そして紳士もやって来る
どうしてこうなった‼ どうしてこうなった‼
あいも変わらず想定しない方向へいく。
馬皇と別れた後、途中まで帰り道が一緒の真央と由愛は一緒に歩いていた。
「馬皇さん、大丈夫でしょうか?」
「心配するだけ無駄よ。少なくとも相手は戦う気はなかったから。仮に戦うにしても馬皇は簡単にやられたりする奴じゃないわ」
真央の評価に由愛は信頼してるんだなとクスリと笑った。
「やっぱり仲良いんですね」
「仲が良いわけないじゃない。第一ライバルなんだから私以外の誰かに負けるなんてあって欲しくないだけよ」
「そうですか」
真央は馬皇との仲を強く否定する。しかし、由愛は本当に仲が良いんだなと微笑む。真央は微笑む由愛に訳が分からないという風に顔をしかめた。
「何かあるんなら言いなさい」
「いいえ。ありませんよ」
「うそつきなさい。さっき、ホントに仲が良いなとか思ったでしょ」
「そ、そんなこと思って言いませんよ」
真央が由愛の思っている事を言い当てると明らかに動揺した様子で答える由愛。それに対して真央はため息を1つ吐く。
「……はあ。由愛って嘘が下手よね。もういいわ聞かなかったことにしたあげる」
「はあ、ありがとうございます?」
「なんで疑問形なのよ?」
由愛に呆れるが真央は何者かの視線を感じた。由愛の真横まで真央は近づいていく。真横まで近づいた後は真央も由愛と同じくらいの速さで歩く。
「え? どうしたんですか?」
「ないしょ話。たまにはいいでしょ」
「そうですね。分かりました」
そして、由愛に口を近づけて真央は小声で言った。
「つけられてるわ」
同じように小声で返す由愛。
「ほんとですか?」
「後ろを向かないように。下手に刺激したら襲われる可能性があるから人通りの多い所に行くからついてきて」
「分かりました。普通に会話しながらの方が良いですよね」
真央たちは小声で話すのを終了した。
「ええ。それでいいわ。それにしても由愛。今日馬皇にパフェおごらせたけどよく行くの?」
真央は今日の話の中から疑問に思ったことを聞いてみた。
「好きですよ。よく食べ歩きに行きますよ」
「今度私も一緒について行ってもいいかしら?」
「真央さんなら大歓迎ですよ‼ 一緒に食べ歩きましょう‼」
前のめりに由愛は真央に近付いた。思ったよりも食いついたようで真央は少し引いてしまった。
「そ、そう……」
その時に髪の方に虫が止まっているのに気付いた。
「あ‼ 虫がついてる」
「え‼ どこですか」
「今とるわ」
由愛に近付いて髪についた虫を追い払った。男の方から見ると真央が由愛にキスしているように見えたのかもしれない。
すると、後ろの方から倒れる音がした。
「ぶはっ‼」
真央は思わず振り向き、由愛はしっかりと音の方を見てしまった。そこには、黒づくめの男が鼻から血を流して倒れていた。
「……」
「…………」
2人は沈黙する。何もしていないのに倒れた不審者を見て呆然とする2人。しばらく、黙っていると由愛の方から話しかけてきた。
「……あの」
「なに?」
「今、人が倒れましたよね」
真央は苦虫をかみつぶした顔で一度男の方を見ていた。由愛の方を向くとそ知らぬ顔で言った。
「……ええ。そうね」
「真央さん。心当たりがあるんですか?」
「いいえ。こんな変態の知り合いは居ないわ」
顔を横に振って否定する真央。否定すると台所にいる虫のように腕と足を動かしながら真央の所まで寄ると真央の腰にしがみ付く。
「ひどいですよ‼ 魔王様‼」
男は真央の腰をしっかりとつかんで離さない。それに苛ついたのか真央は引き剥がすように1度蹴りを入れる。
「わ‼ 起きたっ‼」
男を蹴るがすぐに起き上がって同じように腰にしがみ付く不審者。それをもう一度蹴ってから地面に転がす真央。何度か同じことを繰り返して真央の苛立ちが最高になり蹴り飛ばしてからとどめとばかりに頭を踏みつける。
「このまま捨て置きましょう。行くわよ、由愛」
