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【コミックス第二巻4/30発売】その政略結婚、謹んでお受け致します。〜二度目の人生では絶対に〜【書籍全二巻発売中】  作者: 心音瑠璃
番外編

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書籍化記念SS-彼女の存在

書籍化SS番外編です!

時系列はお披露目式(第一章10〜12話)でのヴィクター視点です。


 リゼットが家族と話し合っている間。

 俺自身も少し疲れたため、一時の休息を取ることにした。


「……はぁ」


 火照った体を冷ますため、一人部屋に戻りワインを煽る。

 浮かんでくるのは、今日だけでも数え切れないほどの自分の失態だ。

 その原因は分かっている。


(……全て、彼女のせいだ)


 自分より五つ歳下の婚約者。

 リゼット・ラザフォード。

 彼女の姿が目に映る度、自分でも戸惑うほどの感情が渦巻く。

 今日に至っては、彼女が初めて着飾った姿を見て柄にもなく動揺してしまった。


(しかも、そんな彼女を目の前にして出た言葉が、“馬子にも衣装”……)


 それはもちろん、本心ではない。

 彼女が着飾った姿は、想像以上……、だったからだ。

 前もって緊張しないよう、万全に心の準備をして部屋の扉をノックした、はずだったのに。

 飛び出た言葉は、お世辞にも褒め言葉とも照れ隠しとも言えず、案の定彼女を怒らせ、挙げ句の果てには。


『そのドレス、とても君によく似合っているよ』


 ウォルターに先を越され、俺はそれに対して嫉妬するという、我ながら情けない話だと自分でも呆れた。

 その後も、彼女を半ば強引にエスコートする形になり、彼女の家族の話から幼馴染……、マクブライドの国王の名前を呼び捨てにしていたことに、嫉妬を覚える。


(彼女の口から他の男の名前は聞きたくない)


 そんなことを思ってしまう俺は、一体何様のつもりだろうか。

 その上、彼女の魅力が今日は一段と輝きを放っていることもあり、不躾な男達の見る目が絶えない。

 目を光らせておかないと、いつ彼女に声をかける輩が現れてもおかしくはない、と気が気ではなかったため、彼女に気付かれない程度に周囲を牽制していたのだが。


(いや、褒め言葉一つ言えない男に守る資格なんてないだろう)


 はぁ、と再度息を吐いてから……決めた。


(よし、今日中に彼女に本心を伝えよう)


 そう心に決め、自分に勢いをつけるために残りのワインを一気に煽ったのだった。






 夜会が終わり、部屋に戻った俺は着替える気力もなくベッドに倒れこむように寝転がった。

 そして、先程起きた出来事をぼんやりと思い出す。


(……初めて、彼女との距離が近くなった気がした)


 以前手合わせをした時に約束していた権利を、“敬語を外す”きっかけに出来たことは大きい。

 いつか言おう、とずっと思っていたことだが、これもなかなか自分からは言い出せなかったからだ。

 しかも、そう言った後の彼女が口にしたのは。


『ヴィクター』


(っ、あれは反則だ)


 まさか、最初の言葉が自分の名前だとは。

 それも、殿下呼びからの呼び捨ての破壊力は半端ない。

 素面でなくて良かった、と心の底から思った。

 それに。


(想像以上に、彼女は華奢だった)


 手合わせをした時には、女性とは思えないほどの強い剣戟に心の中では圧倒されていたが、今日踊った時の彼女からは、元軍人とは思えないほど、華奢で、しなやかで、そして……。


「〜〜〜やめよう、これ以上は」


 思い出したら眠れなさそうだ、と遠い目をして天井を仰ぎ見る。


(家族や母国のことを、聞くことが出来てよかった)


 本当は怖かった。

 彼女がいつ、泣いて喚いて帰りたいと言い出すか。

 いや、そう口にするのが真っ当なのかもしれないと思っていた。

 だが、彼女から返ってきた返答は予想外のものだった。


『私は多分、ここでの生活が好きになりかけているんだと思う』


 彼女の侍女や俺、ウォルターに良くしてもらっているから、と彼女は言った。

 彼女の侍女はともかく、俺やウォルターが何をした!?と突っ込みたくなってしまったが、その上彼女は俺を真っ直ぐ、曇りのない瞳を向けて言った。


『私、貴方のことをもっと知りたい』


 あまりにも彼女が……、そう言った彼女の飾り気のない言葉が、心を震わせるものだから。

 まるで、そこだけ時が止まったかのように感じられて、俺はそれに対して返答することを忘れてしまったほどだ。


(そんな言葉、俺なんかが向けられて良いものなのか)


 彼女のその言葉は、そのまま此方の台詞でもあるからだ。

 彼女のことをもっと知りたい。

 今まで幾度となくそう願ってきたが、その度に諦める自分がいた。

 それは、自分に自信がないからでもある。


(本当の俺を知ったら、君はどう思うのだろうか)


 そんなことを考えてしまうばかりで、なかなか前に進むことが出来なかった。

 ……だけど。

 彼女は、そんな俺の気持ちに踏み込んで来てくれた。


(それなら)


 自分ばかりが恐れていてはいけない。

 彼女に自分から、歩み寄る姿勢が大事なのではないか。

 脳裏に彼女の姿が浮かぶ。


『君が綺麗だからだ』


 彼女に伝えるために、そうさらっと口にしたが、それは今日に限ったことではない。

 俺の目に映る君は。

 俺と正面から向き合ってくれる君は。

 君の存在は。


 ―――誰より何より美しいと。


 今はなかなか伝えることができないが、いつか素直に口に出来たら。

 彼女と笑い合える日が来たら。

 そんな日を夢見ることは許されるだろうか。


「……リゼット」


 そんな彼女の愛しい名を紡ぎ、そっと目を閉じたのだった。



書籍化SS番外編如何だったでしょうか?

本編にはないヴィクター視点、楽しんでお読み頂けていたら幸いです。

いよいよ来週、9/2に書籍が発売です♪

書影や試し読みも公開されておりますので、お手すきの際にチェックして頂けたら嬉しいです。

宜しくお願い致します!


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