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050 幻のファンクラブ


「ごちそうさまー。今日も美味しかったわよ」

「ごちー。ねぇアキト、今度私の部屋に来てご飯作ってくれない?」

「アキト、またね。あなたの料理、最高だわ」

「ごちそうさまでした、アキト部長。あ、あの、これ、後で読んでください……! キャー!」

「満足満足ぅー、明日も来るわねー、バーイ」


 食事を終えた女神たちがゾロゾロと食堂から帰って行く。

 中には投げキッスやウィンクをくれる女神もいた。

 いやぁ、美味いと言ってもらえるのはありがたいねぇ。


「毎度ありー、またよろしくなー」


 愛想よく送り出す俺。

 母親にも言われたけど、俺はやっぱりこっちの仕事が合ってるのかなぁ。



 異世界ハイペリオスを救済し意気揚々と帰還、いや堂々と凱旋してから数日が過ぎた。


 丸一日の休暇をもらい、存分に惰眠をむさぼり英気を養ったのち職場復帰を果たした俺とフラン。

 いつものように業務報告書を、フランと二人でウンウンうなりながらもなんとか書き上げ提出したのが昨日のこと。

 そして今日、俺はすぐさま食堂で腕を振るっているわけだ。


 あんまり日にちをあけちゃうと、料理の勘も腕もすぐ鈍っちまうんだよ。

 まぁ、出張期間はほんの数日だったし、味は落ちてなかったけどね。


「ほほー、アキトはおモテになりますのー。あれはきっと、らぶれたぁと言うものじゃな」

「鼻の下が50センチは伸びてますね。あ、1メートルまで伸びましたよ」

「アキトさんが色々な女の子に好意をもたれるのは~、うれしいような切ないような~……」

「え? え? アキト、浮気してるの!?」


 マリーとミリィ、ユエルにフランは四人掛けのテーブルでダラダラとだべっていた。

 俺は忙しく働いているのにだよ?


「1メートルも伸びるかっ! それに浮気もしてねぇし、ラブレターなんてもらってねぇ! つーか、マリーはともかく、お前らは片づけを手伝えよ! もう食堂を閉める時間なんだぞ!」

「じゃあ渡された手紙はなによ! 婚姻届けなんじゃないの!?」


 柳眉をつり上げるフラン。

 全くこいつは、いったいどんな思考回路になっているんだろうか。

 俺は流れるような動作でフランの眼前に封筒を突きつけた。


「アホか! どんだけ飛躍した発想だよ!? よく見ろ、文房具の領収書だ! あの子は総務部の女神だったろ!」

「あの萌え袖の子? あ、ホントだ。領収書って書いてある……えへへ、疑ってごめんねアキト」

「えぇー、つまらんのじゃー! 修羅場が見たかったのじゃー!」

「どうやらアキトさんにそんな甲斐性はなかったみたいですね」

「ホッとしました~」


 なんなのこいつら。


 ま、実はもう一通もらってたりするんだけどな。

 しかもハートのシールが貼ってあったりしてなんともかわいらしい。

 二通重ねて渡されたんで、フランたちには気付かれていまい。


 グヘヘ。

 あとでこっそり読もう。

 あの総務部の子、大人しくて純情でかわいいんだよね。

 手紙の内容が本当にラブレターかはわからんけど。


「……アキトさんからなにかよからぬ思考の気配を感じますが……確かに食器を洗わねばなりませんね」

「うん、確かにちょっと怪しいわね。さて、追及は後にして片付けしちゃおうかしら」


 ギクゥ


 ミリィとフランはこう言う時だけ鋭いから困る。

 おっとりしているユエルを見習え。


「じゃー、わらわは先に戻っておるからのー」


 ジュースのストローを咥えたままピョインと転移していくマリー。

 あの子は本当に副神界長なのか時々疑いたくなる。


 ってか、どうせ救済部長室に戻るならドアから行けよ。

 わざわざ転移するとかどんだけ無精なんだ。


 ジャー

 カチャカチャ

 キュッキュッ


 食器や調理器具をきっちり洗い上げる俺たち。

 道具に感謝する気持ちを忘れてはいけないのだよ。


「それにしてもアキトさんはすごいですね」


 皿を拭きながら俺を見ているミリィ。

 おや、珍しく畏敬いけいの念がこもっているじゃないか。


「なにがだい?」


 素知らぬ顔でシンクを洗う俺。

 油汚れは許さないのだ。


「まさか出張先で魔族を始末してくるなんて、驚きましたよ。神界中がその噂で持ち切りです。救済部の部長が魔族をブッ殺してきたって」

「人聞き悪いよ!? それに言いかたもひどい!」


 そんな噂が流れてるとは……


「しかもその魔族は女性だったそうじゃないですか。これでは部長のほうが悪だ、あいつはアクトだ、アホトだ、と」

「あっははははは! アホトだってー! あははははは!」

「ぷぷぷぷぷ~!」

「誰だそんな噂を流したやつぁ! 今すぐ出てこい!!」


 ふざけんな!

