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君のいない世界 *Victor side

リクエスト有難うございます…!

リゼット亡き後、“前世”ヴィクターの一人語りです。シリアスをできる限り排除するよう努めましたが、リゼットがいない世界のお話なので、苦手な方はブラウザバックをお願い致します。

 ―――……ただ君を守りたかった。


 こんな汚い世界を、見せたくなかった。


 その一心で、こんな狭い世界の檻の中に、君を閉じ込めるような真似をして。


 わざと冷たくあしらった。


 君に見せたかったのは、


 広くて綺麗な青空の下の世界。


 そのものの筈だった……―――






「「「国王陛下、万歳!!」」」


 長期に渡る戦乱の世の終わりを告げ、漸くイングラム国には平和が訪れた。

 一点の雲もない青空の下。

 その声援に応えるように、手を振り応える俺の横に居るはずの姿は、もう何処にも居ない。


(何処かで……、君は、見てくれているだろうか)


 漸く手にした平和を。

 自分を、君の大切な人達を、そして……、最愛の君を犠牲にした、この国の“平和”。

 平和な世界を築き、この光景を君に見せることを目標にしていた平和の“結果”は。


 何一つ、幸せなど残りはしなかった……―――






 今でもはっきりと、覚えている。


 初めて、凛と立つ君の姿を戦場で見て、一目惚れしてしまったこと。


 和平交渉の席で初めて君を近くで見たこと。


 戦場で多くの兵士が亡くなった、いつまでも消えることのなかった“炎”を。


 此処に仕方なくと言った形で嫁いで来た君の、怒りと悲しみが混ざった表情も、


 側にいる事で彼女に危害が及ばないよう、わざと突き放した時の彼女の絶望した表情も、


 泣き叫び、妹に届くことのなかった手を伸ばす姿も、


 あの日……、君が見せた、最初で最後の“笑顔”も。

 そして……。


『……さようなら、陛下……、いえ、ヴィクター様。

 私は、貴方のことが……』


 ……大嫌いでした。―――






「っ」


 ハッと目が覚めた。

 月明かりが窓から差し込み、極端な程家具の少ない寒々しい部屋の中を、ぼんやりと月の光が照らし出す。


「……っ、夢、か……」


 そう呟き、何気なく頰に触れれば、冷たく濡れる感触。


「……はっ、また泣いていたのか、俺は」


 自嘲し鼻で笑いながらそう言ってみたが、その声は、言葉とは裏腹に酷く掠れ、震えていた。


(……何を、今更)


 泣いたって、喚いたってどうしようもない。

 あの日、君を手放した。

 最愛の彼女を、自らの手で殺したも同然のことをしたというのに。

 俺は……、何処にいても、何年経っても。

 君の姿を探している。


(何一つ、この手で守れなかったくせに)


 彼女の大切な人……、父親を、妹を。

 助けたいと願い、何度も周囲の声を押し切り、助けようとした。

 ……けれど全て手遅れだった。

 戦場へ赴けば、彼女の父親の姿は骨さえも見つからなくて。

 妹は彼女を連れ帰る為に来たのに、予期せぬ魔力の暴走により謀反の罪を着せられ、目の前で殺された。

 それにより、彼女も……。


 何度も頭を過るその光景に、自分に対する怒りで震える拳を、力任せにドンッとベッドに叩きつけた。




 気が付けば、君が眠っている場所に来ていた。

 その場所は、君と同じ景色を見た、元は俺が気に入っていた場所……、城内で一番見晴らしの良い小高くなった丘の上。

 まだ夜明け前のその場所には、花々が咲き乱れている。

 花々はまるで彼女を守るように、そっと吹いた風と共にその小さな体を揺らした。

 それらを踏まないようにしながら、ゆっくりと彼女の眠る場所へと歩み寄る。


 やがてその目的の場所に立ち止まると、そっと冷たい墓石に触れた。

 その墓石には、彼女とその妹の二人の亡骸が葬られている。


「こんなところではなく……、君が本来居るべき筈の場所に、返してあげたかった」


 すまない。

 その言葉を何度、この世にいない君に向かって口にしただろう。

 だけど……幾ら謝っても、彼女が戻って来る筈もなく、一生その罪が消えることも無い。


(所詮、ただの自己満足だ)


 そう考えるのも、もう何度目だろうか。


 こんなに世界は広いのに。


 君は何処にも居ない。


 それでも。


「せめて……、君に見せたかったこの世界で、誰も、不幸になることのないように」

 

 この命尽きるまで、自分に課された宿命を果たすことを誓う。


「だから……、見守っていてくれないか」


 天を仰ぎ、そっとその名を口にした。




「……“リゼット”」




 さぁっと暖かな風が、無数の花弁と共に空を舞う。

 その傍らで、遠くの空が夜明けを告げるようにゆっくりと白み始めていた。




 

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