079 終わりなき日々
『両舷全速前進。アポカリックブースター点火。ナイトメアエンジンフルドライブ。臨界まで、あと5。目標捕捉、太陽系第三惑星』
やたらとイケメンなボイスで魔界の現状を告げる機械音声。
これ、絶対ヘルラエル婆さんの趣味だろ?
ゼノウルス爺ちゃんもかわいい声の機械音声使ってたし。
あんたら、どんだけ似た者同士なんだ。
って、ボーッとしてる場合じゃねぇ!
魔界はもう、地球へ向けて動き出している!
全長が5000キロもある超質量体がふたつも地球へ落ちてみろ。
100%人類は滅ぶ。
いや、それどころか地球は粉々になるだろうよ。
月よりデケぇもんが二個だぞ?
アメリカのNASAが氷漬けにならず、今も機能を保っているとしたら地球は大パニックになっちまう。
映画のア〇マゲドンより、遥かに状況は厳しいがね。
助けてくれるようなヒーローはいない。
ヒーローはいないが、神ならここに居る。
そうだよな?
フラン!
「あわあわあわ……ねぇ、どうするのよアキト……どうしよう? どうしたらいいの? 地球が滅んだら美味しいものが食べられなくなっちゃう!」
期待してすみませんでした!
このままじゃ死ぬってのに、まさか食いものの心配をしているとはな。
おみそれしましたよ、ホント。
「なぁ、ヘルラエル婆さん」
「なんじゃい。殺すならとっとと殺せ」
まだ言ってんのかこのババア。
「この魔界を止める方法は?」
「はんっ! 無駄じゃ無駄じゃ。燃料が無くなるまで止まりゃせんよ!」
「そうか……なら、動力部をぶっ壊すしかねぇか……」
「ほっほほほほ! それを悪足掻きと言うのじゃわい! エンジンに攻撃すると自爆するから精々頑張るんじゃな!」
こいつ!
念入りに仕掛けやがって!
頭に来たぞコンニャロウ!
ゼノウルスのジジイ共々反省させてやる!
俺は体内で神力を練る。
神気を浴びて怯える婆さん。
俺の神力は神界へコネクトされ、一人の人物が中空に結像する。
「……な、なんじゃゾイ……? おお! アキトとフランシアか! ……あぁぁ!? ヌシはヘルなのかゾイ!?」
「えぇぇ!? ゼノなのかえ!? い、いやーん!」
そう、俺は神界にいる元神界長ゼノウルスをこの魔界、しかも魔界長ヘルラエルの眼前に転移させたのだ。
無論、問答無用で強制転移。
封印は解けても神力の戻っていない爺さんは、わずかな抵抗すら出来なかったろう。
だっはっはっは!
見ろよ、二人のキョトンとした顔を。
痛快!
「爺さん、婆さん。あんたら二人だけの問題が、地球、神界、魔界を滅ぼすかもしれねぇんだぞ。ちったぁこの中で反省しやがれ! ハニープリズン!」
俺が指定した者を強力な檻に閉じ込める、オリジナルゴッドスキル『愛の牢獄』である。
こいつは神だろうが魔族だろうがお構いなしに捕らえるぜ。
マリーやミリィが暴走した時用に開発したんだが、こんなところで役に立つとはな。
「なんゾイこれは! 出せ! 出すんじゃ!」
「アタシも出しておくれ! こんな男とこんな狭いところにいたら犯されてしまうわい!」
「だっ、誰がこんな婆さんを犯すんだゾイ!? ワシのほうこそ襲われそうだゾイ!」
「なんじゃとこのクソジイ! ウギィィィ!」
「いたっ! 痛いっ! ひっかくなゾイ! 既に襲ってるゾイ!」
光の格子に覆われた二人が、早くも取っ組み合いの痴話げんかを始める。
まったくもう。
仲良くできないのかねぇ。
俺どころかフランですらドン引きしてんぞ。
「あのさぁ、俺の勝手な推測なんだけど、あんたら元恋人同士なんだろ? もしかしたらこれが最後の機会かもしれないんだから、ちゃんと話し合ってみなよ。俺は一応、このポンコツ船をなんとか止める努力をしてみるからさ」
「……アキト……むぅ、確かに一理あるゾイ……」
「……最後、か……アタシはなんてことを……」
俺に諭された二人の老人がうつむいた。
色々と思うところもあるのだろう。
「アキト……かっこいい……その身を捨てて全てを救うのね……」
捨てねぇよ!
キラキラした目で見るなアホフラン!
