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009 帰還、辞令、そして昇格


 まだガラガラと瓦解を続けている魔王城。

 もう、ほとんどが更地になっていた。


 俺は担いでいた連中を降ろし、その場に横たえる。

 そして回復スキルを発動させた。

 

「アドバンスドヒールフィールドⅢ(スリー)!」


 ボワンと緑色の大きな魔法陣が彼らを包み、ほとんどの傷を癒していく。

 なんでか、フランまで癒されていた。

 フランは怪我ひとつしてないのに!?


 うーん、それにしても便利だ。

 こんなのが地球にもあればなぁ。

 災害や事故で命を落とす人もだいぶ減るだろうに。

 異世界ばっかりこんなのがあるのはズルいよ。


「ステータスオープン! さて、気絶した連中に効きそうなスキルはないもんですかねー……」


 俺はウィンドウをスクロールし、スキル一覧を眺めた。

 全てのスキルは習得したものの、数が多すぎて把握できていないのだ。


「おっ、これはどうだろ?」


 俺が目に止めたのは、僧侶系スキルのひとつである。

 スキル名は【トランスファーメンタルパワー】

 効果は、スキル使用者の精神力を対象に分け与えると言うものだ。


 基本的にこの世界のスキルとは、Ⅰ(ワン)からⅣ(フォー)まであり、数字が上がるごとに効果や対象の範囲も増える仕組みとなっている。

 こんなこと、今更説明されても困るだろうけど、一応な。


 ま、内容は微妙に曖昧だが、試してみる価値はありそうだ。


「トランスファーメンタルパワーⅣ(フォー)!」


 もやもやと紫色の煙が立ち込め、みんなの身体へ吸い込まれていった。

 なんだか毒々しい感じがするけど、大丈夫かこれ。

 しかも、またフランにまで発動しちゃってる。


「う、うーん……」

「おっ、気が付いたか?」


 効いちゃったよ。

 すげぇな俺。

 よく見つけたよこんなスキル。


「こ、ここは……? はっ! アキト団長!? 僕たちはどうなったんですか!?」


 ガバリと起き上がるアベル。

 やばい、なんて説明しよう。


「い、いやー、アベルたちの活躍はすごかったぞー! あの魔王を圧倒しちゃってさー」

「え? え!? でも、僕たちは魔王の放ったスキルの直撃を受けて……」


「あ? あー! それな! あのあとも倒れることなく戦ってたよ!? たぶん無意識でも身体は動いたんじゃないのかなー? さすがは勇者様だよなー! はっはっはっは」

「そ、そうなんでしょう、か?」


 信じられないように己の手を見るアベル。

 すまない……すまない……!

 勇者が魔王を倒したってことにしておかないと、業務進行予定が狂っちまうんだ。

 お前たちを騙す団長を許しておくれ。


「みんな起きたか。よしよし、じゃあ凱旋と行こうじゃないか。まずは王様に報告しないとな」

「はい、そうしましょう。空から落ちた団員も、王都へ集まっているはずです」

「だな。では、帰還のスキルを発動するから集まってくれ」


 俺は四人と握手をしたあと、アベルの肩に手を置いた。


「じゃあな、アベル。これからは平和な世界で達者に暮らせよ」

「え? アキト団ちょ……」

「リターンオブシティⅡ(ツー)!」


 俺の発動したスキルによって、アベルたち四人の姿が消えていった。

 今頃は王都へ転移完了しているはずだ。


 転移寸前に見えたアベルの顔はくしゃくしゃだった。

 きっと察したのだろう。

 俺たちとの別れを。

 あいつは聡いからな。


「アキトー、起こしてー」

「まだ倒れてたの!?」


 俺はひょいとフランを抱きあげ、今や完全な更地となった巨山の頂から景色を眺めた。

 少しでもこの世界の風景を目に焼き付けるために。


 ピロリンと荷物の中でタブレット端末が鳴る。

 引っ張り出して画面を見れば、業務進行表に新たな文字。


 出張業務全行程終了。

 帰還許可。


「おー、帰還許可だってよ! 帰れるぞフラン!」

「わーい! そうだアキト、食べ放題飲み放題の件、忘れてないでしょうね」

「わかってるわかってる。好きなだけどうぞ」

「やったー!」

「んじゃ帰ろうか。事務室へ飛べ!」


 こうして俺たちは四日間にわたる出張業務を終えて、神界に帰還したのである。


-----------------------------------------------------------------------------------


 あれから数日が過ぎた。


 俺は徹夜でレポートをまとめ、ギリギリで大学へ提出することができたのだ。

 これで留年はどうにか免れるだろう。

 あとは出席日数だな。


 約束通り、フランを食べ放題の店へ連れて行き、彼女の腹を満たしてやった。

 その折に、しれっと渡されたものがある。

 出張業務報告書だ。


 こいつは日報ばかりか、業務報告書まで俺に書けと言うのだ。

 なんたる自堕落。

 俺以下だ。


 なんでも、今は俺がメインで働いているんだから書くのは当たり前でしょうと言うことらしい。

 雑すぎる理由だが、俺たちの手で魔王を倒しちゃった事実を隠蔽をせねばならないのも確かである。

 結局、報告書も俺が徹夜でまとめ上げる羽目になった。


 ヒィヒィ言いながらやっとの思いで書き上げた報告書を提出してから二日後、事務室で書類の整理をしている時にそれは起こった。


 ピンポンパンポーン


 どこからかチャイムが聞こえたのだ。

 スピーカーらしきものは見当たらないのに!?


