馬皇の戦い その1
「おいおいどうなってんだ……。こりゃ……」
馬皇の蹴りがビルの屋根と床を3つほど開けた大穴の先にあったのは明らかにビルの中とは思えない世界が広がっていた。明らかにビルの外観よりも大きい空間。大量に並べられた肉の塊。よく見ると人と近い外見をしているがそのほぼ全てが肉の塊を寄せ集めた様な外見をした生物たちが無造作に置かれていた。
「それにしても……ここはなにかの実験場なのか?」
「そうですよ。馬皇くぅん」
「屋久島‼」
馬皇は屋久島の粘つくような声に対してほぼ反射的にジャンプした。先ほどいた場所に銃弾が通り過ぎる。そのまま一回転すると回る様に走って屋久島の弾を全て避ける。屋久島が銃のマガジンを入れ替えようとすると馬皇が屋久島に詰め寄り銃を引きはがそうとする。屋久島も銃を奪われないように器用に躱して距離を取る。そのままお互いがけん制し合い身動きが取れないまま屋久島は楽しそうに声を張り上げた。
「わぉ‼ 油断してく喰らってくれればいいのに避けるとかさすがですねぇ。その判断‼ 正解ですよ。これは対異能者用の銃弾です。これを喰らえば、お前であろうとしばらくは異能が使えなくなるんで楽しくなるのですが。勘が鋭いですねぇ」
「お前の楽しいに乗ってやるかよ。狂人が‼」
「そうですか。そうですか。ここは私の実験室ですよ。私の異能で作り出した物の失敗作をここで保存してしてるのですよ」
「ちっ‼ 胸糞わりぃ」
あの闘技大会で見たのと同じ合成獣だという事を知って恍惚とした表情の屋久島に対して馬皇は言葉を吐き捨てた。
「いえいえ、それほどでも。以下に復讐する相手といえどもせっかくここまで来て下さったんですからしっかりとおもてなししないとですねぇ。さぁ‼ 目覚めなさい‼ 愛しい子たちよ‼」
屋久島の掛け声とともに並んでいた肉の塊が一斉に音を立てて動き出した。そして、合成獣たちが動き出すと同時に。馬皇は屋久島から視線を逸らさず周りで次々と獰猛な声を上げて起き上がる合成獣の軍団を感じ取っていた。
「さぁさぁ‼ これからここに収納されていた1000の合成獣の失敗作共のお相手をしていただきますよ‼ 喰らってしまいなさい‼」
「くそがぁぁぁ‼」
屋久島の声と共に獣たちが馬皇に飛びかかった。馬皇は叫びながら合成獣たちを振り払いただの肉塊に変える。しかしながら、敵の数が多かった。2桁近い生物が全方位から同時に襲い掛かってくるのだ。以下に高い戦闘力を持つ馬皇であってもさすがにこの数を一斉に振り払い切れるわけではない。一匹が体に引っ付くことに成功するとまた一匹と馬皇の身体に全身を肉の塊となって引っ付いていく。それが連鎖的に起こると馬皇を中心に肉の山となる。完全に馬皇の姿が見えなくなるが合成獣たちは次々と肉の山に張り付いて大きさを増していく。やがてしばらくもしない内に全ての合成獣たちが馬皇を取り込んで肉の山と成り果てた。
「はっはっはぁ‼ やっぱり数の暴力はすげぇな‼ これなら、確か……鉄だっけか、あの男も殺せるなぁ‼ おい‼ だが、やっぱ失敗作だなこれは」
屋久島は軽く笑い声を上げるが目は笑っていなかった。屋久島が失敗作と断じる理由。それは圧倒的な使い勝手の悪さにあった。
最初に単体では大した戦闘力がないという事。それ自体は数で補えるために大した問題ではない。
次に数をそろえるのが面倒だという事だ。人間の死体に魔物の肉を混ぜた際に膨張して分裂。生まれたのが今肉の山になる前のあの生物である。あれだけの数をそろえるとしたらそれなりの人数を必要とするのである。人間1人あたりから10~20程度と考えれば数をそろえるのは難しくないのだがそれでもこの国で人間の死体を集めるというのは面倒にもほどがある。
最後に何よりも問題なのは簡単な命令しか受け入れられないという事である。元々死体なのが問題なのか待機と襲い掛かる事しかできない。しかも製作者の屋久島と同じように作られた合成獣を除いて見境なくである。これでは使い勝手が悪いのである。しかも、成功作たちの合成獣たちは敵味方の判断はできるし人間と同等もしくはそれ以上の狡猾さを見せるのである。
「それでも罠としては使えるでしょうね。」
「おや? 皆月の旦那も来たんですか? 相変わらず神出鬼没なことで……」
「貴重なデータと資材の回収は終わったので後は屋久島を連れて互助会の連中が入ってきたところを爆破すればすべて終了です。とは言っても私の異能ではこの施設内から跳べないので隠し通路から出るためにあなたも呼びに来たのですが、すごいですね」
肉の山から目を離すと横には皆月が立っていた。
「所詮は失敗作ですよ。用途が限られすぎてる」
「そうですか。それにしても中にいる人間は本当に人間ですか? まだ生きているのですが……」
皆月の発現に屋久島は本当に驚いたのか想定していたのか、オーバーなリアクションで皆月に言い返した。
「マジですか‼ あの時の感じからして殺せたか微妙な感じだったんですけどやっぱ殺せてませんか……」
「手を貸しましょうか?」
「あ~……。出来れば後のこと考えて皆月の旦那はさっさと逃げて欲しいんですが?」
「それは無理な相談です。侵入者の存在は一目見てからでないと今後の対策が練れないので」
「無茶なこと言いやがる。俺は助けませんよ」
屋久島が嫌な顔をすると皆月は笑顔でこう言った。
「情報を得られるので報酬上乗せしますよ。それに1人で戦いたいんでしょ?」
「さすが分かってらっしゃる。金払いのいい旦那の事なんで頑張らせてもらいますよ」
屋久島はニヤリと笑うと自身の手にある銃のマガジンを入れ替え戦いの準備を済ませる。そして、肉の山が振動をはじめる。
「来ますよ」
肉の山の頂上から高速で何かが飛び出した。それを狙って屋久島が飛び出したモノに何発か撃ちこむが動きが速すぎるせいか当たらない。飛翔していたモノは肉の山の頂上に降り立つと屋久島の方を向く。そこには人型の黒竜が器用に立っていた。
「あれが特殊個体。イレギュラーのもう1体の方ですか……。」
「来ましたねぇ‼ 待ってましたよ‼ 復讐するときを‼ 馬皇くぅん‼」
『っは‼ 言ってろ‼ お前はここで仕留める‼』
竜人となった馬皇と屋久島の戦いの第2ランウンドが幕を開けた。
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今回は前書きなしです。
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