第十七話 足りない勇気
思えばきっと、私はあまりにも周りを見ていなかったのだろう。
最初の婚約者には、他に想う人が居た。私は仕事が優先で、そんな婚約者の様子に気づきもしなかった。
次に付き合った先輩は、結婚をしていた。きっと、女遊びがしたかったのだろう。それでも、奥さんに浮気がバレると不味い、ということで、仕事が優先で、面倒がなさそうな私を選んだのだ。
どれもこれも、私に人を見る目があれば、回避できたことだった。
後悔先に立たず。しかし、後悔して、反省して、次に活かすことはできるはずだ。新しく生まれ変わって、過去の私を知る者の居ないこの世界なら、新しい道を選べる。
そう、思ったのは、間違っていたのだろうか?
何で、先輩が、この世界に……。
完全なる新天地。結婚などせず、バリバリ働いて、幸せな人生を送ろうと思っていたにもかかわらず、そう決意させた張本人が同じ場所に来ているなど、悪夢でしかない。それに……。
全然、乗り越えられてない……。
とっくに過去のものとして処理していたはずの死の恐怖は、奇しくも、先輩に会ったことによって、全く乗り越えられていないことが判明した。
あの日、先輩の奥さんの言い分は、とても良く理解できた。理解はできたものの、だからと言って私自身が死んでも良いなどとは思わなかった。抵抗できるなら抵抗していた。
死にたく、なかった。
家に辿り着いて、一人、私は枕を抱えて蹲る。
頭の中では、あの日の恐怖と痛みが、何度もフラッシュバックして、それを抑え込もうと、ただひたすらに枕をキツく抱きしめる。
そして、ふと気付けば、私は帰った直後に外したあの髪飾りをそっと撫でていて、そうしていると、不思議と気持ちが落ち着いていた。
「……」
茶髪に青い瞳を持つ、私と同じ魔族。片翼同士で、つれないであろう私に必死にアプローチしてくる男性。
もう、色恋沙汰は御免だと思っていた。いや、今も実際、そう思っている。それでも……。
「いつの間にか、心の支えになってる、みたいね」
自分の気持ちを偽り続けることは、きっと、長く続きはしない。
それが恐怖であれ、恋心であれ、いつかは溢れ出すものだから。
でも、もう少しだけ……。
まだ向き合うには、勇気が足りない。あの日の恐怖も、先輩の気持ち悪さも、まだまだ乗り越えられそうにない。ライトとの未来を夢見るだけの度胸もない。それでも、少しだけ、ライトに甘えさせてもらえたら、きっと、勇気がもらえる気がした。
卑怯なその心を忌む気持ちがないとは言わない。それでも、一人で立つにはあまりにも不安定だから、少しだけ、少しだけ……。




