リリー、対面する
間違えて違う物に投稿しておりました。
もう一度投稿します。
公爵邸の別の客間に案内された王太子妃とリリーは再びソファーに向かい合わせに座った。リリーの両隣にはアナベル夫人と、騒ぎを聞きつけたミレーヌがいる。青を基調とした部屋は従者の扮装をした王太子妃を引き立て、美青年といった雰囲気を醸し出している。化粧は限りなく薄く、前髪を真ん中で分けたことにより現れた切れ長の目が印象的な王太子妃は口元に笑みを浮かべている。
「三対一では少し寂しいわ。エルバ伯爵令嬢、こちらへ来て下さらない?」
リリーが思わず立ち上がれば、ミレーヌがすかさずリリーの手を引いた。
「お母様はこちらです。うっかりすると、王太子妃様の虜にされてしまいますわ。」
「私がそちらに座りましょう。」
ミレーヌがリリーを足止めする間に、アナベル夫人が王太子妃の隣に座る。今更座るのも、移動することも出来なくなったリリーは困ったように眉を下げた。すると、王太子妃はくすくすと笑いリリーに手をヒラヒラと振った。
「意地悪をしてごめんなさい。ミレーヌ嬢が怖いから座ってちょうだい。エルバ伯爵令嬢はここで大事にされているのね。」
「王太子妃様、リリーとお呼びください。」
ようやくリリーが座り直すと、王太子妃は上から下までリリーを見て目を細めた。
「リリー、あなたに会えて嬉しいわ。アルフレッドと殿下は幼い頃から仲が良くて、兄弟のようなの。きっと今頃は敬語なんて使わずにお話していると思うわ。私たちも仲良くしましょうね。」
クルム公爵家が王家に近いことは知っていたものの、そこまでとは思っていなかったリリーは目を丸くした。続けて王太子妃は可愛らしく首を傾ける。
「何か質問があったら言ってみて。アナベル夫人とミレーヌの前だけれど、何でも教えてあげるわ。 」
そう言われて真っ先に浮かぶのは、目の前の王太子妃の髪の毛である。リリーの視線に王太子妃の毛先は揺れた。
「まぁしょうがないわよね、こんなに違うんだもの。王城での私の髪はつけ毛よ。結婚式くらいまでは本当に伸ばしていたのだけれど、出産後って、抜けるのよ。」
「抜ける」
「そう、スーって。それで切ってみたら楽でしょうがなくて、変装にも使えるし名案だわ。」
毛先を指で触る仕草を見せられ、リリーはつい自分の髪の毛に手をやった。もちろん抜けることはない。
「では何故、つけ毛をされているのですか?」
王太子妃だから髪を短くしてはならないという決まりはない。王家に連なる公爵令嬢の中にはショートカットの令嬢もいる。
「王太子妃は長く艶やかな髪がいいって仰るからよ。」
「どなたが?」
「ホワイト王女が。」
「マダムホワイトが。」
王太子妃が頷くと、リリーは納得した。
ホワイト王女殿下は王太子の姉で、成婚してから一年後に夫の急死により十八歳にして未亡人となった。そのショックからか少々言動が不安定な状態となり、子が居ないことを幸いと降嫁した公爵家から王家へと戻された存在である。そのまま十数年。公式の場では姿を見ることはあるが、短時間のみである。
「昔から夢見がちな方だったけれど、今は幼い子供のようだと聞いているわ。」
「レディホワイトではなく、マダムホワイトだとは理解しているようです。夫である前公爵の名前もしっかりと覚えていますから。」
アナベル夫人の心配そうな声に、王太子妃は苦笑いを浮かべた。
「本人の理想から外れると混乱されて、お可哀想な方なのです。それでも私が子供を産んだ時は心から喜んでいただけました。それで私は十分なの。」
家族の誕生をマダムホワイトがクリア出来たことは、陛下たちにとって何よりも喜ばしいことだっただろう。世継ぎに危害を加えることがあれば、王女であっても罰しなければならない。
「だからなるべく王城内ではお義姉さまの思う通りの格好でいるの。」