現実ってもんを突きつけてやるわ。
「なに他人事みたいに言ってんだ? お前も行くんですけど?」
「へ……!? ちょっと言ってる意味がわからないです」
「なんでだよ。このバカみてぇにデカい船がふたつもあるんだぞ? で、神力を持ってるのは現在俺とお前だけ」
「ふーん。あ、私はちょっとお腹が痛いから体育は欠席するね」
「小学生みたいな言い訳すんなっ! 体育じゃねぇから!」
「だってだって! どうすんのよこんなでっかい船!」
俺はニヤリと笑いながら、フランに告げた。
「押すんだよ」
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俺とフランは腕組みをしながら宇宙に立っていた。
俺たちの背後には、守るべき蒼く輝く地球の姿がすぐそばにある。
そして前方には艦尾同士がくっついてしまい、幅の狭いV字型になってしまった神界と魔界が迫りつつあった。
「いいか。俺は推進力の高い魔界を。お前は神界を頼む」
「う、うん」
よく見りゃフランの身体が小刻みに震えている。
さっきまでベソかいて駄々こねてたくらいだし、やっぱり怖いんだろう。
地球人、神族、魔族、全ての命運を背負っちまったわけだからな。
すまねぇなぁ。
不甲斐ない彼氏でよ。
俺はそっとフランを抱き寄せ、少し青ざめた唇に口付けした。
「ん……アキト……」
「……なぁフラン。無事に帰ったら、結婚しようか」
「えっ……! うん!!」
やっべ!
俺自らが死亡フラグみたいなこと言っちゃった!
しかも臭いセリフ!
いやん!
でもフランはとっても嬉しそうだから、これはこれでいいかな。
俺にも覚悟と約束ができちまったし、反故にはできなくなった。
ならば果たすまでよ。
「さっき神界聖艦のコンピューターには音声だけ送って指示を出しておいた。逆噴射に巻き込まれるなよ?」
「了解よ! うへへー、アキトと結婚かぁー、ウエディングドレスも見に行かなくちゃー」
完全に夢見る乙女モードのスイッチが入っちまってる。
まぁ、泣きわめかれるよりはマシか。
「3、2、1、行くぞ!」
「はい!」
俺とフランは二手に分かれ、魔界と神界の艦首に取りついた。
うへぇ、でっかいドクロ!
アルカディア号のパクリかよ!
なんつー趣味だ!
「ふんぎぎぎぎぎぎぎぎ!!!」
「きぃぃぃぃぃぃ!!!」
俺もフランも全力で押し返す。
重い!
重すぎる!
全長5000キロは半端ねぇな!
背後に感じる地球の圧力。
だが、そろそろ時間のはず。
頭の中のカウントダウンが合っているならな。
シュゴォォォォ
ドンピシャ!
神界が逆噴射を開始した!
これでちったぁ軽くなるはず……
あれぇ!?
ぜんっぜん変わんねぇ!
あっ!
魔界も思い切り噴射してる!
「アキト! どうなってるの!?」
「魔界が第二加速をかけたんだ!」
「えぇぇぇ!?」
「踏ん張れぇぇぇぇ!!」
くっそ!
気分はνガ〇ダムだぞ!
「まずいんじゃないのこれぇぇ!?」
「神界長は伊達じゃない!!」
「? なに言ってんのアキト」
「いや、なんでもないです……」
ちょっと言ってみたかっただけなんです!
そんな気分だったんです!
チリチリと背中を焦燥感が駆け抜ける。
あれ?
俺の背中、赤く光ってない?
焦燥感じゃなくて大気圏だこれ!
「もうダメ! 持たないわ!」
「バカ野郎! あきらめんな! 俺たちしかみんなを救えないんだぞ!」
そんなことを言った俺ですら、少しだけ焦りとあきらめが同居し始める。
神界長ってこんなもんなのか……
背後には視界に収まりきらないほどの大きな蒼き星。
ああ、陸地はほとんどが凍ってしまっているな。
人類はこれで終わりだよ。
すまない。
『秋津火吐大神よ! なにを諦観しているのです! それでも神界長ですか! 芦原の中つ国のことは心配せずとも我々にお任せなさい!』
ビンタを喰らったような叱咤が俺を打った。
俺は驚き、首だけを後ろへ向ける。
フランもポカンと口を開けていた。
地球のほうから声がする。
老若男女、様々な声。
これは……
人ではない。
神々だ!
地球の神々が自らの惑星を守ろうとしているのだ!
俺に声をかけたのは黒髪の美しい女性。
太陽を模した冠を被っている。
まさか、天照大御神さま!?
ああ!
他にも日本の神々が!
あちらには隼の姿をした……エジプトのホルス神か!?
うははは!
白い布を被った神さまはメジェド神だな!
おお!
そっちにはとてつもない力を感じる槍を持った神が!
きっと北欧の神オーディンだろう!
他にも何千、何百の神々がこんなに!
『この星と人々は我々が守護します。ですから秋津火吐大神よ、あなたはそちらに集中なさい』
「神々よ! 有難く!!」
「す、すごいわ……こんなに神々が集うなんて……」
ここまでされちゃあ、出来ませんとは言えねぇわな!
