一問一答
ブックマークが一件つきましたうおおおおおおおおおおお
あれですね、始めたばかりで知り合いのユーザーさんとか全然いないのですが、その中でもこの作品に手を伸ばしてくださった方がいるのだと思うと感激です! ありがとうございます!
これからも、ちびちび影のほうで頑張ります。
月曜日。
僕はいつも通り学校で、一人で本を読んでいた。どうやら昼休み以外会いに来ないと言ったのは本当らしく、午前中の間僕は平和に過ごせていた。
ただ、変わったことが一つある。
ピローン、と可愛らしい着信音が僕の携帯から発せられる。昨日までで、その音を聞いたのは何年振りだろうか。いや、友達以外にも家族で使うことはあるので、そんなに聞いていないわけではないのだが、やはり新鮮だ。そして少々驚いていた。何せ、今日という日が始まってからもう三通目だ。因みに今は丁度三時限目が終わったところだった。
携帯を開くと、新着メッセージのお知らせをヒツジ君がわざわざ教えてくれていた。それをつつくと、ぱっと白い画面が広がる。
『やっほやっほー。君のことだから、そろそろメールにうんざりしてきたんじゃないかな? でもやめてあげないよ! わたしはまだまだ知りたいことがあるからね(笑)
そういえば、わたしとしたことが、土曜日じみー君の誕生日を聞いていなかったんだよ! 祝ってあげるから、感謝しながら教えなさい(ピース)』
彼女と土曜日にした約束。一日一回はお互いについて質問しよう、ということになったのだ。因みにスイーツ天国で彼女について知れたことはない。話す前に、彼女がこの至極面倒臭い約束を思いついてしまったからだ。
それでも無視することはしない。僕は優しい人間だから……という訳ではなく、唯々、返信しなかったら拗ねるだろう彼女の相手は、流石に疲れるからだ。
『一月十日。君は?』
僕のメールは凄く短い。素っ気ないと彼女が唇をとがらせて文句を言いそうだ。
何となく、受信トレイを開いて、彼女から送られてきた一通目と二通目を見る。送られてきた時間は、一時限目の終了時と二時限目の終了時、ぴったりに送られてきている。どれだけ暇なんだろう。
『おはようじみー君! 祝初メール!(笑顔)
さあ、君は土曜日の約束を覚えているかな? 今日は初めてだから、特別に毎時間質問していきたいと思いまーす(はぁと)
じゃあ一つ目! 好きな食べ物は何ですかー?!』
僕はあげだし豆腐だと答えた。
『へぇ、そうなんだ、今度はあげだし豆腐の美味しいお店に行こう!
わたし? え? 知りたい?(笑) わたしは苺のショートケーキだよ! また美味しいものを二人で食べに行きたいねー。
次は、君が好きな作家さんの名前が知りたいな。ちなみにわたしはいないんだよね。いつもタイトルを見て何となくビビってきた本を買っているだけだから!
あ、君、わたしが本を読むだなんて思って無かったでしょ? 失礼だな(笑)』
僕は『柳 まひる』だと答えた。きっと彼女は知らない。
そんなわけで僕は読書を再開する。一時間に一通を律儀に守る彼女に尊敬の念すら覚えるが、やはり一番は読書だ。彼女に教えた作家の本を再び開く。
だが、またしても僕は本にありつくことができなかった。
「ねぇ、桜庭さん、ちょっといいかな」
学校で声をかけられることだなんてことが、彼女と出会う前までは無かったから、ぽかんとする。顔を上げると、声をかけてきたのはしおりんさんだった。
何となく納得する。たまたま出かけた先で、僕と彼女の二人組を見掛けた彼女が、疑問に思ったのだろう。当然と言えば当然だ。
「桜庭さんって、由紀ちゃんと付き合ってるの?」
昨日も聞いたんだけど、ごめんね。そういってしおりんさんは笑った。
休日に出かけたことだけで、すぐそう言ったことに繋げたがる最近の若者の心理が僕にはいまいちわからない。僕もまだまだ若いのだけれど。
「いや……付き合ってないよ」
「そうなんだ。ほら、噂になっちゃってるから、少し気になって」
「噂?」
凄く嫌な予感がした。こういった面倒臭そうなことに僕は途轍もなく敏感だ。
「わたし、その時この学校のこと遊びに来ていてね。わたしも含めて四人だったんだけど、その中に一組の子もいて。由紀ちゃんと仲良いから、ちょっと勘違いして、盛り上がっちゃった……みたいな……」
「……なるほど……。まあ違うから、気にしないで」
呆れた風を装って言うと、しおりんさんは優しげに笑って頷いた。これはあのやかましい彼女にはできない微笑み方だろう。
「というより、その……彼女ってそんなに友達多いの? 僕、変人って有名なことでしか知らないんだけど。階段下の幽霊的な」
「ああ、由紀ちゃんね。凄く人気者だよ、あの子。……確かにその幽霊うんぬんとか、変わったところもあるけどそこもまた魅力っていうか。ほら、あんなに明るいじゃない? 一緒にいて楽しいんだと思うよ」
なるほど、初耳だ。あれほど溌剌としている彼女が教室では一人でいるというのも奇妙な話だ。当然だろう。だから僕に疑問が出来るのも仕方ないと言える。
『何で君は、僕と[仲よしさん]になろう、なんて思ったの?』
僕からは、初めてメールを送った。
「えっと……園原さん」
名札をちら、と盗み見て、ようやくしおりんさんの本名を思い出す。しおりんさんの名前は、『園原 栞』だった。
「君は、彼女に、何か変なことを言われたりする?」
「え? 変なことって?」
きょとんとした表情のしおりんさんに、僕はやっぱりな、と思った。彼女が「死んでしまえ」というのはきっと、きっと僕にだけだ。理由はわからないけれども。
「やっぱりなんでもないよ。ありがとうね」
「……? 別にいいよ。っていうか、桜庭さんって面白いんだね。今まで喋らなくて損だったかも。由紀ちゃんに感謝だ」
えへへ、としおりんさんは笑った。面白い? 僕が?
教室のドアを開く音が焼けに響いて、社会科の頭がやけにもっさりしたおじさん(ヅラ)が入ってくると、しおりんさんは手を振ってから自分の席に戻っていった。
彼女は変わっている。けれど、彼女が特に親しいとする友人も、きっと変わっているのだろう。彼女は、しおりんさんは特別な方の友達なのだと教えてくれていた。類は友を呼ぶ。つまり、僕も相当な変人、ということだ。
それはちょっとばかり不本意で、でも、そのさらに半分のちょっとだけ、嬉しい。
ピロン、とまた着信音が鳴る。『一時間に一通』を彼女は守れなかったらしい。送るのが面倒、ではなく、待ちきれない、といった方向で。
『わたしが君と仲よしさんになった理由? そんなこと決まっているじゃない』
彼女にしては短い内容だった。僕は大して意味が分からずに、首を傾げる。だがまあいいだろう。どうせ彼女は昼休みにやってくる。騒々しい空気を僕に連れてくる。
彼女が現れることを密かに楽しみにしている自分がいると気づいた僕は、溜め息を吐いた。
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