048 黒幕がいるのはお約束
「いよいよね」
「だな」
俺たちは99層のボスを倒し、100層への移動装置を作動させたところだ。
バランさんの話だと、100層が最上層とのことだった。
バランさんたち?
彼らなら98層の休憩所にいるはずだよ。
別に俺がついて来るなと言ったわけじゃない。
むしろ彼らが足手まといになるだろうからと、自ら残ったんだ。
正直言っちゃえば、賢明な判断だったと思う。
99層のボスは結構強かったもん。
だけど、さすがはレジェンダリーウェポンだったね。
エターナルソードの切れ味はすさまじく、ボスの装甲もなんなく斬り裂いた。
これ、本当はプレイヤーに与える武器じゃないだろ?
開発者がテストプレイで使うようなチート武器としか思えんぞ。
言ってみれば俺たちは異物だからな。
その異物が侵入したからバグが発生したんじゃねぇか?
それはともかく、俺たちはいよいよ出張業務のファイナルステージに向かうわけよ。
「ねぇアキト。お願いがあるんだけど」
「ん? いいけど、なんだ?」
「キスして」
「ぶっ! ごめんなさい。言ってる意味がさっぱりわかりません。発情期かなにかですか?」
「ちがうもん! 旅の終焉を迎えた記念よ、記念!」
「余計に意味不明だぞ」
「もう! ニブちんね! 出張が終わるってことは、神界に帰るわけでしょ? そうしたらゆっくりキスもできなくなるじゃない。小姑がいっぱいいるし」
「はっははは、小姑ってひどいなお前。でもそうか、一理あるな」
「でしょ? だからね、しよっ? ん~」
「仕方ねぇなぁ」
俺がフランに顔をよせた時だった。
「ええい! なにをイチャイチャしておるのだ! さっさと登ってこんかぁ! ぜいぜい!」
大音量で男の声が響いたのだ。
誰だよ邪魔するのは。
「ガイアーって人じゃないの?」
「かもな。うわっ!?」
よほど業を煮やしたのか、昇降装置がひとりでに起動した。
きっと声の主が遠隔操作したのだろう。
俺たちが連れ込まれた場所は、まるでビルのワンフロアであった。
真っ白な壁と床、そして高い天井。
その真ん中にはポツンとデスクがある。
デスクを囲んでいるのは、素人の俺が見てもわかるようなコンピュータ群。
立派なチェアに腰かけるは初老の男。
あいつが全ての首謀者にして、こんなクソゲー……もとい、こんなシステムを作った張本人のガイアーであろうか。
ぱっと見は普通のおっちゃんだけど。
「よく……さぁ……来た……」
声ちっちゃ!
ボソボソすぎてなにを言ってんのかさっぱりわっかんねぇ。
コミュ障かよ。
さっきみたいにマイクを通せ、マイクを。
仕方なく俺とフランはデスクへ歩み寄った。
なにかの罠かとも思ったが、罠感知スキルに反応はないようだ。
オーケー。
ガイアーは、なにかに怯えた顔つきで、開口一番にこう言った。
「よ、ようやくここまで来てくれる者が現れたか。頼む私を助けてくれ!」
「「はぁ?」」
ポカンと口を開けてしまう俺とフラン。
そりゃそうだろう。
諸悪の根源がこの期に及んでなにを言い出すんだ。
「どう言うこった? てめぇがこんなクソシステムを使って人々を大量に殺したんじゃねぇのかよ?」
「そうよそうよ! 大人しく私たちに倒されなさい!」
フランも俺の尻馬に乗って過激なことを言いやがる。
それでも女神か。
「ち、違う! 違うのだ! 私は騙されたのだ!」
「は? 誰にだよ」
「嘘おっしゃい! 調べはついてるのよ! 観念しないとちょん切っちゃうんだから!」
どこを!?