「フラン! 俺たちも負けてらんねぇぞ!」
「そうね! アキトと結婚するためだもんね!」
そっちかよ!
宇宙空間だがズッコケそうになったわ!
見ろよ!
神さまたちもご丁寧にズッコケてくれてんぞ!
ともかく、俺とフランは気合を入れ直した。
今度こそ全身全霊をもって押し返す。
「ふんぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!」
「にゅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
嘘だろ!?
それでも負けてるのか!?
なんちゅう推進力だよ!
『まだあなたは本気を出しきれていません。神となって日が浅いのもあるでしょうが、あなにとって本当に大切なものを思い出しなさい』
天照大御神さまの優しい声がする。
俺にとって大切な……?
そんなもん、決まってるよな。
歯を食いしばったフランの横顔を見やる。
思えはフランと出会い、一緒に仕事をし、同じ時間を過ごしてきたんだ。
そして、俺はこの女神をいつからか好きになっちまった。
おっと、忘れちゃいないぜ。
マリー、ミリィ、ユエルもな。
みんなと出会わなければ今の俺はなかったよな。
本当に感謝してる。
それと────
「フラン、愛してる」
「私も愛してるわ、アキト」
バサッ
微笑み合う俺とフランの背中から白く輝く翼が生えた。
フランは6枚。
俺には12枚の翼が。
「「うおぉぉぉぉおおおおお!!」」
輝きが宇宙の全てを覆い尽くし。
全てが終わった。
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「ねぇ、アキト。この箱はどこへ置けばいいの?」
「ああ、すまんなフラン。それはキッチンだ」
「はーい」
「アキトー、わらわのゲーム機はどこにしまったのじゃー?」
「俺がわかるわけないだろ! マリー、だからちゃんと箱に中身を書いておけって言ったよな?」
「アキトさ~ん、冷蔵庫を持ってきましたよ~」
「うおっ! 力持ちだなユエル! そんな特技あったの!?」
「アキトさん。水道業者のかたが私をいやらしい目で見てくるんですが、殴ってもいいですか?」
「やめなさいミリィ! そりゃお前の自意識過剰だ!」
そうなんです!
今日は楽しい引っ越しの日!
そうなんです!
ついに家を買っちゃったんです!
なんと6LDKの豪邸を!
しかも都内に!
庭付きで!
いやぁ、とうとうここまで来ちゃいましたよー。
苦労したなぁ。
そして成り上ったもんだなぁ。
神界長の給料ってすごいんだねぇ。
まぁ、それだけじゃいくらなんでも足りないから、特別報奨金も使ったんだけど。
不動産屋に一括で買うっつったら、気絶しそうになってたっけ。
おっと、色々説明不足だったな。
あれから半年が経ったんだ。
どうにか魔界の落下を食い止めた俺とフランは、マリーたちとも話し合い、滅亡に瀕した魔族の保護をするべく神界を奔走した。
ちと強引にはなっちまったけど、過半数以上の女神たちの賛同を得て、条件付きではあるが特別保護観察処分にまで持って行くことができたわけだ。
まぁ、条件ってのは人間から生気や悪感情を吸わないってことなんだが、それだと結局魔族は滅んでしまう。
で、困った俺が色々調べた結果、とんでもないことを発見してしまったんだ。
なんと、魔族ってのは普通の食事だけで生きていけるんだってよ!
今まで一切食事というものをしたことがないってんだから逆に驚きだろ?
こうなりゃ話は早い。
存分に俺のメシを食わせるまでよ!
ってなわけで、魔界内部に神界食堂二号店(仮)をオープンさせたわけだ。
ちなみに、今も神界と魔界は繋がったままだったりする。
保護観察するにも丁度いいってんで、そのまま改装したわけよ。
……あの外装と内装は魔界のままだとイメージ悪いもんな。
ゼノウルス爺ちゃんとヘルラエル婆ちゃんはどうなったかって?
……ラブラブです。
まるで失った時間を取り戻すかのようにラブラブです。
二人とも神界長と魔界長を引退したもんだから時間はたっぷりあるしな。
時々地球へやってきて散歩してたりするらしいぜ。
その地球も、ヘル婆ちゃんがスキルを解除し、神々の尽力もあってだいぶ復興してきている。
今もあたたかな陽光が地球を照らしているよ。
氷は全部溶けたしね。
ま、これで当面の敵はいなくなったし、これからは割とのんびりできそうだな。
「アキトー! ちょっとこっち来てー!」
おっと、愛するフランが呼んでる。
みんなとの結婚式も控えているし、まだまだ忙しくも楽しい日々が続きそうだ。
んじゃ、ちょっくら嫁たちのところへ行ってくらぁ!
またな!
最後までお読みいただきありがとうございました!m(_ _)m




