第一話 メット・ノット・ダメージ
「私の名前は守仁 香。朝起きたらトラックが家に突っ込み気づいたら異世界にいた。」
異世界。中世ヨーロッパ風で、人間と獣を足して2で割ったような奴や、恐竜のような動物までいる。
稀にアニメで見る、典型的な異世界だ。
何か能力はないか探る。異様な倦怠感に襲われているが気にせず能力を探る。軽くジャンプしてみたり、手に力を込めてみたりした。若干動きやすいくらいで、そこまで以前と差はない。
「何もないか〜。転移系で能力無しってあるんだ…。もしかしてこの倦怠感と吐き気が能力とか…? なわけないか」
倦怠感と吐き気の正体が分からない以上あまり動くのは危険である。ベンチに座り、それが治るまで待とうとした。しかし時は待ってくれない。広場で叫び声がした。1人じゃあない、大勢の声だ。
「感が言っている!これは近づいてはいけねえ!転移して早々、原住民が対象できねえような奴と戦うのは無茶だぜ!」
そんな事を思い離れようとすると、老人がこちらにきて訴えかけてきた。
「なあ、そこの姉ちゃん。助けてくれよぉ。お前さん魔法使いなんじゃろう…?」
「は?魔法使い、そんなわけないじゃん。魔法どころか倦怠感でデバフもりもりなんだけど…」
「熟してすぐ処分される豚のような儂の目でも分かるその魔力。お前さんは魔法使いじゃよぅ。そうであってくれよぉ」
「なあ、お前、これを魔力と言ったな。この異様な倦怠感は、その魔力とやらと馴染んでないからなのか?…分かったぜ爺さん。私が解決してやる。ちゃんと勝ったら、報酬金か何か寄越せよ!」
広場の中心にいるやけに無防備だが包丁を持った狂人の元に行く。
「てめえ、何もんだ?私は今、倦怠感で機嫌が悪いんだ。持ち物出してふんどしで逃げるんなら許すぜ」
「その帯びている魔力。只者じゃないな。吾輩の偉大なる能力を持ってしても油断は禁物。用心して潰すとしよう。」
香は走る。異様な程に勢いがつく。これは恐らく多大な魔力によるものだろう。
そのまま奴に向かって拳をぶつけた。しかし、手応えがない。まるで水を殴っているような気分だ。
「不思議か?吾輩の前で魔法は通じない」
「じゃあなんで態々拳を手で受け止めたんだよ!この感じだと樹脂製の手袋までしてよぉ!その能力があればそんなことしても意味ねえだろ。それともビビってんのか?」
「口数が多くなったな。ビビっている、というのはそちらの方だな。」
「嫌な野郎だぜクソが!」
包丁で切り掛かってきたため距離を離れる。能力の割には包丁を振る速度は遅い。
地面を割り、石辺を浮かして取る。半自動的に魔力を帯びてきたためそれを奴に投げた。奴は腕で防ぐ。
その瞬間に棒を拾い魔力を込めずに奴を叩いた。しかしこちらも手応えはなかった。まるでコンクリートを叩いているようだ。
「これも効かねえのかよ!」
「物理的な攻撃も効かないからな。」
流石におかしい。そんな無敵の能力存在していいのか、と。 もう一度距離を離れる。
「魔力と物理で違う感触。魔力振りで突っ込んだ時は同時に手で受け止めていた。樹脂製のグローブ。耐熱性…。そういうことか!完全に解き明かしたぜ!オメエは私の前で能力を見せすぎたんだよ!わたしゃ夜空で星座を見つけた時くらい気持ちいい気分だぜ」
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「ここまできたらやる事は一つ!逃げる!」
「やはり口だけの小娘が!勝てないと悟って逃げるか!まずはお前から殺す!」
魔力を軽く足元で発散させることで大きく跳ぶ。
香は木の上へと逃げた。木の上に着地した衝撃で花粉が舞っている。奴は木の下からこちらを見ている。
「能力の恐ろしさに気づき全力で逃げたようだがァッ!追い詰めたぞ小物がァッッ!!」
「…オメエ、最初散々油断しないと言っていたな。テメエの能力と同じですぐ矛盾するんだな。いや、極端と言えばわかりやすいか。」
香は魔力を最大限発しながら落ちる。奴は構える。魔法的な干渉を無効化したのだ。
魔力とそれ以外の擦りあいが起きとんでもない摩擦で発火する。火は舞っている花粉に飛び移り移り移り、そして爆発する。
「お前は魔法と物理両方防御できない。耐熱性のグローブは魔力でぶっ飛んで物理と魔力で叩き込む相手に対して摩擦で火傷しないようにするためだな。だからお前は完全にすべて対策したと思っていた。最初から慢心してたんだな。だからこの粉塵爆発は、防げないし能力に頼りきりだから反応が遅れる。魔力で防げばいいもののテメエはそれを怠ったんだ。どうだ、満足か?テメエが無様に負ける姿は」
奴は爆発で粉微塵となっている。周りからはこちらを称賛する声が聞こえる。いい感じに倦怠感も消えてきた。
ーーーーーーーー殺人は、あまり心地良いものではないと、そう理解した。