 頑張った俺に対する仕打ちがそれかよ!

 言い出した張本人を見つけたら絶対とっちめてやる!


 俺は憤懣やるかたない気持ちをタワシにぶつける。

 ガッシュガッシュと全力でシンクを洗うしかなかった。


「でもですね。これは、ある情報筋からの話なんですが、なんでもアキトさんのファンクラブができたらしいですよ」

「!? マジで!? へっへーん! ほれ見ろ、ちゃんと俺の良さをわかってくれる女神はいるってこったな!」

「嘘ォ!? 私のアキトに!?」

「ふぁんくらぶ? ってなんですか~?」


 怒りは瞬時に消し飛んだ。

 今度は至福の気持ちが湧き上がってくる。


 マジかよ。

 すげぇじゃん俺。

 いつからそんなモテ男になったんだ。


「あ、アキトさんが作る料理のファンと言うことです」


 ガクッ


 ま、まぁそうですよねー……

 ミリィめ、期待させるような言いかたしやがって……


「なぁんだ、それなら納得ー」

「わたしもアキトさんのお料理は大好きですよ~」


 ファンクラブがわかってないユエルはともかく、フランはそこで納得すんな!

 なんだよ、俺がモテちゃ悪いのかよ。

 いやまぁ、もう不相応なほどモテてるんですがね……


「ファンクラブなんかなくても大丈夫です。私はアキトさんのことを愛してますから」

「あ、私もー! アキトラブー!」

「わたしもですよ~、らぶらぶです~」

「ホントにそう思ってる!?」


 なんか取ってつけたように聞こえるよ……


「ふー、片付け完了ー。お疲れ様」

「お疲れ様ー」

「お疲れ様でした」

「お疲れ様です~」


 俺は毎度この瞬間が好きなんだ。

 フランたちがエプロンを外す、その仕草がな。


 マニアックとか言うな!


 ユエルなんて三角巾に割烹着だぞ?

 しかも下には着物を着てるわけで。

 これが興奮せずにいられるか。


 ……ごめん。

 やっぱりマニアックだったな。



「あれ? マリーはいないのか」


 部長室に戻った俺たち。

 いつもならソファでのんべんだらりとしているマリーの姿がない。


「トイレにでも行ってるんじゃないの?」

「その辺をフラフラしてるんじゃないですか?」

「他の部署へからかいにいったのでは~?」


 誰も執務に戻ったとは考えないのね。

 マリーが普段、どう思われてるのか一発でわかるよな。


 そこへタイミングよく帰ってくるマリー。

 いや、タイミング悪く、かな?


「って、あれぇ!?」


 マリーの姿が一変していた。

 いつものピンクなヒラヒラドレスではない。


 白いブラウスに黒いジャケット。

 ミニのタイトスカートにストッキング。

 そして長いフワフワな金髪をまとめてアップにしていたのだ。


 キャリアウーマン!?


 ……それにしても、幼女がスーツを着てるとなんとも言えぬエロスを感じるな……

 しかもタイトミニに黒ストはまずいだろ。

 そこにばっかり目が行くぞ。

 なでさすりたい!


「んっふっふー。アキトもわらわの姿にメロメロのようじゃのー」

「はっ!?」


 でも、その通り!


「それより、どうしたんだその格好は。まさか、やっと仕事をする気になったの!?」

「ひどいのじゃ! わらわはきちんと執務をこなしておるのじゃ!」


 嘘つけぇ!

 見たことねぇぞ!


「なんせ今日は特別じゃからのー」

「んん? まさか俺に見せるためだけに着替えたの?」

「違うのじゃ! 今にわかるのじゃー」


 ピンポンパンポーン


『業務連絡、業務連絡』


 お、アストレアさんの声だ。


『救済部部長の両名は役員専用会議室までおいでください』


「は?」

「はい?」


 顔を見合わせる俺とフラン。


「と言うわけじゃ。当然わらわも出席するからの」

「はいぃぃぃ!?」

「えぇぇぇ!?」



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