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オルタナティヴ・アバード  作者: 諸葛ナイト
第3章 黒と白

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ヘルファイス・レポート

 今回のアギル事件に関してここに私、ナテスア・ヘルファイスの所感を記す。


 結論から言うと世界の大前提は覆された。


 大前提、それはこの世界にあるエレマフォトンを活用する外骨格はアバード、ネスデッド、ギフテッドの3種類と人工合金外骨格(ウェスバ)のみ、という常識だ。


 提出された資料を鑑みるにこの事件の後半で主に活動していた2体の個体は上記で挙げたいずれにも該当しない。


 しかし、形質的に最も近いのはアバードと予測されるため、それら2体の特殊個体の総称を【オルタナティブ・アバード】、略称としてオルタ。

 加えて区別をつけるために白い個体をオルタ1、黒い個体をオルタ2と呼称する。


 事件の首謀者であるアギルの元で動いていたオルタ1に関しては情報は多くはない。

 明確にわかっていることは言語能力がなく、人間の姿にも戻れないため意思疎通は難しいこと、高い戦闘能力を持っているということだけである。


 一方、我々側に付いたオルタ2は人間に戻ることができ、会話もできため、以降記すものは大半が彼から得られた内容である。


 まず、オルタナティブ・アバードだが現状は未完成であるようだ。


 本来ならば繭と呼ばれるものの中で文字通り溶け合うことで2体のオルタが融合、そこでどのようなものかは不明だが羽化することで完成する。

 はずだったがオルタ2がそれを拒んだことで分裂。それぞれに形が作られたところで繭から飛び出したらしい。


 そのため、アギルが想定したほどの力はないらしくオルタ2の言葉によれば「なんとなくエレマフォトンを掴みやすくなった」とわずかな違いを感じてはいれど明確に変わったという自覚はなく、外から見てもそれは見受けられない。

 しかし、戦闘能力の向上は著しく、ネスデッドと同等と考えられる。


 次に、アギルが事を起こした理由だが「世界に自由を与えたかった」とのことである。

 それ以外は語らなかったようでオルタ2は何か言うことはなかった。


 目的はどこか曖昧であったが人間関係は垣間見えた。

 どうやら彼はどこかの国の貴族であったようでその国のネスデッドないしはギフテッドと親密な関係であったらしく、オルタ2は彼らとの間に生まれた子どもらしい。


 政治的配慮からオルタ2の本来の出生はギフテッドと同等程度の極秘として「母親と祖父はすでに死亡、今回の件で友人等もいない」という内容を公とする。


 最後に、オルタ2はルリナ・ネスデッドとの関係が良好、緊急処置として入隊させていたクロスブレン内でも問題なく行動できている。

 加えて彼自身もクロスブレン、ひいてはヴェルシー王国に留まることを望んでいる。


 以上の内容を考え、今後オルタ2にはヘルファイス研究局クロスブレンに籍を置かせ、今後の成長や生態を秘密裏に調査ならびに監視することを進言する。


◇◇◇


 紙にペンを走らせていたナテスアはそこで手を止めると眉間を抑えながら呟く。


「こんな物を書きたくないからウェスバの開発に行ったんだけどな」


 執務室に誰もいないからこそ出されたナテスアの弱音らしい弱音。


 しばらく自分が書いたレポートを見つめていた彼女は首を横に振ると気分を変えるため、ある場所に向かうことに決めた。


 そうと決まれば行動は速い。机を軽く片付け灯りを消すと執務室の鍵を閉めて城塞の外へ向かう。


 城外に出て少し歩き静まり返っている市場の影に隠れるようにあるさらに薄暗い小道に入った。

 そこを進むと数分、見えたのは半地下の扉だ。


 ナテスアは一見民家の扉にしか見えないそれを慣れたように開け放った。

 そこは少し頼もしさに欠ける灯りがあり、落ち着きのあるパブだ。


 まっすぐにカウンターの席に座るとカウンターの向こうにいたパブのマスターである初老の男性が声をかける。


「いらっしゃい。久し振りですね」


「ああ、そうだね。まぁ色々とあってさ。

 少し強いやつをもらえるか? あとはーー」


 そこで言葉を区切ったナテスアは隣に座る見慣れた女性へと視線を向けながら続けて口を開いた。


「ーーミカエラはどうする?」


「……優しいやつを」


 少しペースが速かったのか、それとも量が多かったのか答えたミカエラの顔はほのかに朱に染まっている。


 マスターが頷き準備を始めると同時にナテスアはミカエラへと言葉を向けた。


「珍しいね。君が酒を飲むなんて」


「私だってたまにはそう言う気分もあるさ。天使ではあるがやはり“人間”だからな」


 まるで自分を卑下するように「人間」という単語を妙に強調したあたりから彼女の悩みのタネを見抜いたナテスアは躊躇うことなくそれを口にする。


「ルカ君のことだろ?」


「……ああ」


 ミカエラは少しためらいながらも頷いた。

 それを皮切りにポツリとこぼす。


「考えているんだ。

 彼は天使になるべきではなかった。普通の村人として一生を終えるべきだったんだとな」


 ルカは今からどう頑張ろうと普通の人生を歩むことはできない。


 原因は彼の持つ力だ。現状だけでもネスデッド並みの力を持っている。

 そんなものが国力に影響しないわけがない。


 さらにアギルが死んだためそんなオルタが今後増えるかどうかは不明。

 残ったルカの争奪戦になるのは必至だ。


 そのため、ヴェルシー王国の監視対象となり、一応極秘とはなっている。

 だが、断片的な情報は他国に渡っていると予測されるため、どのような形かはわからないが確実に他国からの調査が入る。


 カウンターに肘をつき、手で頭を抑えたミカエラはさらに続ける。


「世界はたしかに優しくはない。残酷な部分も多い。

 しかし、こうも彼にだけ集まることはないだろう」


「まぁ、たしかにね。

 育った故郷を失い、そこにいた友人や家族同然の者たちもなくしているのに加えて母親はともかく父親は死亡、妹はその手で切った。

 あまりにも失うものが多すぎる」


「そして、彼はそれを気にしないでいられるほど無情ではない。むしろ優しいほどだ」


 会話をする2人にマスターはそれぞれに適当な酒を静かに差し出す。

 2人はそれに軽く会釈することで返すと会話の流れを変えた。


「まぁ、しばらくは……少なくとも1ヶ月はなんともないだろう。

 その間に少しでもマシな方向に進めるよう努力するさ」


「珍しいな。ナテスアが誰かのために努力するなど」


「これでも責任を感じてるんだよ。

 それに、私は彼のことを気に入ってるからね」


「……そうか。では、私もその間に彼の足場を固めるために動くとしようか」


 来た頃とは違い少し明るくなったミカエラの表情にナテスアは小さく笑みをこぼした。

 今回の話で「オルタナティブ・アバード」は完結となります。


 2ヶ月という個人的には短い間でしたがお付き合いのほど誠にありがとうございました。

 僅かな時間でも楽しんでいただけたのであれば私としては嬉しいばかりです。


 質問や感想等がございましたら書き殴りでも構いませんのでお気軽にどうぞ。


 最後に、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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