1.残念な男、魔術師団長イース・アバラン
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王国史上最高に残念な男。
それが現魔術師団長イース・アバランを知る者たちの評価だ。
侯爵家の三男という生まれついての高貴な身分にあり。
その高貴なる者たちに多く見られるなかでも、最上の美しさを誇る白銀色の髪と澄んだ青い瞳に、整った容姿を持って。
そのうえ誰より高い魔力量を保持し、それを一切無駄にはしない天才とも称される魔術師としては現代で王国一の才を持ち。
これだけ優れたものを持つイース・アバランを残念な男と言わしめるその理由は、魔塔と呼ばれる王国の魔術師団が所有する建物の、何故か三階にある団長イース・アバランの研究室が簡単に説明した。
たった今、鬱々たる気持ちと共に、魔塔の中央階段をおりていくのは、魔術師団の副団長カシア・フォッシル、31歳。
事情により女性名として知られるカシアを名乗るが、生まれたときから性別は男。
副団長に就任してからは二年。このカシアが上官である団長イース・アバランの部屋に向かった回数は、まだ両手の指で足りるほどだった。
と言っても、就任前を含めれば、もう数えきれないほどにカシアは三階にあるイース・アバランの部屋に通ってきた。
この実績をもってして自分は副団長の席に収まったのだと、カシアは謙虚にも自身をその程度と評価している。
そうして何度通ってきても、目的地に向かい階下におりていくとき、カシアの心は晴れなかった。
別にカシアは上官であるイースを厭うているわけではないし、それどころか魔術師としては高く尊敬しているのだが。
それはそれ。
カシアがイース・アバランを一人の人間として見たとき、そこに抱く感情が良好になることはない。
カシアの今の気分も最悪であり、カシアはいつものように祈った。
『私の仕事が増えませんように』
祈りはそれだけでは終わらない。
『出来ればおとなしく寝ていてくれますように』
『そこから無事に起きてくれますように』
『何も爆発しませんように』
『何も変化しませんように』
『その後はこちらの願うように動いてくれますように』
『とにかく余計なことをしませんように』
『誰とも揉め事を起こしませんように』
『何でもいいから私の仕事をこれ以上増やさないでくれ!!!』
常人の上司相手には抱くことのなかろう思考に囚われたカシアは、ついに階段の途中にある輝きのない銀色の扉の前に辿り着いて、その扉を右の拳でコツコツコツと三度叩いた。
当然返答はない。
数え切れぬほどこの扉を叩いてきたカシアが、今日まで返事を聞いた日は一度もないのだから。
たとえ部屋の住人が起きていようとも、寝ていようとも、どんなことをしでかしていようとも、それは変わらないのだ。
カシアは遠慮なく扉を開けた。
キィと錆びた金属の擦れる音が鳴る。
おそらく前回カシアがこの部屋を退室したときから、この扉は動いていない。
カシアの視界に飛び込んで来たもの……それはいつも通りカシアが腐海と称してきた乱雑に物が溢れる空間だった。
と同時に酷い腐臭が室外へと流れ出す。
カシアは分かっていたので、風魔法で腐臭を室内へと押し戻し、同時に階段側の空気で作った綺麗な風で全身を包んでから、声を張り上げた。
「イース団長。イース・アバラン団長!カシアです。ご在室ですよね。入りますよ」
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