二度目の人生では幸せに *Lisette side
番外編、最終話です!
「……リゼット」
「!」
不意に名を呼ばれ……、私はハッと目を覚ませば、困ったように二つの真紅の瞳が揺れていた。
そんな彼の顔を見て、私はガバッとベッドから立ち上がって謝った。
「ご、ごごごめんなさい! 私……」
結婚式、それからお披露目パーティーもそこそこに、私はある“準備”を整え……、いつもとは違う部屋で彼が来るのを待っていたら、気が付けば眠ってしまっていたらしい。
(……うぅ、ヴィクターのこと、ちゃんと待っている予定だったのに……)
そう、今日は……、特別で、大切な夜。
ヴィクターと夫婦になった、初めての夜だから。
(準備をして待っていたら……、うっかり眠ってしまうだなんて)
花嫁にあるまじき行為だ、と叱られると思ったら……、ポンっと私の頭に大きな、温かい手が優しく乗って。
「……!」
そして驚く私に向かって、彼は目を細めて笑った。
「すまない、疲れている君を待たせてしまって」
「っ、ううん、そんな……」
(ヴィクターの方がよっぽど……、疲れているのに)
彼に気を遣わせてしまった。
私が思わずギュッと拳を握っていたことに気が付いたのか、ふっと私の体に影が差す。
へ、と驚いたのも束の間、視界が反転して……。
「!? !?」
気が付けば、彼にベッドに横たえられていた。
そして彼は、驚く私に向かって……、ふっと笑みをこぼすと、私の隣に寝転がった。
「そんなに驚かなくても。
……漸く、この日が来たんだ。 君と結ばれる今日、この日を……、ずっと待っていた」
「……っ」
まるで慈しむように、そう言って私の頰に手を添わせた彼に……、私は思わず赤面してしまう。
恥ずかしさを誤魔化そうと思いを巡らせた時……、ふとずっと前から気になっていたことを思い出して口を開いた。
「あの……、一つだけ、質問しても良い?」
「? 何だ?」
ヴィクターは頬杖をついて、首を傾げた。
そんな彼に向かって言葉を続ける。
「前から、気になっていたんだけど……、その。
ヴィクターは、私に“一目惚れ”したっていうのは本当?」
「!?」
真紅の瞳が、大きく見開かれ……、顔を赤くさせながら彼は怒ったように口を開いた。
「そ、それは誰から聞いた! サイラスか!?」
「え!? ふぇ、フェリーシナ様と、ウォルター殿下から……」
「……っ、人の心を読みやがったな……」
悔し紛れにそう赤い顔をして文句を言う彼に……、私は思わず笑ってしまう。
そんな私が笑ったのを見て、彼はムッとしたように口を開いた。
「何故笑っている」
「え? だって……、ふふっ、愛されてるなあって」
「なっ……!?」
私はそっと……、彼に抱き着いて口を開いた。
「……それを聞いて、凄く嬉しかったの」
ずっと、気になっていた。
どうして私は、和平交渉の交換条件に組み入れられてしまったのだろうと。
私の魔力が欲しかったから?
マクブライドの戦力を削ぎたかったから?
気が付けば、どんどん悪い方にばかり考えていて。
「ずっと……、ヴィクターと思いが通じ合うまで、どうして此処へ来たんだろうって思っていた」
それは、前世の時から疑問に思っていたことだった。
初めて彼と二人きりで話し突き放された時、あぁ、この婚姻には愛なんてものは存在しないんだと。
彼には愛されることはないんだと、前世の自分は諦めた。
「だけど……、一目惚れだと聞いて」
私の目から一筋、涙がこぼれ落ちる。
(もし、前世のヴィクターも同じだったとしたら……)
「……素直に、君に告げていれば良かったんだな」
「! ヴィク……っ」
彼の唇が、そっと私に重なる。
触れるだけの優しいキスに、私の心に温かな気持ちが広がっていく。
そして彼は……、そっと私の頰に流れた涙を拭いながら言った。
「サイラスにも……、同じことを聞かれた」
「! サイラスに……?」
突然幼馴染の彼の名が出たことに驚けば、ヴィクターは頷きながら言葉を続けた。
「彼にも……、どうしてリゼットを、和平条約の交換条件になんて出したんだと尋ねられた。
それについては……、俺も酷いことをしてしまったという後ろめたい気持ちがあって」
それでも話しておけば良かった、と彼の言葉に驚いている私の髪を手に取りながら、そっと口を開いた。
「君のいう通り……、一目惚れだった。
いつか前に、君を“戦場で見かけた”と言ったことがあるだろう?
……この金色の髪が、陽の光を浴びて煌めき、凛と立つその姿を初めて見た時、俺は……、一瞬で恋に落ちていた」
「……!」
初めて聞く話に、私は相槌を打つのも忘れてヴィクターの瞳をじっと見つめてしまう。
彼はそんな私の目を見て照れ臭そうに笑いながら、そのまま言葉を続けた。
「そして、父さんにある日告げられたんだ。
“そろそろ結婚相手を決めろ”と。
……その時、自然と口にしていたのが……」
「私の……、名前だったの?」
「あぁ」
“リゼット・ラザフォード”
彼の形の良い薄い唇が、私の名前を紡ぐ。
そんな彼を見て……、私はまた涙ぐんでしまう。
「っ、ごめんなさい、何か今日は、泣いてばかりだわ」
結婚式でもお披露目パーティーの時も泣いたのに、困るくらい涙が枯れることはなくて。
そんな私に彼は近付くと、そっと瞼や頰に口付けを落とされる。
そしてまた、ギュッと……、今度は力強いその腕に強く抱き締められた。
「そんなに……、喜んでくれるとは、思っていなかった。
つまらない意地を張っていないで、君にもっと早く伝えていれば、不安にさせることもなかった筈なのに」
すまない。 そう口にした彼に対し、私は顔を上げた。
「っ、そんな!