にっこりと微笑む王太子妃に、リリーは話題を変えようと質問した。
「よく変装で従者の格好をなさるのですか?」
「えぇ、私は辺境伯の娘だから乗馬は得意なのよ。剣の腕もそこそこだし、二人でたまに視察に来るのよ。この格好、似合わないかしら?」
閉じていた足を広げポーズをとる王太子妃にリリーはぶんぶんと首を振った。
「とてもお似合いです。そこらの貴族よりもよっぽど様になっておられます。」
素直に気持ちを言葉にすれば、王太子妃はふふふふと声を漏らす。
「リリーは可愛らしい子ね。アルフレッドに浮気でもされたら私に相談しなさい。懲らしめてやるわ。」
「それはこちらでやりますから王太子妃様のお力はお借りしませんわ。お父様は愛人にくれてやって、お母様は私と暮らしますから。」
ミレーヌがリリーの腕をとると、王太子妃は足を閉じて座り直した。
「ミレーヌ、お父様の味方もしておやりなさい。ゴードンにリリーとどんどん優先順位が下がっているじゃない。」
王太子妃の言葉にミレーヌは胸を張った。
「領民、ゴードン、お母様、お祖父様とお祖母様、お父様の順です。貴族は民を一番に考えなければいけませんわ。」
リリーは思わず頭を抱え、深く項垂れた。
「お願いですから私はもっと下に、せめて公爵様よりも下にしてください。ミレーヌちゃんの立場が悪くなってしまいますから。」
「では領民、お父様、ゴードン、お母様の順と答えるようにします。心の中は別ですけれど、お母様を心配させるなんて罰当たりですから。」
リリーの一言で意見をコロッと変えるミレーヌに王太子妃の口は塞がらず、アナベル夫人の咳払いでようやく我に返った。
「アナベル夫人とミレーヌにはやはり席を外していただきましょうか?リリーと二人きりにしてちょうだい。」
どこから出したのか扇で口元を隠した王太子妃に言われるままアナベル夫人は立ち上がり、嫌々ながら立ち上がったミレーヌを引きずって部屋を出て行った。
「さて、アルフレッドの扱い方を教えてあげましょう。」
王太子妃の笑みに、リリーはきょとんとしながらひとまず頷いた。
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「なぁ、キスはしたのか?」
「うるさい。」
「まさか噂の通りに図書室で「やってない!!」」
「何をだよ?」
「知らない。」
「抱き上げたりとか」
「うるさい」
「揉んだり「やってない!!」」
「じゃあ愛の言葉を囁いたり「やってない」」
「アルフレッドはまだリリー嬢と口付けを交わしただけか。」
「……」
「お前、社交出来るのか?全部ダダ漏れだぞ。」
「外に出れば出来るんだ。」
「いや、今まではな。王都でリリー嬢が隣にいたことないだろ?」
「ない。」
「さっきみたいに可愛いこと言ってきて、お前耐えられるのか?」
「た、えられる。」
「俺は耐える方法を知ってるぞ。」
「……」
「あのな、やることやるんだよ。」
「出てけ。」
「やらしい話じゃないぞ。信頼関係を築けって言ってるんだ。贈り物を渡して、話をする。相手を褒めて、手を握り、愛を囁く。そうすれば相手の行動がある程度は把握出来るだろ。突拍子もないって、把握出来ないってことなんだからな。」
「リリーにはある程度が見つからない。」
「それはお前が知らないからだ。」
「……。」
「なんだよ、その目は。」
「その言葉をそのまま返す。」
「アルフレッドが想定出来ない相手か、気に入った。我が息子のよ「断る。」」
「冗談だよ。そんな怖い顔するなって。」
「知らん。」
「お前が先に死んだら、リリー嬢はエリカの侍女にしよう。大事にするよ。」
「俺が死んでもミレーヌが離さない。俺が公爵家を追い出されても、リリーは離さないだろうな。」
「どんだけ気に入られてんだよ。」




