本編 2
感想をいただきました。ありがとうございます!
読んで下さる方がいらっしゃると、励みになりますね。
話は全体的に大雑把に出来ていますが、纏めるのは難しいですねσ(^_^;)?
今回は、お兄ちゃんサイモンの視点です。
入室する人の気配を感じ、王の筆頭補佐官を務めるサイモン・アンバートは顔を上げた。爽やか且つ品があり気持ちの落ち着く香りを放つ人物が、床まで届く長い衣裳の裾を捌きながらすべらかに静かに入って来る。
ここは王宮と後宮の境に設けられた、後宮内に住まう者に後宮外に属する者が面会する為の部屋である。後宮は性質上、王以外の男性が入り込む事を嫌い、一部の許可された者以外はこの応接室で面会する事になる。勿論二人切りでの面会は有り得ず、今日も護衛と侍女が侍っていた
「お兄様、今日も息災な様で何よりですわ。」
向に腰かけ自分に声を声をかけた、最愛の妹を見つめる。今日も知り得る限り最高の美貌が、柔らかく自分に微笑みかけている。他人は自分とよく似て主いるなどと言うが、サイモンに言わせれば可愛げの無い魔王と言われる自分とは違い、繊細で幻の如くなよやかな妹は天使だと思う。実際自分の主たる国王陛下は、妹の事となるとその聡明さを笑える位に失ってしまう。
この妹は生家で不遇の生活を送っていた。
兄バカであるサイモンがその様な事を見過ごせる筈も無く、父に進言し改善を図ろうとしたのだが、結果は自分の廃嫡と芳しいものにはならなかった。それでも当時王太子であった陛下の補佐官に任命され、あっという間に筆頭にまで登り詰めて、なんとか妹を引き取る希望を持つ事が出来た。
計算が狂い出したのは、妹と一緒に住む為の住居を探した時からである。会う度痩せていく妹を案じ、先ずは賃貸の物件を探したのだが、丁度その頃積極的登用が始まった平民の文官が住む物件の不足が問題となっていた。通常平民が住む三の郭からでは王宮に通勤するのには遠く、一番距離が適した一の郭は上級貴族の屋敷しか無く、通勤圏と言える二の郭も下級貴族の屋敷を除くと、限られた小さな住宅や集合住宅が有るのみ。当然手頃な賃貸物件から無くなっていき、サイモンが探した限りでは、一部の売り家以外は見付からなかった。そして補佐官として任官したばかりで何の後ろ楯も無いのサイモンに、それらの物件を購入する財力は無く、己は文官用の独身者用官舎に住まいながら、妹と一緒に暮らせる住居の購入を目指す事となった。
だがそんなサイモンを嘲笑うかの如く、父公爵は妹を側室として後宮に納める事を決めた。たった1ヶ月の準備期間をおいただけで、サイモンの愛しくてたまらない妹は、彼の主の側室として後宮に上がる事となった。
それが5ヶ月前の事である。
「ああネリィ、お前も息災な様で何よりだよ。」
サイモンは柔らかい微笑を浮かべて最愛の妹に声をかけた。
間違い無く普段の彼を知る人が見たら、同姓同名の別人ではないかと思うほどに、サイモンは蕩ける様な表情を浮かべていた。
そこには常に周囲を氷りつかせると評判の、『氷結の貴公子』は何処にも存在しなかった。
国王ガーランド二世陛下の筆頭補佐官サイモン・アンバートは、妹を溺愛している。
彼の人生に於いて、好意を持っていると断言出来る人物は少なく、愛していると言える人物は更に少ないが、この妹はその中でも最上級に位置している。尤も最上級に据えられたのは、亡き母の前アンバート公爵夫人イオナと妹の二人だけだ。ユーネリアと同じく、彼も母を亡くした時から厳しい人生を歩み、徹底的に周囲の人物を見極める事を余儀無くされた。
「敵か味方かそれ以外か。そしてそれはどの程度か?」
その見極めに自分と妹の未来が命がかかる。追い詰められ厳しい状況での見極めは、サイモンの精神を大きく削ったが、確実に彼の重大で有用なスキルを培った。
現在、サイモンの上司たる国王陛下や宰相閣下の、彼に対する評価の一つが『人を見極める目の確かさ』が有り、それは大きな信頼となって彼の価値を上げている。お陰でユーネリアが後宮入りする際、侍女や護衛といった側に遣える者達の人選を願うと、あっさり許された事は有り難かった。(それは父公爵との不仲も当然考慮に入っていたが・・・・・。)
大事な妹に己の考え得る最上の者達を付けられた。彼女を守る為の大事な準備を調えられたのだ。今の布陣は、サイモンにとってもユーネリアにとっても、理想的と言えると自負している。
その大事な布陣の重要な一角を担うのは、この場にも控える侍女のフローラだ。
フローラは元々公爵邸の使用人であったが、義母の嫌がらせに因り馘首された者達の一人だった。特にユーネリアと仲が良かった為、かなり初期の段階で公爵邸を出される事となった。ユーネリアが後宮に納められる事となって、サイモンが真っ先に侍女の打診を行ったのがこのフローラであった。側室達の権力争いの為、魑魅魍魎跋扈する後宮で妹の精神的支えになれるのは、フローラ以外いないと踏んだ為である。国内でも有力な商家の娘である彼女は、美しい上に非常に賢く胆力も有り機を観るに敏い。何よりユーネリアに友愛の情が有るのは、間違い様が無い。妹の側に侍るには文句の付けようが無い人物と言えるだろう。
またフローラの兄であり、実家のワルター商会を継ぐ長兄ヘンリーもサイモン兄妹にとって、心強い存在である。大きな商会の跡取りとして教育を受けた彼は、昔からサイモン兄妹の数少ない友人でもあった。サイモンにしろヘンリーにしろなまじ賢い頭脳を持つ為、対等な友人関係を築く事が出来る者が少なかった。彼等は友人となって間も無く、お互いの妹が自分にとっても妹であると言える程の関係となっていた。勿論、ユーネリアが後宮入りすると聞くと、影から支える事を自ら申し出てくれた事は心強かった。
当然、もう一人の同室者である護衛も、サイモンが選んだ人物である。王宮に侍る騎士でなければこの場の護衛にはなれない。
流石に騎士でユーネリアと面識の有る者、などいる筈も無いので、サイモンは一から護衛の評定をしたくてはならなかった。数多の騎士の中から、サイモンはこのルーファスを選んだ。腕前は陛下の御墨付きで有り、人格はサイモン自身が観察して選びに選び抜いた人物である。寡黙ではあるが陛下への揺るぎ無い忠誠以外に、弱者への慈悲や周囲への公平性を評価した。
彼なら「アンバート公爵家の娘」という外の評価に騙されず、ユーネリア自身を観てくれると思ったからだ。その彼が今ではユーネリアにも心酔している様子を見ると、サイモンの人物評定は誤ってはいない様である。
「どうだ、後宮は?変わりは無いか?」
と、サイモン問うとユーネリアはフワリと笑って答えた。
「変わり有りませんわ。陛下のご様子も、食事に毒が入っている事も。」
サイモンは眉根を寄せた。
そんな彼に妹は艶然と微笑み、更に言葉を継げた。
「あら、お兄様。致死量かそうでないかの違いではありませんか?大したこと有りませんわ。」
『いや、大きな違いだろう?!てか、何でまだ毒を盛られる?!』
と、いうサイモンの盛大なツッコミは、ユーネリアの涼やかな微笑みに飲み込んでしまった。
読んでくださってありがとうございます!
遅筆なので時間はかかりますが、頑張って書きたいと思いますか