予選の前に宣戦布告
予選に入るつもりだったのにまだ、予選に入らなかった……。次回こそはきちんと予選に入ります。
翌日の朝。鉄に連れられて馬皇たちは大会の会場に向かっていた。
「着いたぞ」
鉄の言葉に馬皇たちも辺りを見渡すがそこは宿泊していた旅館の一階であり来た時と同じようにエントランスとロビー、部屋に行くための階段とエレベーターしかなかった。
「いや……。先生。着いたって言われてもここまだ旅館の中なんだけど?」
馬皇がそう言うと真央たちも困惑気味にうなずく。鉄はその反応を楽しんでいるのか大声で笑い始めた。
「はっはっは‼ その答えはついてくれば分かる。俺もお前らぐらいの時にここを訪れたがびっくりするぞ」
そう言ってエレベーターの扉を開ける。鉄はエレベーターに乗る。馬皇たちはポカンとしたまま立ち止まっている。鉄は動揺した馬皇たちを呼ぶ。
「どうした? 乗らないのか?」
「あ、ああ」
鉄の呼びかけに馬皇は真央と由愛、サライラに目配せをする。真央と由愛はうなずき、サライラは馬皇の背中に乗る。サライラの行動だけは訳が分からなかったが馬皇は恐る恐るエレベーターに乗る。何もないことが分かると真央と由愛に目で合図を送る。それに合わせて同じようにエレベーターに乗った。
「よし乗ったな」
鉄は馬皇たちが乗ったことを確認するとエレベーター喉扉を閉める。
「それで? どうするんですか?」
馬皇はこれに乗ってどうするのかを鉄に聞いた。
「これから実演する。明日も来ることになるから覚えておくように」
そう言って、エレベーターの1階のボタンを長押しする。10秒くらいだろうか。長押ししているとエレベーターの中央から台が現れる。そこにはB10と書かれているボタンがあった。
「この旅館の1階で中央の台が出るまで長押しするとこのように地下に行くためのボタンが出てくるんだ。1階じゃないと意味がないから注意するように」
鉄がそう言うと真央たちは開いた口がふさがらないと言った様子で鉄を見る。真央は恐る恐る気になっていたことを言った。
「あの? 昨日温泉に入っていた時に大きなドームが見えていたんですけど……? あれが会場じゃないんですか?」
真央の言葉に鉄は憐みの籠った目で言った。
「違うぞ。そうか、あれが見えてしまったのか……」
「え? 見えたらそんなにまずいのあれ? 由愛も見たでしょ。あのドーム」
雰囲気の変わった鉄に真央は動揺して由愛に聞く。
「え? 昨日のお風呂でですか? ドームなんて見てませんよ。指さしてたのは昨日船から見たときにはこの旅館やホテルとかが見えなかったことに対して言っていたのかと思ってましたよ? 私」
由愛の反応に真央は困惑する。
「嘘よ‼ あの時確かに不自然なドームが有ったわ。それで、鉄先生あのドームってなんだったんですか?」
真央は信じられないという様子で鉄に聞く。
「私も見えはせんが一度だけいろいろあって言ったことがあるんだが創作系の異能者たちの実験施設でな。作るものが有用で身代わりの宝珠などを作っている施設なんだがあまりにも考えなしにいろんなものを作り出してな……。その、な」
鉄のあまりにも歯切れの悪い言葉に真央は問い詰める。真央の顔は真剣そのものである。
「見えると何が不味いんですか?」
「その施設がちょっと特殊でな。実はマッドな変人の集まりで奴らは自由に物を作るためにあの施設を作ったんだが。あの施設は同類たちと特殊な道具を持った人間にしか見えない仕組みにしているんだ……。同類を見つけるために」
鉄の言葉に真央は崩れ落ちた。
鉄は教師である。超人的な身体能力を持ち合わせてはいるが教師なのである。しかも、多くの生徒から慕われている。一応は比較的にまともな部類の人間に入るのである。そのような人間からあなたは変人だと言われたらどうなるのか。つまりそう言うことである。
「私が変人……。変人。ふふ……変人」
うわ言で変人を連呼する真央。鉄もさすがにこのままではまずいと思ったのか馬皇に目を向ける。馬皇は鉄の視線に気が付くと溜息を吐いて真央に言った。
「気にすんなよ。お前が変人でもボッチでも俺は気にしないしな」
デリカシーなく真央の傷口に塩を塗る馬皇。真央は馬皇の言葉にカチンと来たのか正気に返って言い返した。
「誰がっ‼ 変人よ‼ それに、ボッチでもないわ‼ このすっとこどっこい‼」
「なんだとっ‼ このマッド‼」
「ばーか‼ ばーか‼」
「このちび貧乳が‼」
「言ってはならぬことを‼ お前は私を怒らせた‼」
先程とは打って変わって盛大な口げんかを始める馬皇と真央。そのまま頬の引っ張り合いが始まる。このままにしておくといつまでたっても終わらないと判断した由愛は2人の中に割って入った。
「いい加減にしてください‼ まだ、エレベーターの中なんですよ。このまま止まったままだと後で乗る人たちの迷惑になるのでここでの喧嘩はやめてください‼」
由愛の言葉にばつが悪くなったのか馬皇たちは静かになった。
「……それでだな。これで降りたら会場に到着するわけだ。エレベーターから降りたら受付に行くぞ」
これからすることを鉄が伝えると馬皇は切り替えたのか楽しそうに言った
「そうか。これから始まるんだな……。闘技大会」
「せいぜい、私と当たるまで勝ち残りなさいよ」
「そっちこそ‼ 俺と当たるまでに負けるんじゃねえぞ」
馬皇と真央はさっきまでの口げんかと打って変わってライバルに楽しそうに宣戦布告をする。こうして、ようやく馬皇たちを乗せたエレベーターが動き出すのだった。
感想、批評、評価、ブクマ、誤字の指摘などしてくれるとうれしいです。