ガクガクと震えだすガイアー。
まさかフランの脅し文句が効いたんじゃあるまいな。
いや、確かに切られる部位によってはとんでもなくおっかねぇけどよ。
「き、聞いてくれたまえ! 私は今、この椅子に固着されて動けない! ある者の手によって!」
「んん??」
「はい?」
話がさっぱり見えてこない。
「そいつは私に近付きこう言った。『ガイアーよ。貴様の才能を世に知らしめたくはないか? このまま埋もれてしまっていいのか? これは世界を見返すチャンスなのだ』と! 私はその甘言に乗せられてしまったのだよ!」
「……」
なにも答えぬ俺に身を乗り出すガイアー。
「最初はこんなに恐ろしいゲームではなかったのだ! 少しばかり人々を閉じ込め、ゲームをクリアさせて解放する予定だったのだ! だが、だがあいつは……! 私の作品をデスゲームに変えてしまった! 人々に殺し合いをさせ、死の恐怖を与えることが、最も効率的に悪感情を生み出しギャアアアアアアアア!!!!」
突然、ガイアーの胸から槍が生えた。
全身を硬直させ、絶叫を放つガイアー。
「喋りすぎだな。ガイアーよ」
バカな。
俺に気付かせずにどうやって。
ガイアーの背後に、いつの間にか現れた人影。
そいつがガイアーの背中を貫いたらしい。
一目でわかる。
ガイアーは致命傷だと。
一目でわかる。
刺した者が完全な悪であると。
そいつは、全身が真っ黒な紋に覆われていた。
そいつは、全身から隠しようもない禍々(まがまが)しいオーラを放っていた。
そいつは、真っ黒な翼を背中に持っていた。
「あ、あなた……魔族ね!?」
フランが叫ぶ。
魔族。
魔界に住むと言う、神々と敵対する者か。
そんなもんがなんでここに。
いや、そうか、ガイアーを謀ったのはコイツだな。
「ぐ、ぎぎ……きみたちの力は……デスクを……破壊……すまない……頼む………」
俺にしか聞き取れないような小声の断末魔を放ったガイアー。
そう言い残した彼は、粒子となって消えて行った。
魂の完全な消滅だ。
「フン。余計なこと言わねばもう少し長生きできたものを」
吐き捨てるように言う魔族。
沸々とわき上がる俺の怒り。
「てめぇが本当の元凶だったんだな……」
「フ、人間風情がここまで到達できるとは思ってもみなかった。それも我を魔族と見破るとはな。何者だ貴様らは。おっと、我も名乗っておこうか。我が名はサイス! 【暗躍する魔】サイスである!」
サイスと名乗ったヤツのざんばらで長い黒髪が舞い上がる。
不気味に輝く紫の瞳。
高らかな笑い声。
それに負けじと声を張る我らが女神さま。
「魔族よ! 神なる御名を聞くがいい! 我が名は【救済の女神】フランシア!」
おー、かっくいい。
誰だよこの凛々(りり)しい美少女は。
普段もこうしてればいいのに。
「ほら、アキトも名乗って名乗って!」
小声で俺の腋を小突くフラン。
「えぇー? やだよ恥ずかしい」
「部長が名乗らないでどうするのよ!」
だって俺、人間だもの。
「ほら、早く!」
「わかったわかった……え、えー、我が名は救済の女神代行にして【救済部部長】火神……じゃなかった、秋津火吐命!」
「よくできましたー、ぱちぱちぱちー」
「アホ丸出しじゃねぇか……」
だが、魔族サイスには効果覿面だったようだ。
「め、女神だと!? どうやって女神がこの場に……! 神力は封じていたはず!」
「あぁ、やっぱりてめぇの差し金か。転移できねぇからおかしいとは思ったんだ。それに、ガイアーはヒントを残して行ったぜ」
俺はエターナルソードを抜き、おもむろにデスク周りの機材を片っ端からぶった切った。
どんな仕組みかは知らないが、このフロアにかかっていた結界は散った。
これで神力は解放されて俺は全力を出せる。
「ぬぅぅ! ガイアーのシステムを利用して人間の悪感情を魔界に供給する我が計画を台無しにしおって! 許さぬ!!」
あらら、全部自分でしゃべっちゃったよこの人、いや魔族。
なるほどね。
そう言うことだったのか。
わざわざ魔界に供給するってことは、悪感情が魔族のエネルギー源かなにかなんだろうな。
「ぬおぉぉぉ!」
サイスの持つ槍がその名の通り大鎌に変化した。
大きく振りかぶり、斬りかかってくる。
ブォン
エターナルソードの蒼き刀身がそれを受け止める。
む、かなり強いな。
しかも斬れない。
なにで出来てんだその鎌。
「ぐぬううう!」
「おおおおお!」
強烈な鍔迫り合い。
俺にかかった強化スキルの効果はまだ切れていないはずなのに押される。
こいつ、マジで強い。
魔族を舐めてた。
だが、それはどうやらお互い様だったようだ。
「貴様は強いな。我の力と拮抗する者は久しく見ていないぞ!」
「そうかい。そりゃ光栄だねっと!」
俺は渾身の力で大鎌を弾いた。
お互いが少しだけ距離を置く。
なんだ?
なにか狙ってんのか?
サイスはチラリとフランのほうを見た。
まさか。
フランに恋を!?




