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第12話:静かな圧

目立てば、次に来るのは“本物”だ。

数で来るやつらは怖くない。

勢いで来るやつらも、大したことはない。

本当に厄介なのは、動かないやつ。

何もせず、ただ見ているだけで空気を変える存在。

そういうやつは、大抵――強い。

さっきの騒ぎが嘘みたいに、通りは元に戻っていた。

人は多い。

声もある。

でも――

(さっきより、妙に静かだな)

視線が変わってる。

遠巻きに見てくるやつはいる。

でも、さっきみたいに絡んでくるやつはいない。

「……楽になりましたね」

リナがぽつりと言う。

「まあな」

短く返す。

“面倒なやつに手出すとこうなる”って理解されたんだろう。

それはそれで都合がいい。

「とりあえず、腹減ったな」

「え、今それですか……?」

少し呆れた顔される。

「戦った後だぞ。普通だろ」

そんなやり取りしながら、適当に店を探す。

その時だった。

――視線。

はっきりわかる。

さっきまでのとは違う。

(……なんだ?)

自然と足が止まる。

リナも気づいたのか、少しだけ近づいてくる。

「アッシュさん……?」

「……いるな」

周りを見渡す。

でも、誰も“見てない”。

いや――

見てるやつが、一人だけいた。

通りの端。

壁にもたれて、腕を組んでる。

動かない。

でも、確実にこっちを見てる。

(あいつか)

視線が合う。

その瞬間――

空気が、重くなった。

「……」

何もしてない。

立ってるだけ。

それだけなのに、体が勝手に警戒する。

(さっきの連中とは別物だな)

“危険”っていうより、“違う”。

うまく言えないけど――

(近づいたらまずいやつだ)

「……行くぞ」

小声で言う。

「え?」

「いいから」

リナの腕を軽く引いて、その場を離れる。

視線は感じたまま。

背中に刺さる。

でも、追ってくる気配はない。

しばらく歩いてから、足を止める。

「……今の、誰ですか?」

リナが不安そうに聞いてくる。

「わからん」

正直に答える。

「でも――」

少し考える。

さっきの感覚。

あれは、今まで感じたことがない種類だった。

「強いとかじゃないな」

「え?」

「もっと面倒なやつだ」

力で押してくるタイプじゃない。

ああいうのは――

(何考えてるかわからん)

だから厄介だ。

「関わらない方がいいですか……?」

「……できればな」

でも――

自然と口元が少し上がる。

「向こうは、もう関わる気だろ」

あれはただ見てるだけじゃない。

“見定めてる”目だった。

獲物を見る目じゃない。

もっと――

(選ぶ側の目だ)

その時。

後ろから足音。

反射で振り向く。

そこにいたのは――さっきの男だった。

「よぉ」

軽く手を上げる。

距離はある。

でも、逃げ場はない。

リナが一歩下がる。

「……何の用だ」

男はゆっくり近づいてくる。

足音が、やけに静かだ。

「別に。ちょっと気になっただけだ」

「何が」

「お前」

迷いのない一言。

視線が外れない。

「さっきの、見てた」

「……そうかよ」

「動きは悪くない」

評価するような口調。

上からでも下からでもない。

ただ、事実だけ言ってる感じ。

「でも――」

一瞬、間が空く。

「雑だな」

ピタッと空気が止まる。

リナが息を呑む。

(……言うな)

思わず笑いそうになる。

普通ならムカつくとこだ。

でも――

「否定はしない」

正直に言う。

実際、荒いのはわかってる。

「ならいい」

男はそれだけ言った。

それから少しだけ近づいて――

「死ぬなよ」

ボソッと呟く。

「次は、ちゃんとやれ」

それだけ言って、すれ違う。

止める気はない。

振り返ると、もう人混みに消えてた。

「……なんだったんですか、今の……」

リナが戸惑った声を出す。

「さあな」

肩をすくめる。

でも、ひとつだけわかる。

(あいつ、また来るな)

しかも――

次は多分、“見るだけ”じゃ終わらない。

「……面倒なの増えたな」

そう言いながらも、少しだけワクワクしてる自分がいる。

強いやつ。

わからないやつ。

そういうのほど、拾う価値がある。

「行くぞ」

「は、はい……」

まだざわつく街の中を、また歩き出す。

――次は、もっと上だ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

今回は大きな戦闘ではなく、“空気で強さを感じる存在”との遭遇を描きました。

今までのようにわかりやすくぶつかる相手ではなく、距離を取りながら見てくるタイプです。

主人公にとっても、こういった相手は初めてで、単純な力だけでは測れない難しさがあります。

その分、今後の成長や戦い方に影響してくる存在になっていきます。

また、周囲の反応も少しずつ変わり、“危険な存在”として見られ始めているのもポイントです。

目立つことで得るものと、同時に増えていくリスクの両方を描いています。

この先は、今回登場した人物との再接触や、より厳しい状況での戦いへと繋がっていきます。

主人公がどこまで通用するのか、そしてどう変わっていくのかも見ていただけたら嬉しいです。

引き続き、よろしくお願いします。

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