「ふえ? え?」
男は真央の足を掴む。
「……離しなさい」
「離しませんよ、魔王様」
悲しいことにこの変態のことを今日夢で見ていたためさっさと通報した方が世のためだと真央は考え始める。
「変態って叫ぶわよ」
「それでもかまいませんよ。警察には何度もお世話になっているので顔見知りです」
真央は大声で言った。
「……お巡りさ~ん。痴漢です。性犯罪者です」
棒読みではあるがそれなりに大きな声で言ったので慌て始める元配下。
「わ~‼ 冗談‼ 冗談ですってば‼ カワイイ配下のおちゃめなジョークじゃないですか」
必死に言い訳をする男。真央はスマホを取り出す。
「1・1・0……と」
「すみませんでした‼」
男は土下座をし始めた。そんなことするなら初めからしないで欲しい。そんなことを思っていたら真央は口に出していた。
「それなら最初からやらないでちょうだい。性犯罪者」
顔は笑っているが目は笑っていなかった。むしろ、絶対零度のごとく冷たい視線を向けられ男は完全に震えている。
「お知り合いですか?」
由愛は真央に聞く。真央は肩をすくめた。
「ええ。残念ながらね。出来れば今からでも他人のふりしてたいわ」
「真央さんがそこまでいう人なんですか」
真央はお十に指を指す。
「こいつ変態なのよ」
男は由愛の前に起き上がると丁寧にお辞儀をした。
「初めまして。お嬢さん。ケイスケ・シンシと言います。魔王様の忠実なる僕です。ところでその大きく実ったものを触らせてもらってもよろしいでしょうか?」
いきなり胸をもませろと言われて普通は「良いですよ」なんて出るはずもなく由愛は胸元を隠して答えた。
「えっと……駄目です」
「ははは。分かってますよ。すみません。ですぎた願望を言いました」
穏やかな物言いではあるがケイスケと呼ばれた男の目からは涙が出ていた。
「は、はあ」
本気で悔しがっていることが丸わかりな反応に由愛は曖昧にしか答えることが出来なかった。真央は由愛をケイスケから引き離して間に立って距離を取ろうとした。
「由愛。律儀に挨拶する必要ないわよ。いつ襲いかかるか分からないから」
同じように距離を詰めるケイスケ。ある程度歩いたらケイスケは諦めたのか真央に誤解だと言った。
「ひどいですよ魔王様。前世はこの世界にいたのですから常識ぐらいわきまえてます。それに、女の子に触るわけないじゃないですか。僕は紳士ですよ」
「へえ。紳士ね。さっき思いっきり私にしがみついてたのは誰だったっけ? 痴漢よね。それ」
「いやだな。魔王様は魔王様じゃないですか」
女の扱いではないことに真央は腹を立てつい魔王の時の口調が出る。それと同時にケイスケの体に炎弾を叩きこむ。数百は現在の状況では無理ではあるが、5つ程度であれば問題なく生成して操ることが出来た。
「ほう?いい度胸だな」
炎弾を受け燃え上がるケイスケ。ケイスケは炎を消すために転げまわった。
「あばばばばばばばば」
「さあ、行きましょう」
由愛を連れて放っておいて行こうとする真央。しかし、由愛は真央を止めた。
「いえ。置いていくにしてもここだと車の通行の邪魔になるので違うところに置いてからにしましょう」
真央は確かにこのまま放っておくのは他の人に迷惑だなと考えた。しばらくすると、良い解決策が浮かんできたため由愛にも付き合ってもらうことにした。
「そうね。悪いけどもう少し付き合ってもらえるかしら」
真央はケイスケの火を消す。
「たすかっ……」
ケイスケは安堵の声を言う間もなく気絶させられた。そして、真央は身体強化の魔法を使いケイスケを抱えた。
「連れて行くわよ」
「分かりました」
2人は歩き出す。近くの交番まで。そして交番までつくとお巡りさんにこの人ストーカーですと突き出した。ケイスケが常習犯であるのは事実だったのかお巡りさんは言った。
「またこいつか、ご協力感謝します」
お巡りさんはケイスケを連れて行った。こうして2人はケイスケを警察に突きだしたのだった。