私は……、こうして聞けただけで十分、幸せだわ」
「! ……リゼット」
そう私の名を呼んだ彼の瞳にも……、涙が溜まっていて。
「! ……ヴィクターも、今日は泣いてばかりね」
私とお揃い、なんて彼の頰にそっと手を添えれば……、不意に視界が反転する。
気が付けば、天井を向かされ、彼の顔が間近にあって。
「……!?」
思わず息を飲んだ私に対し、彼は妖艶に笑って……、「約束通り」とゆっくりと口を開いた。
「“結婚したら、歯止めなんて効かせないから”」
いつの日か言われたその言葉に、私は顔を赤くして良いのか青くした方が良いのか分からず……、咄嗟に口を開いた。
「お、お手柔らかにお願いします……っ」
「! ……ふはっ」
私が漸く口にした言葉に対し、彼は吹き出す。
そんな彼に向かって抗議の声を上げようとした私の顔に、彼は顔を近付け……。
「善処しよう」
そう吐息が触れる距離で言った彼と、今度は深く甘く唇が重なり、私はその熱に身も心も委ねたのだった……―――
―――……数年後。
「行くぞっ、ウォルト!」
王城の広い庭で、そう声を張り上げた少年……、その特徴的な真紅の瞳を持つ彼は、金色の肩まで伸びた髪を揺らし、ウォルトと呼んだ人物に向かって剣を打ち込む。
それをウォルトが剣で受け止めた瞬間、カキンと大きな音を鳴らし、剣が激しくぶつかり合う。
「っ、ヴィンセント、大分剣が重くなってきたね……っ、でも」
「!?」
ヴィンセントより少し身長の高い、ウォルトと呼ばれた少年は、同じ金色の長い髪を一つに束ね、ヴィンセントの剣を薙ぎ払い……、その彼の喉元に切っ先を向けた。
そして、同色の金の瞳を細め、にこやかに笑って告げる。
「勝負あり、だね」
「! ……もう一度だ!」
「えー、流石にもう疲れたよ」
ウォルトがそう言って両手を上げれば……、そんな二人の元に走り寄ってくる、小さな少女の姿があった。
「ヴィンセントお兄様、ウォルトお兄様〜!」
その少女は漆黒の髪を三つ編みにし、大きな橙色の瞳をキラキラとさせながら、彼等の名を呼ぶ。
「! リーズ!」
ヴィンセントはそう妹の名を呼び、怒ったように慌てて言った。
「リーズ、そんなに走ったら危ないだろう?」
「! ……ごめんなさい」
「まあまあ、ヴィンセント。 そんなに怒らないであげて。
リーズちゃん、どうしたの? 僕等に何か用事があって来たんでしょう?」
「! ウォルトお兄様、よく分かったね!」
リーズの言葉に、ウォルトは「まあ、僕も魔法使いだからね」と笑って言った。
リーズはウォルトに向かって「凄い!」と口にしてから言った。
「あのね! 私も魔法を、コントロール出来るようになったの!」
「! 本当か、リーズ!」
そう嬉しそうに口にしたのは、ヴィンセントだった。
彼の言葉に、「うん!」とリーズは頷き、人差し指を立てれば……、そこにポッと火が小さく宿る。
それを見た二人は嬉しそうに破顔したのだった。
その姿を遠くから見ていた彼等は、そっと口にした。
「みんな本当に……、大きくなったね」
「あぁ。 何だか不思議な感じがするな」
そう口にしたリゼットとヴィクターに対し、そばにいた二人も頷いた。
「そうね。 しかも、私達の子……、ウォルトが古の魔法使いの血を引いていると知った時は、とても驚いてしまったけれど」
「一瞬彼も“心を読める”と知った時は、私の魔法を継いでしまったかと、ヒヤヒヤしたけれどね」
フェリーシナの言葉の後、そう肩を竦めて言うウォルターに対し、「でも、」とリゼットが口を開いた。
「どんなことがあっても……、あの子達ならきっと、乗り越えられるわ」
「! あぁ、そうだな」
ヴィクターはその言葉に同意し、リゼットの手を握る。
そうして二人、互いに顔を見合わせ笑い合った。
一度目の前世では報われることのなかった二人の思いは、二度目を経て通じ合った。
その思いを通して、周りにも大きな“幸福”という名の影響を与えていった二人。
そんな二人の“幸福”な未来は、これからも続いていく……―――
『その政略結婚結婚、謹んでお受け致します。 〜二度目の人生では絶対に〜』 番外編END
番外編最終話、如何でしたでしょうか…!?
リクエスト頂いた皆様、有難うございました…!期待に応えられていたら、嬉しく思います。
最後に、温かい御感想を下さった皆様、そして最後までお読み頂いた皆様、本当に有難う御座いました…!
これをもちまして、シリーズを完結表示とさせて頂きます。
また何処かで、作者の作品をお読み頂けたらとても嬉しく思います…!
2020.2.24
新作開始致しました!
https://ncode.syosetu.com/n7984ga/
『婚約破棄された令嬢は、ドSな第一王子に翻弄される』
《追記》
この度書籍化&コミカライズが決定致しました!
皆様の応援のお陰です!本当にありがとうございます!!
改めて追加情報など随時活動報告やTwitterにて掲載致しますので、お手隙の際にチェックして頂けたら嬉しいです〜!
宜しくお願い致します。
2021.3.4.




