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第48話:最後まで残るもの

人は、失う瞬間より。

失う未来を理解した時に、一番苦しくなる。

終わりが見えてしまったからこそ。

残された時間は、何よりも残酷になる。

裂けた空間の奥から、重圧が流れ込んでくる。

空気ではない。

存在そのものを押し潰すような感覚。

リナは思わず息を止める。

「っ……」

膝が震える。

今までの敵とは違う。

殺意ですらない。

ただ、“格”が違う。

ゼルが前に出る。

「下がれ」

短い声。

アッシュは裂け目を睨む。

輪郭が揺れている。

それでも立つ。

「……派手なお出ましだな」

空間が軋む。

そして、“それ”は現れる。

人型。

だが、顔がない。

輪郭すら不安定。

存在しているのに、認識できない。

見るたびに形が変わる。

リナの頭が痛む。

「見ちゃ……ダメ……」

ゼルが低く言う。

「認識を乱される」

“それ”は静かに立っている。

だが、その瞬間――

空間中に声が響く。

『……最終選定……開始……』

世界が震える。

同時に、三人の周囲に光の輪が現れる。

アッシュが舌打ちする。

「またかよ」

だが今回は違う。

輪の中に、“数字”が浮かぶ。

リナの数字は不安定。

ゼルは高い。

そして――

アッシュの数字だけが、減り続けている。

リナの顔が青ざめる。

「……減ってる……」

ゼルが静かに言う。

「存在維持値だ」

アッシュは笑う。

「ネーミングセンス終わってんな」

だが、その声は少しかすれている。

数字がまた減る。

リナは思わずアッシュの腕を掴む。

「やめてくださいよ……そんな普通に……!」

アッシュは目を細める。

「普通にしねぇと、お前泣くだろ」

「もう泣いてます……!」

涙が零れる。

アッシュは困ったように笑う。

その時――

“それ”が動く。

一歩。

それだけで世界が軋む。

ゼルの目が鋭くなる。

「来るぞ」

次の瞬間。

空間そのものが落ちる。

上も下も分からなくなる。

リナの体が吹き飛びそうになる。

アッシュが咄嗟に腕を掴む。

「離れんな!」

リナは必死にしがみつく。

だが、アッシュの腕が透ける。

触れている感覚が薄い。

リナの呼吸が止まりそうになる。

「……嫌……」

アッシュは前を見る。

“それ”がこちらを見ている。

顔もないのに。

確実に。

『……不安定個体……確認……』

アッシュを見ている。

狙われている。

ゼルが前に出る。

「アッシュ、下がれ」

「無理だろ」

笑う。

「どう見ても俺狙いだ」

“それ”が手を上げる。

その瞬間。

アッシュの輪郭が大きく崩れる。

リナが叫ぶ。

「アッシュさん!!」

アッシュは歯を食いしばる。

立っているだけで限界。

それでも倒れない。

ゼルが空間へ干渉する。

歪みを無理やり押し返す。

だが――

ヒビが入る。

ゼルの腕に。

存在そのものが削れている。

リナは震える。

「どうすれば……」

答えがない。

強さじゃない。

気合でもない。

“選定”そのものが進んでいる。

アッシュは荒く息を吐く。

そして――

小さく笑った。

「……なぁ、リナ」

リナが顔を上げる。

アッシュは前を向いたまま言う。

「もし俺が消えても――」

「嫌です!!」

即答だった。

涙混じりの叫び。

アッシュが少し驚く。

リナは震えながら続ける。

「聞きたくない……!」

「そういうの、もうやめてください……!」

息が乱れる。

それでも止まらない。

「私は……」

涙を拭う。

「ちゃんと残ってほしい……!」

空間が静まる。

アッシュは何も言えない。

ゼルも、黙っている。

リナはアッシュを見つめる。

怖い。

消えてしまいそうで。

でも――

逃げたくなかった。

「一緒に帰りたいんです……」

その言葉。

静かで、小さい。

でも。

今までで一番、強かった。

アッシュは目を閉じる。

そして、ゆっくり笑う。

「……帰る場所、あったっけな」

冗談っぽく言う。

だがリナは首を振る。

「作ればいいです」

アッシュが目を開ける。

リナは涙を流したまま笑う。

「終わったら……」

声が震える。

「普通に、ご飯食べたりして……」

「くだらない話して……」

「それでいいじゃないですか……」

アッシュはその顔を見る。

ずっと。

壊れた世界の中で。

初めて、“未来”みたいなものを想像した。

その瞬間――

数字が止まる。

リナが目を見開く。

アッシュの“存在維持値”。

減少が止まっている。

ゼルもわずかに驚く。

「……感情接続で安定したのか」

アッシュが眉をひそめる。

「は?」

リナも理解していない。

だが、“それ”だけが反応する。

『……予測外……確認……』

空間が揺れる。

初めて。

“それ”が乱れた。

ゼルが低く言う。

「感情で干渉した……?」

アッシュは苦笑する。

「なんだそれ」

リナは涙を拭いながら、小さく笑う。

「……よかった……」

その笑顔。

アッシュは少しだけ目を逸らす。

「……調子狂うな」

だが――

空間の奥で、“それ”が再び動き出す。

今度は、さっきより深く。

世界そのものが軋み始める。

ゼルの顔が変わる。

「まずい」

リナが振り返る。

「え……?」

ゼルは前を見たまま言う。

「最終段階が来る」

空間に巨大な裂け目が走る。

その奥に見えたのは――

“白い世界”。

何もない終点。

アッシュは静かにそれを見る。

そして、小さく呟く。

「……いよいよか」

ここまでお読みいただきありがとうございます。

今回は“消えかけた存在を繋ぎ止めたもの”として、感情や繋がりの重要性を描きました。

特にリナの言葉によってアッシュの存在が安定した描写は、今後の結末に大きく関わる重要な要素となっています。

引き続きお楽しみいただければ幸いです。

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