書籍第二巻発売記念SS-不器用な兄弟のこれから
ついに、書籍第二巻、完結巻の発売です!
発売を記念して、今回の番外編は本編読了後推奨のヴィクター、ウォルター二人のお話をお届けいたします。
時系列は結婚式から一年後のお話です。
(ヴィクター視点)
城から程近い、季節により色が変わる木々に囲まれた自然豊かな場所。
その木々の間を通り、目的地へと迷うことなく歩いて辿り着いた先に先客を見つけて立ち止まる。
「「あ……」」
同時に互いの存在に気が付き、思わず声を上げてしまってから、その先客である兄、ウォルターが微笑みながら言った。
「来てくれたんだね」
「……俺も、世話になった人だからな」
そう言ってウォルター……兄上の隣で立膝をつくと、持っていた花束を墓前に置き、手を合わせる。
それを見ていたウォルターが、「そうか」と墓を見やって口にした。
「いつも母さんの命日に沢山の花が供えられていたのは、陛下だけでなくヴィクターも来ていたからなんだね。こんなに側にいたのに、今の今まで気付かなかった」
「わざわざ伝えることでもないだろう」
「それもそうなんだけどね。……でも、きっと母さんは天国で喜んでくれているよ。
亡くなって随分と経つのに、こうして死を悼んでくれる人がいるのだから……」
そう昔に思いを馳せるように口にした兄上に、俺も兄上と共に墓前を見やりながら言葉を紡ぐ。
「……確かに、俺達がこうして一緒に墓前に手を合わせることなど今までなかったな」
「……そう、だね。私が君を突き放してしまったから」
「「…………」」
俺は兄上の言葉に返す言葉を見つけられず、互いの間に沈黙が訪れる。
その沈黙をどうにかしようと、違う言葉を発する。
「リゼットも一昨年と去年、一緒に来てくれた」
「! 彼女も?」
「あぁ。今年は、身重の身体だから無理をさせなかっただけでとても残念がっていた」
「それも知らなかった……」
「確かに、鉢合わせしたことは一度もなかったな」
同じ城に住んでいるというのに不思議なものだと墓石をじっと見つめていると。
「……ごめん」
「え…………」
耳に届いた突然の謝罪に驚けば、ウォルターがこちらを申し訳なさそうに見ながら言葉を続けた。
「君を……、ヴィクターを突き放してしまったこと。
私は、母さんから自分に宿っていたあの魔法が命を削るものであることをずっと諭されながら生きてきた。
『貴方は、悔いの残らないように生きなさい』。
短すぎる母さんの一生の最期の言葉がそれだったから、あまりにも衝撃的で……、私はいつ死んでも大丈夫なように、準備をすることにしたんだ」
「……っ」
兄上から紡がれる言葉は、どれも聞いたことのない言葉ばかりで。
兄上は自嘲しながら続ける。
「とても、愚かなことをした。私も、母さん達も。
ヴィクターを傷つけないように……、だからあえて何も説明することなく周りは皆君を突き放した。そして、私も。
ヴィクターが私を兄として慕ってくれているのが分かっていたから、最初から突き放して君が私を恨んでくれれば、たとえ突然命を落としたとしても悲しませ傷つけることはないだろうと思っていた」
「……!」
(そういう、ことだったのか)
今まで胸につかえていたものがストンと落ちる。
ただ、同時に芽生えたのは……。
「……勝手すぎる」
「!」
ポツリと呟いた言葉に、兄上は息を呑む。
そして、一度言葉を発してしまえば、今まで心の奥底に押し込んでいた思いがいとも簡単に言葉となり口から溢れ出す。
「父上も母上達も、兄上も。
なぜ話さないことが俺のためになると思った?
何も知らされずに……、レベッカの死を境に家族が皆俺の元を離れ、バラバラになって一人孤独に取り残された俺の気持ちが分かるか?
