コミックス第二巻発売記念SS-未来の約束
ご無沙汰しております。
コミックス第二巻発売を記念して、番外編を投稿させていただきます。
時系列はコミックス第二巻、小説家になろう版第1章24〜26話城下デート時のお話です。
「わ〜……」
いつもお世話になっている侍女・アリーのために城下でお土産を買うことにした私は、髪飾りを売っている小物店を訪れた。
店内は温かみがあり、女性ものの可愛らしい小物が品良く並べられている。
(どれも可愛い……! こんなに素敵なお店があるなんて!)
と、足を踏み入れたその場で見惚れていると。
「ッ……」
「!? ヴィクター、なんで笑うの?」
隣にいたヴィクターが吹き出したように肩を震わせ笑っていることに気付き尋ねれば、ヴィクターは「いや」と笑い続けながら言葉を返した。
「君は分かりやすいなと思って。君が来たばかりの時に部屋の内装に見惚れ、喜びを隠せないでいたのを思い出した」
ヴィクターの言葉に、私もイングラム城に来たばかりの頃、用意された部屋の可愛さにテンションが上がったのを思い出し、恥ずかしくなって言う。
「あ、あれは、あんなに可愛いお部屋を用意してくれているとは思わなくて……、わ、悪い!?」
恥ずかしさから思ったより強い口調になってしまったことにハッとし、罪悪感を覚えたけれど……。
「……いや、悪くない。君が嬉しそうな顔をしているのを見ると、ずっと見ていたいと思う」
「……っ!?」
(な、ななななな何を言っているの!?)
一体どういうつもりでそんなことを言っているの!?
と戸惑う私に、ヴィクターは「ほら」と私の背を軽く押す。
「土産を選ぶと良い。もし気に入ったものがあるなら、君へ贈ろう」
「あ、ありがとう」
(でも、すでにお菓子も沢山買ってもらっているから、このお店で買うのはアリーの分だけにして、お金も私が払おう)
そう心に決め、ヴィクターに背中を押された私は一つ一つ髪飾りを吟味する。
アリーの姿を思い出しながら、どれにしようか、と沢山ある髪飾りを見ていると、ふとその隣にあった小物が目に飛び込んできて……。
「……櫛か?」
「わっ!」
不意に話しかけられて驚いた私に、ヴィクターは「驚かせてすまない」と謝ってから尋ねた。
「アリーへの土産か? それとも君が気に入ったとか」
「いえ……、櫛を見ていたら、リランを思い出して」
「……君の妹の?」
「えぇ。よくリランの髪を梳かしていたなって」
「侍女の仕事ではないのか?」
「もちろん、侍女がやってくれることもあったけれど、リランは私の大切な妹だから……」
お母様が亡くなって、リランが生まれて。
リランが寂しいと感じないように、自分に出来ることをしよう、お母様の代わりになろうと思った。
生前、お母様が私にしてくれたように。
その一つが、髪を梳かしてあげながら、まだ幼かった彼女と会話することだったのだ。
(今思い返すと、温かくて尊くて、穏やかな時間だったなあ……)
そこまで思い出していたところでハッとする。
(いけない、しんみりとした空気になってしまったわ! 話題を変えなければ)
そう思い、口を開くよりも先にヴィクターが言葉を発した。
「……俺の髪を梳かすか?」
「えっ?」
思いがけない言葉に顔を上げれば、ヴィクターは焦ったように早口で言った。
「君の妹の代わりになれるとは思わないが、俺に出来るのはこの無駄に長い髪を貸すことくらいかと思って……、って、何を言っているんだ俺は」
「良いの?」
「えっ?」
ヴィクターの提案に、私は身を乗り出して手を叩く。
「ヴィクターの髪、いつか梳かしたいと思っていたの!
綺麗で長い黒髪だから、きっとさらさらなんだろうなあって! 本当に良いの!?」
「あ、あぁ……。君が、良いのなら」
「やった!」
思わず両手を握りしめて喜ぶと、ヴィクターが私を温かな眼差しで見ていることに気が付いて……。
(……っ、その表情は、ずるい)
彼が咄嗟に提案してくれたのも、彼の優しさなのだろう。そう思うと、胸がいっぱいになって……。
「ありがとう」
少し泣きそうになったのを我慢しながら、代わりにお礼の言葉を口にした私に、ヴィクターは微笑んでくれたのだった。
「本当に良かったのか? 君の分は買わなくて」
アリーへの贈り物であるバレッタが入った包みをそっと両手で持ちながらお店を出た私に、ヴィクターが尋ねる。
それに対し、私は苦笑交じりに答えた。
「えぇ。どれも素敵で選べる自信がなかったから、今日は我慢するわ」
今は自分のものよりもいつもお世話になっている城の皆のお土産を買いたい、と付け加えた私に、ヴィクターは少し間を置いてからとんでもない発言をした。
「……それなら、君の分は店ごと買い占めるか?」
「へ!?」
冗談を言っているのかしら、と思いヴィクターを見上げれば、彼は真剣な顔をしていた。
(つまり、本気で言っているということ!?)
「そ、それは良くないわ。私の他にも買いたい方は沢山いるだろうし……」
「……そうか」
私の返答にどこか落ち込んだ様子のヴィクターを見て、私は気が付けば言葉を発していた。
「……それなら、今度は時間がある時に、またゆっくり連れてきてくれたら嬉しい」
「! あぁ、もちろん」
ヴィクターは私の願いをすぐに承諾し、破顔する。
そんな彼とまたいつか来れる日が来ると思うと、胸の内にくすぐったいような、温かな心地が広がって……。
「それじゃあ……、約束ね」
そう言って立ち止まり、小指を立てて差し出せば、ヴィクターもまた少し目を丸くしながら立ち止まった後、小さく笑って小指同士を絡め、薄い唇で言葉を紡いだ。
「あぁ、約束だ」
こうして交わした、二人きりの約束。
その約束がどうか、いつかの未来で叶いますように。
そう願わずにはいられなかった。
コミックス第二巻記念番外編、いかがでしたでしょうか?
この番外編は、リゼットの可愛いもの好きにちなみ、いつか書きたいと思いメモしていたものなので、こうして投稿させていただくことができてとても嬉しく、皆様にも楽しんでいただけたら…!と思いながら綴っております。
こうして年月が経っても物語の世界が続いているのは、コミカライズ版をご担当くださっている島國先生、書籍版イラスト・キャラクター原案をご担当くださったすざく先生、デビュー時から支えてくださっている担当様、編集部の皆様、そして応援してくださっている皆様のおかげです!本当にありがとうございます…!!
一気に物語が動くコミックス第二巻もお手に取っていただけますと本当に嬉しいです!
また、別作品ではございますが、作者初のWEBTOON化短編『助けた貴公子(黒歴史)が、私を助けに来た』が収録されたアンソロジー『ヘタレ婚約者様、私が愛して差し上げますわ!』が4/28よりRenta!様で先行配信されていますので、こちらもぜひチェックしていただけますと幸いです。(小説付きは、私が書き下ろした長めの後日談付きです)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
これからも続くリゼットとヴィクターの世界を、最後まで応援&見届けていただけましたら本当に嬉しいです。
2026.4.30. 心音瑠璃




