Epilogue
最終回です…!
どれくらいそうしていただろうか。
そっとヴィクターから体を離し、照れ隠しに二人で笑い合ったその時。
「あ、いたいた!」
「「!?」」
澄んだ高い女性の声が、私達の耳に届く。
その女性の声にパッと振り返れば、そこにはフェリーシナ様とウォルター殿下の姿があった。
「ふぇ、フェリーシナ様!」
私は慌ててヴィクターから離れようとしたが、彼は私の腰に回した腕を退けようとはせず、「邪魔をするな」とばかりに不機嫌そうに口を開いた。
「……もう少し空気を読んでくれませんか」
「あら、十分イチャイチャする時間はあったでしょう?」
フェリーシナ様は少し怒ったように口にすれば、隣に居たウォルター殿下が苦笑した。
「ごめんね。
私は止めたんだけど、フェリーシナがいつまで待っていれば良いんだと怒って……」
「!? ま、ままままさか」
見ていたんですか!?
私がそう問えば、彼女は「さあ何のことかしら?」と惚けながらも、ニヤニヤと笑みを浮かべていることに対し、私は確信した。
「……見ていらしたんですね」
「あら、不可抗力よ。 不可抗力。
だって私達、ヴィクターに用があって探していたんだもの」
「……用?」
フェリーシナ様の言葉に、ヴィクターが反応する。
彼女は「剣を出して」と、ヴィクターに向かって手を差し出した。
その手を見てヴィクターは怪訝そうな顔をしたものの、陛下から授かったこの国の宝剣をフェリーシナ様に手渡した、次の瞬間。
「「「!?」」」
フェリーシナ様は、思い切り高くその宝剣を宙に投げた。
「!? な、何をす」
「良いから、見てなさいって」
彼女はそういうと、真っ逆さまに落ちてくる宝剣に向かって何かを唱えた。
その瞬間。
パァっと、宝剣が光を放ち輝きだす。
「「「!?」」」
そしてゆっくりと、ふわふわと空を舞うように降りてきた剣をパッと手に取り……、ヴィクターに向かって差し出した。
「はい、私からのお祝い」
「!? な、何をしたんですか?」
「試してみたらどう?」
フェリーシナ様は驚くヴィクターに向かって意味深に笑うと、パチンッと指を弾いた。
その瞬間。
「!? わっ!?」
「「「!?」」」
ポンっと、確かにそこには居なかった、私の幼馴染の姿があった。
「! エルマー!」
「!? え、リゼット!? え、フェリーシナ様まで……、ど、どういうこと?」
何が何だか分からない、と困惑する彼に向かって、フェリーシナ様は「ちょっと一仕事して」と言うと、ヴィクターの剣を指差して言った。
「簡単な魔法で良いから、あの剣に向かって魔法で攻撃してくれる?」
「「「!?」」」
フェリーシナ様の突然の発言に、私達は驚き固まってしまう。
これには流石に、エルマーも驚いたような表情をしたものの……、次の瞬間ニヤッと笑って言った。
「良いよ」
「!? エルマー!」
フェリーシナ様が何をしたか知らないが、魔法を使えないヴィクターに攻撃するなんて無茶だ、と私は止めようとするが、それより先にエルマーは手から水を出現させ、その大量の水が一気にヴィクターに向かって放出される。
「……っ」
私は思わず目を瞑りそうになったが……。
「「「え……?」」」
次の瞬間、目を疑った。
魔法を放出したエルマーは勿論、まともに魔法を食らったはずのヴィクターも無傷だったから。
「どういう、こと?」
ポツリと私が呟けば、ヴィクターは剣をまじまじと見て言った。
「……この剣には、魔法が効かない?」
「ふふ、御名答」
フェリーシナ様はヴィクターの言葉に笑みを浮かべ、口を開いた。
「これは私からの餞別よ。
この国の国王であり、リゼットちゃんを守ろうとするその心意気を買ったの。
……魔力を与えることは出来ないけど、物を“祝福”という形で魔力をほんの少し分け与える事が出来る。
所謂、魔女にとっての箒のような魔道具ね」
その言葉に、先に口を開いたのはエルマーだった。
「は!? 古の魔法ってそんなことも出来ちゃうの!?
