。わたしのは別にどうでもいいけど」
「……麻衣が、そう言うなら」
めちゃくちゃ眠たいんだろうなあってわかる嫌々具合だった。
「だけど、それなら麻依もちゃんと乾かすこと。私からしたら麻依の方が大事だから」
「うん。わかった」
リビングに行って、まず結季ちゃんにドライヤーを掛ける。
さらさらだとか、綺麗だとか、そんなことを考える余裕はなかった。眠いし。
飛びそうになる意識を押さえつけて、どうにか仕事を遂行する。
「結季ちゃん、終わったよ」
返事が来ない。
「結季ちゃん?」
回りこんで、結季ちゃんの顔を覗く。
「……寝てる」
座ったまま。それはもう、起こせそうにないぐらいにぐっすりと。
やっぱり限界だったんだ。
どうしようかな。
「わたしも寝よう」
下はただのカーペットだけど、今の眠気ならどこでもベッドみたいなものだった。なんならコンクリートでも寝られると思う。
結季ちゃんの言いつけ通り、自分の髪を雑にだけど乾かして、結季ちゃんを横にする。
その隣に寝っ転がって、眠る前に、結季ちゃんがお風呂で言ったことを少し思い出した。
来週から更新日を土曜日に変更します。




