第44話:消えかけた存在の選択
消えることは、終わりではない。
ただ、残らなかったというだけだ。
だが――
それでも、残りたいと願うなら。
その願いは、どこまで届くのか。
空間は静かなまま、揺れていた。
目には見えない。
だが確実に、“何か”が進んでいる。
“判定”が続いている。
リナの体は、まだ不安定だった。
輪郭がわずかに滲み、足元が曖昧になる。
「……っ……」
呼吸が浅い。
地面に触れているはずの足が、時々抜ける。
アッシュが支えたまま、舌打ちする。
「クソ……」
どうすることもできない。
殴ることも、壊すこともできない。
今までとは違う。
ゼルが静かに言う。
「干渉するな」
「今は“決まる段階”だ」
アッシュは睨む。
「分かってるよ……!」
だが、歯を食いしばるしかない。
“それ”は変わらずそこにある。
動かない。
ただ、見ている。
評価している。
リナの存在を。
『……継続……判定……』
空間が微かに震える。
リナの体がまた揺らぐ。
「っ……!」
膝が崩れる。
今度は完全に、支えがなければ立てない。
アッシュが強く腕を引く。
「しっかりしろ!」
リナは顔を上げる。
視界がぼやけている。
でも――
声は聞こえる。
アッシュの声。
「……まだ……います……」
かすれた声。
それでも、確かに“ここにいる”。
ゼルが一歩前に出る。
「時間がない」
アッシュが振り返る。
「どうすりゃいい」
ゼルは短く答える。
「示せ」
その一言。
リナが小さく反応する。
「……示す……?」
ゼルは続ける。
「ここでは“存在の強さ”ではなく、“残る理由”が問われる」
アッシュは眉をひそめる。
「理由って……」
ゼルはリナを見る。
「お前が、なぜ残るのか」
リナの呼吸が止まりそうになる。
そんなもの――
考えたこともなかった。
ただ、生きていただけ。
ただ、ついてきただけ。
「……わからない……」
本音が漏れる。
「私……強くないし……」
声が震える。
「何もできてないし……」
視線が落ちる。
「だから……」
その瞬間――
体がさらに薄れる。
“理由が弱い”。
それがそのまま影響する。
アッシュが声を荒げる。
「ふざけんなよ!」
空間に響く。
「そんな理由で消されてたまるかよ!!」
だが、“それ”は反応しない。
ゼルが低く言う。
「落ち着け」
アッシュは拳を握る。
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
ゼルは答える。
「本人が決めるしかない」
リナはその言葉を聞いていた。
ぼやける意識の中で。
ゆっくりと、顔を上げる。
「……私……」
小さく呟く。
何もない。
特別な力もない。
でも――
思い出す。
ここまで来た理由。
最初は怖かった。
逃げたかった。
でも――
「……一人じゃなかったから……」
アッシュを見る。
ゼルを見る。
「ここまで来れた……」
声が少しだけ、強くなる。
「だから……」
一歩、前に出ようとする。
足が震える。
それでも、止まらない。
「……ここで終わりたくない……」
その言葉。
シンプルで、弱い。
でも――
確かに“本音”。
空間が止まる。
“それ”が初めて、わずかに反応する。
『……意思……確認……』
圧が変わる。
消すための圧ではない。
“測る”圧。
リナの体が安定し始める。
完全ではない。
でも、崩れない。
アッシュが目を見開く。
「……おい……」
ゼルが小さく言う。
「通ったな」
“それ”が静かに頷くように揺れる。
『……条件付き……許容……』
その瞬間。
リナの輪郭が、はっきりする。
完全ではない。
でも、“残る側”に入った。
リナはその場に崩れ落ちる。
「……はぁ……っ……」
涙が出る。
恐怖と安堵が混ざる。
アッシュは小さく息を吐く。
「……やっとかよ」
少しだけ笑う。
だがその顔は、どこか安心していた。
ゼルは前を見る。
「これで全員、次に進める」
だが、その声は少しだけ重い。
アッシュが気づく。
「……なんだよ」
ゼルは少しだけ間を置く。
そして――
「ここから先は、“選ぶ側”になる」
リナが顔を上げる。
「……選ぶ……?」
ゼルは頷く。
「残すか、切り捨てるか」
アッシュの表情が変わる。
「……は?」
ゼルは続ける。
「ここまでは選ばれる側だった」
「だが次は違う」
空を見る。
“さらに上”。
「お前たちが、決める」
空気が変わる。
一気に重くなる。
リナの呼吸が止まりそうになる。
アッシュは静かに言う。
「……マジかよ」
だが――
その目は、逃げていない。
むしろ、覚悟が乗る。
「いいじゃねぇか」
小さく笑う。
「最後くらい、自分で決める」
リナはその背中を見る。
さっきまで助けられていた。
でも今は――
一緒に進む側にいる。
拳を握る。
「……はい」
小さく、でもはっきりと。
三人は、さらに先へ進む。
“選ばれる側”から、“選ぶ側”へ。
それが何を意味するかを、まだ知らないまま。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
物語は“選ばれる側”から“選ぶ側”へと転換し、最終局面に向けた重要な布石が打たれています。
次回以降は、選択そのものが結果を生む展開となり、それぞれの決断が物語の結末に直結していきます。
引き続きお楽しみいただければ幸いです。