……というかそれって、ヴィクター……いや、ヴィクター陛下がチート能力を手にしたってことじゃん……」
「? チート?」
私はエルマーの言葉がよく分からず首を傾げる。 そんな私の呟きには答えず、彼は悔しそうに唇を噛み締めた。
その様子を見たフェリーシナ様はふふっと笑うと、ポンポンとその肩をまるであやすように叩いて口を開いた。
「まあまあ、貴方はまだ若いんだし、お姫様を守りたいのなら努力しなさい」
「……っ」
その言葉に、エルマーは私をチラッと見てほんのり顔を赤くする。
私は何となく察して思わずヴィクターの方を見れば……、不機嫌そうな彼の瞳とバチっと目が合ってしまう。
(あ、はは……本当に仲が悪いのね)
粗方私のせいかもしれないけど……。
微妙な空気になりそうな予感がしたのも束の間、フェリーシナ様がポツリと口を開いた。
「……若いって良いわね」
ま、私もまだまだ若いけど。
そう言って今度は嬉しそうに、ウォルター殿下の腕に手を回す彼女に、私は少し驚いてしまう。
「え、いつの間に……?」
剣を収めて近くに来ていたヴィクターがそう呟いたのを聞き、フェリーシナ様はふふっと笑って答えた。
「それは、私達だけの秘密」
ね、とフェリーシナ様がウォルター殿下を見れば、彼は少し笑って頷いた。
それを見て、私は思わず息を飲んだ。
(確かに……、この二人はお似合いだわ)
絵になるような美男美女の二人……。
それを私は惚けて見ていれば、隣に居たヴィクターがそっと私に耳打ちした。
「俺達は後半年後だな」
「!?」
その言葉に思わず赤面する私に対し、彼はふはっと吹き出して笑う。
「なーに、どうしたの二人して」
フェリーシナ様が突然顔を赤くした私と、笑い出したヴィクターに驚き声を上げれば……、今度はヴィクターが私の腰をぐっと抱き寄せ、「秘密だ」と笑って言った。
その表情を見て、私は改めて思う。
(この方の笑顔を……、二度と絶やしたくない)
“前世”とは違う未来。
この先に待つのは、もう“二度目”ではなく、全く新しい未知の世界。
(彼と……、こうして幸せになる為に、私は此処へ来たの)
それがどれだけ尊くて、幸せなことか。
……だからこそ、私は。
「……リゼット?」
突然黙った彼が、私の名を呼ぶ。
その声に顔を上げ……、私は今自分に出来る、とびきりの笑顔を浮かべて見せた。
「ヴィクター」
そして彼の名を呼び、耳元で言葉を口にする。
今の私の気持ちを的確に伝えられる言葉を。
「! ……あぁ、俺も」
その言葉を聞いた彼は、私の言葉と同じ言葉を、私の大好きな表情で口にしてくれた。
……“愛している”と……―――
―――それから更に、時が経った。
城下中の鐘が遠くで鳴り響き、城の鐘がまるでそれに応えるように、これから始まる“二人”の未来の祝福を告げる。
時を超え、運命を変える為に現れた少女。
その少女は今日、もう一度……、いや、新しい未来を歩き出す。
“最愛”の人と、共に……。
豪華絢爛な大広間の中。
嘗て色々なことがあったこの会場で、彼女は今度こそ、幸せを掴んだ。
純白の花嫁衣装を身に纏った彼女は、家族や友人に見守られ、大広間の中心を、前だけを向いて歩く。
そして祭壇の前に立つと、彼女の隣に立つ男性が、彼女の方を向き、その名を呼んだ。
「リゼット」
そう不意に名を呼ばれ、顔を上げた花嫁に対し……、彼は真紅の瞳を細め、柔らかく微笑む。
そんな彼に対し、彼女は……、微笑みを浮かべ、そっと噛みしめるように口を開く。
「ヴィクター」
そう名を呼んだ彼女に対し、彼はより一層破顔し……、そっと手を差し出す。
彼女は迷うことなくその手を取り、顔を見合わせ、心からの笑みを浮かべると、どちらからともなくギュッとその手を握った。
そして二人、互いに誓う。
喜びも、怒りも、哀しみも、幸福も。
全て分かち合い、歩んでいくことを。
二度目の人生こそ家族を守る為に嫁ごうと決意した令嬢と、前世現世共に冷酷と謳われた王子の結婚。
愛のない結婚を覚悟した二度目の政略結婚は、“前世”の記憶を持つ花嫁の少女が、自らの手でその幸せを掴んだ。
そして二人が紡ぐ物語は、“前世”とは違う新しい未来へと、続いていく……―――
『その政略結婚、謹んでお受け致します。 〜二度目の人生では絶対に〜』 end
ついに!最終回を書き終えました!!
感想欄にて温かなコメントを下さった皆様、ブクマ登録、評価、読者様に厚く御礼申し上げます。
本当に有難うございます…!
当初10万字程度を予定しておりましたが、気が付けば倍に!膨れ上がっておりました(笑)
今回、敢えてリゼット以外の心情描写を省き、それぞれが何を見て考えてきたか…、推理して読んで頂けるように執筆致しました。
その為、作者が考えた推理のちょっとした答えのようなものを、番外編という形で数話ほど、ヴィクターは勿論、他キャラの視点で書きたいと思っております。(その他にも書けたら、バレンタイン…!書きたいなとか、常々妄想中です)
もしリクエスト御座いましたら有り難く、書かせて頂きます!
もう少しお付き合い頂けたら、幸いです。
又近々、新作も出したいなと思っております…!
最後に長くなりましたが、此処までお読み頂いた皆様、本当に有難うございました!!




