第3話:捨てられかけた少女
この世界では、“価値がない”と判断されたものは容赦なく切り捨てられる。
それは物だけじゃない。
人も同じだ。
主人公はすでに知っている。
自分がその“捨てられる側”だったことを。
だからこそ――見過ごせないものがある。
これは、拾う者が“誰か”を拾う物語。
夜の冷たい空気が、路地裏に流れ込んでいた。
戦いのあと、俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。
身体の奥に残る熱。吸収した力の余韻。
(……強くなってる)
確実に。だが同時に思う。
まだ足りない、と。
「この世界、やばいな……」
小さく呟きながら歩き出す。
さっきの連中みたいなのが普通にいる。油断すれば、次はこっちがやられる。
その時だった。
「……やめてください……」
か細い声が、路地の奥から聞こえた。
足が止まる。
「は?まだ生きてんのかよ、コイツ」
男の声。複数いる。
嫌な予感がした。
少しだけ覗き込むと、そこには三人の男と一人の少女がいた。
地面に押し倒され、逃げ場を失っている。
「金もねぇ、力もねぇ……ほんと使えねぇな」
「せめて売れるくらいの価値は欲しかったんだけどなぁ」
男たちは笑っている。
少女は震えながら、必死に何かを守るように抱えていた。
ボロボロの袋。中身は見えない。
だが、それよりも目に入ったのは――その表情だった。
完全に、諦めている顔。
(……ああ)
胸の奥がざわつく。
知ってる。
あの顔は――捨てられるやつの顔だ。
「……なあ」
気づけば、声をかけていた。
男たちが一斉にこちらを見る。
「なんだ?」
さっきの連中とは別だが、同じ種類だ。
人をモノみたいに扱う目。
「その子、いらないんだろ?」
自分でも驚くくらい、冷静な声が出た。
「なら――」
一歩、踏み出す。
「俺がもらう」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、男たちは爆笑した。
「ははははっ!何言ってんだコイツ!」
「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
一人が剣を抜き、突っ込んでくる。
だが――遅い。
さっきより、確実に見える。
(拾え)
足元に転がる鉄くずに触れる。
『スキル【廃棄吸収】を発動します』
力が流れ込む。
踏み込み、拳を叩き込む。
「がっ!?」
男が吹き飛ぶ。
「なっ……!?」
残りの二人が動揺する。
その隙に距離を詰める。
もう迷いはない。
「お前らみたいなのがいるから――」
低く呟く。
「捨てられるやつが増えるんだよ」
拳が、振り抜かれる。
短い戦いだった。
やがて静寂が戻る。
倒れた男たちを一瞥し、視線を少女へ向ける。
彼女はまだ震えていた。
「……もう大丈夫だ」
そう言うと、ビクッと身体を強張らせる。
当然だ。俺も同じ側に見えるはずだ。
しばらく沈黙が流れる。
やがて少女は、恐る恐る口を開いた。
「……どうして、助けたんですか……?」
その問いに、少しだけ考える。
そして、肩をすくめた。
「さあな」
本当は、わかっている。
ただ――
「捨てられるの、気に食わなかっただけだ」
少女は目を見開いた。
そして、ぎゅっと袋を抱きしめる。
「……私、もう行くところがなくて……」
小さな声。
迷いなく答える。
「じゃあ、ついて来い」
「え……?」
「俺もないしな」
そう言うと、少女はしばらく固まって――
やがて、ほんの少しだけ笑った。
「……はい」
その瞬間、何かが変わった気がした。
一人だったはずの道に、もう一人増えた。
「名前、聞いてもいいか?」
「……リナ、です」
「そうか。俺は――」
言いかけて、止まる。
名前なんて、もう前の世界のものだ。
少し考えてから、口を開いた。
「……好きに呼べ」
リナは困ったように笑って――
「じゃあ、“アッシュ”って呼びます」
「……アッシュ?」
「灰みたいだったので」
一瞬、呆れたが。
「……まあいい」
悪くないと思った。
捨てられた灰が、積もって強くなる。
それらしい。
「行くぞ、リナ」
「はい、アッシュさん」
二人で歩き出す。
路地裏の奥へ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第3話では、ついにヒロインが登場しました。
主人公と同じく、“捨てられかけた存在”として描いています。
今回のポイントは、主人公が初めて「物ではなく人を拾った」ことです。
これが今後の物語に大きく関わっていきます。
また、名前もここで決まりました。
“アッシュ(灰)”――捨てられたものの象徴でもあり、ここから積み上がっていく存在です。
次回は、二人での行動がスタートします。
拠点作りや、能力の新しい使い方なども出てくる予定です。
よければ、引き続き読んでいただけると嬉しいです。