分からないだろう」
「……っ」
兄上の表情が歪む。その表情を見て……、目を逸らして答えた。
「……とはいえ俺が責められたことじゃない。
俺も、同じことをリゼットにしてしまったんだから」
「…………」
返す言葉が見つからないようで、兄上は沈黙する。
俺は苦笑して言った。
「それが間違えだったと気付かせてくれたのは、他でもない真正面からぶつかってきてくれたリゼットだ。
いつだって彼女は、どこまでも真っ直ぐで明るくて。俺にとっての光であり太陽のような存在なんだ。
何せ俺のような面倒な男のことを好きだと言ってくれるのだから」
「……面倒な男って、普通自分で言うものなの?」
「自覚はあるからな」
肩を竦めて苦笑すれば、兄上はクスクスと笑う。
ようやく笑った、とその笑みを見て内心ホッとしながら口にした。
「だから、兄上が愚かで勝手すぎるなら、俺も愚かで勝手すぎるということだ」
「……ヴィクター」
兄上が目を見開く。
その視線を受け、「だから」と目を逸らさずに答えた。
「謝罪はいらない。伝えるのなら感謝の言葉、それも俺ではなくリゼットにしてくれ。
後、フェリーシナに、だな」
「! ……うん、そうするよ。二人には、急にどうしたのって驚かれてしまいそうだけど」
兄上の言葉に驚く二人の顔が簡単に想像出来て、兄上と同時に吹き出す。
「それもそうだな。特にリゼットは、自分が特別なことをしているという自覚がないのが良いところだ」
「フェリーシナもその点は似ているかもしれない。鈍いというか。
でも、ウォルトが生まれてからより生き生きとしていて目が離せないんだよね」
ウォルトとは、半年ほど前に兄上とフェリーシナの間に生まれた子供だ。
ウォルトは確かに可愛いが、その話が出ると途端に口癖のように始まる長いフェリーシナの惚気を聞かされ、はいはい、と苦笑しながら聞いていると、ウォルトが「でも」と空を見上げて言った。
「今日こうして来て、ヴィクターと話せて良かったよ。
私達兄弟はやはり似ていたんだと気が付くことが出来たしね」
「……そうだな」
フッと笑い同じように空を見上げる。
木々の間から除く空は、雲ひとつないどこまでも澄んだ青色をしていて。
兄上は、「そういえば」と口を開く。
「以前のように、『兄さん』と呼んでくれないの?」
「……は!?」
唐突な言葉に驚けば、兄上は揶揄うように言う。
「昔はいつも、『兄さん』って呼んでくれていたでしょう?」
「いつの話だ」
「あれ? でも私が命を助けてもらって戴冠式を迎えるくらいまでは呼んでくれていなかったっけ?」
「〜〜〜っ」
図星を言い当てられ、耐えきれなくなりさっさと立ち上がって歩き出せば、「ちょっと待って!」とついてくる。
これ以上その話はさせまいと早足で歩きながら言った。
「やめてくれ。いつまでも子供じゃないんだから」
「えぇ? 私にとってはいつまでも可愛い弟だよ?」
「……分かった」
「え?」
このままでは揶揄われるばかりだと、立ち止まって振り返り腕を組むと、反撃の言葉を放つ。
「弟との交流を深めたいと言うのなら、最近座りっぱなしで肩が鈍っているから手合わせ願おう」
「て、手合わせってもしかしなくても剣の打ち合いだよね?
それ、間違いなく私が怪我をする感じじゃ」
「付き合ってくれるよな? 兄さん?」
「っ……」
先ほどの仕返しをすれば、兄上……兄さんは、「断れないじゃないか」と肩を竦めて笑った。
「お手柔らかにね?」
「考えておく」
そう言ってどちらからともなく手を差し出し、握手をしながら笑い合う。
笑い合い、穏やかに時間が流れていく。
それはまるで、幼い頃に戻ったかのような錯覚を覚えて。
二度とないだろうと思っていた家族との時間。
そんな時間をくれた彼女に、改めて感謝を伝えようと心に決めて、再び前を向いて歩き出した。
兄弟二人の番外編、いかがでしたでしょうか?
かなり踏み込んだ内容でありずっと書きたかったお話だったため、楽しんでお読みいただけていたら嬉しいです。
そして!ついに!本日書籍第二巻、シリーズ完結巻の発売です…!
目印となるすざく先生の書影はこちら↓
もう本当に素敵ですよね…!イメージは第二巻の舞台となる森で、お屋敷はフェリーシナが住んでいた家を描いてくださいました!凄くこだわってくださったのは表紙だけでなく、口絵も挿絵も最高なので、是非見ていただきたいです…!
公式様、各電子書店様、そしてまた後ほど活動報告でもご紹介させていただきますので、是非試し読みを覗いていただけたら嬉しいです。
そして、第二巻書籍版の内容は、校正さんに入っていただいて凄く改稿頑張りました!(笑)ので、読みやすくなっていると思います。
また、書き下ろし番外編がヴィクター視点のものと、こちらに掲載している『二度目の人生では幸せに』に加筆という形で書かせていただいた、二人の本当のハッピーエンドがお読みいただけます。
是非、お手に取っていただけたら本当に嬉しいです…!
島國先生によるコミカライズ版、そして、昨日から木曜連載として、現在連載中の作者別作品『愛されない悪役令嬢に転生したので開き直って役に徹したら、何故だか溺愛が始まりました。』も水菊じむ先生によるコミカライズが始まりましたので、是非全てよろしくお願いいたします…!
また、Xでは「#つつうけ 設定」と調べていただくと、ネタバレを考慮したこの作品を執筆した背景や裏話をポストしていますので、ご興味がある方は是非そちらも検索してみてください!
長文、失礼いたしました。
最後までお読みいただきありがとうございました。