 そして告げられたのは。


「業務連絡をいたします。救済の女神フランシア、及び、臨時女神代行の火神秋人。両名は神事しんじ部長室までおいでください」


 やたら毅然とした女性の声であった。

 思わず顔を見合わせる俺とフラン。


「神事部ってなに!? 人事部みたいなもの!? ……まさかフラン、お前なにかやったのか?」

「し、しらないわよー。えぇ~、行くのやだなぁ~、アキトが一人で行ってよ~」

「やだよ! つっても、どっちみち行かないほうが怒られるだろ。ほれ、いくぞ」

「うん……」


 フランがこんなに嫌がるなんてな。

 いったいどんな場所なんだか。


「人事……もとい、神事部長室へ飛べ!」


 そこは、広く明るい部屋であった。

 天窓から差し込む陽光が眩しい。


 巨大な書棚がいくつも並び、機材もかなり揃ってる。

 あ、コピー機だ!

 いいなぁ。

 書類整理に便利なんだよなぁ。

 ……いかん、だんだん神界の仕事に染まってきているな俺。


 部屋の奥、窓際には、いかにも高級そうな黒檀の机があり、とんでもなく座り心地の良さそうな椅子に、誰かが座っていた。

 その人物がスックと立ち上がり、ハイヒールの足音も高らかにこちらへ歩いてくる。


 すらりとした身体に、黒のパンツスーツ。

 長い黒髪を頭の上でまとめ、三角形のレンズが入った眼鏡を指でクイックイッと上げている。

 性格はきつそうだが、美人ではあった。


「神事部長の女神アストレアです」


 先程のアナウンスと同じ、毅然とした声だった。

 彼女の背後に、女神としてはあるまじき禍々しいオーラを感じた気がする。


 何だこの人。

 威圧感すげー!


「救済の女神フランシア、参上いたしました」


 そう言いながら頭を下げるフラン。

 俺も真似したほうがいいかな?


「臨時女神代行、火神秋人、参上いたしました」


 ぺこりん。


 そんな俺たちを見て、フンッと軽く鼻を鳴らすアストレアさん。

 無言の威圧感が半端ない。


 なるほど。

 こりゃ確かに怖い。

 フランが嫌がるわけだ。


 おい、やめろフラン。

 プルプル震えるな。

 俺までビビっちゃうだろ。


「あなたがたをここへ呼んだのは他でもありません。先日のミドガルズにおける出張業務の件です」

「「!?」」


 やばい、やばい。

 適当に書いた業務報告書がまずかったんだろうか。

 話を結構盛ったからな。

 いや、もしかしたら、魔王を倒したのが俺たちってバレた可能性もある。

 あれ?

 どっちにしてもダメじゃん!


 俺たちがガクブルしていると、アストレアさんの真っ赤な口紅で彩られた唇が動いた。

 死刑宣告か……


「……コホン。社ちょ……いえ、主神様からのお言葉を伝えます」


 今、社長って言おうとしなかった!?

 ホントにどうなってんだこの神界は!


「此度の出張業務ご苦労であった。今後も業務に励むように」

「「!!」」


 おお……取り敢えず主神様はお怒りではないようだ。

 良かった……命拾いした。


「なお、添付した辞令をよく読むように、とのことです。これが辞令よ」

「「辞令!?」」

「全く、主神様も何をお考えになっておられるのかしら……本来なら女神の業務に男を……ましてや神ならぬ人間の男を入れるなど……ブツブツ」


 なにやらアストレアさんに文句を付けられているようだが、辞令が気になって、まるで耳に入ってこない。

 受け取ったフランが、震える指で辞令を開封する。


 辞令っつったら会社の命令書だろ?

 まさか俺たちを左遷する、とか書いてあるんじゃないだろうな。

 化物しか住んでいない世界の出張所とかだったら嫌すぎるぞ。


「これって……」

「なんだよ、早く読んでくれよフラン」


「……本日付けをもって、救済の女神フランシアと臨時女神代行火神秋人の両名を、特殊部門救済課の課長に任ずる……」


「な、なんだってーーーー!?」


「うるさいわよ! 用件は済んだのだから、さっさと部署へお戻りなさい!」

「「は、はい! 失礼いたしましたー!!」」


 俺たちは混乱した脳みそのまま、神事部長室から逃げるように転移するのであった。


 くわばらくわばら。


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