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第10話:選ぶ者、選ばれる者

価値は、証明すれば終わりではない。

一度示された価値は、必ず誰かの目に留まる。

それを利用しようとする者、試そうとする者、そして――奪おうとする者。

この世界では、“目立つこと”は力であり、同時に危険でもある。

主人公は初めて、価値を示した。

その結果として得たのは、報酬だけではない。

それは――“視線”だ。

強者は常に見ている。

使えるかどうか、伸びるかどうか、排除すべきかどうか。

これは、選ぶ側と選ばれる側が初めて交差する物語。

「……やけに見られるな」

通りを歩きながら、俺は小さく呟いた。

昨日までとは明らかに違う。

視線の質が変わっている。

ただの好奇心じゃない。

(測られてるな)

「アッシュさん、有名になったんじゃないですか……?」

リナが少し嬉しそうに言う。

「有名ってほどじゃない。ただ、“気になる存在”になっただけだ」

それが一番面倒だ。

敵にも味方にもなり得る。

「……でも、いいことですよね?」

「まあな」

否定はしない。

少なくとも、“無視される側”ではなくなった。

それだけでも大きい。

その時だった。

「――アッシュ、だったか」

不意に、後ろから声がかかる。

振り向く。

そこにいたのは、一人の男だった。

黒い外套。無駄のない装備。

そして――空気。

(……強い)

見ただけでわかる。

今までの連中とは、明らかに違う。

「誰だ?」

自然と警戒が強まる。

男は軽く肩をすくめた。

「ただの観察者だ。少なくとも今はな」

「……用件は?」

「単刀直入に言おう」

一歩、近づいてくる。

周囲の空気が、わずかに張り詰める。

「お前、うちに来い」

「……は?」

予想外の言葉に、思わず間の抜けた声が出る。

男は淡々と続ける。

「お前の戦い、見ていた。悪くない。むしろ面白い」

「だからスカウトってわけか?」

「そうだ」

シンプルすぎる話。

だが、それが逆に不気味だった。

「断ったら?」

「自由だ」

即答。

「だがその場合、お前はこの街で“単独”でやることになる」

「それがどうした」

男の目が、少しだけ細くなる。

「ここはな、個人で生きるには効率が悪い場所だ。情報も、仕事も、人脈も――すべて“繋がり”で回っている」

「……脅しか?」

「違う。事実だ」

淡々とした声。

そこに嘘は感じられない。

(……確かに)

昨日の依頼だって、偶然見つけただけだ。

安定して稼ぐには、何かしらの繋がりが必要になる。

「うちに来れば、それが手に入る」

男はそう言って、少しだけ笑った。

「代わりに、お前の力を使わせてもらうがな」

リナが不安そうに袖を掴む。

「アッシュさん……」

「大丈夫だ」

小さく言う。

そして、男を見る。

「……条件は?」

「話が早いな」

男は満足そうに頷く。

「簡単だ。仕事を回す。報酬は分配。危険度に応じて割合は変わる」

「縛りは?」

「最低限のルールはある。裏切らない、勝手に問題を起こさない、それくらいだ」

「……ずいぶん緩いな」

「その代わり、実力主義だ」

空気が少し変わる。

「使えないやつは切る。逆に、使えるやつにはそれ相応のものを与える」

(……なるほどな)

つまり、“組織”というよりは“集団”。

強いやつが上に行くタイプ。

「どうする?」

男が問いかける。

沈黙が流れる。

(悪くない話だ)

安定、情報、仕事。

どれも今の俺には足りないもの。

だが――

「……一つ聞く」

「なんだ?」

「俺が、お前らより強くなったらどうする?」

一瞬、周囲の空気が凍る。

リナが息を呑む。

だが男は――

笑った。

「面白いな」

心底楽しそうに。

「その時は、お前が上に立てばいい」

迷いのない答え。

(……本気か)

試しているわけじゃない。

本当にそう思っている。

「……いいな、それ」

口元が自然と上がる。

「嫌いじゃない」

男は満足そうに頷く。

「じゃあ――」

その時だった。

「ちょっと待てよ」

別の声。

振り向くと、数人の男たちが立っていた。

装備は荒いが、数が多い。

「そいつ、俺たちが先に目つけてたんだが?」

空気が一気に荒れる。

(……面倒なの来たな)

黒外套の男が、軽く息を吐く。

「順番なんてないだろう」

「あるんだよ、俺たちの中ではな」

男たちがじりじりと近づく。

囲まれる形になる。

リナがさらに距離を詰めてくる。

(……さて)

視線を巡らせる。

数は向こうが上。

だが――

「どうする?」

黒外套の男が聞く。

試している。

完全に。

(いいだろ)

軽く息を吐く。

「決まってるだろ」

一歩前に出る。

「全部まとめて来い」

男たちの顔が歪む。

「上等だァ!!」

空気が弾ける。

戦いが始まる――その瞬間。

口元が歪む。

(……面白くなってきたな)

街の中で、さらに大きな火種が生まれる。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

第10話では、主人公に対して初めて“スカウト”という形での接触が描かれました。

これにより、単独での成長から、組織や勢力との関わりへと物語が広がっていきます。

今回登場した黒外套の男は、これまでとは違うタイプの強者です。

単純な敵ではなく、主人公にとって“選択肢”を提示する存在として描いています。

また、同時に別の勢力が介入することで、主人公の価値がすでに奪い合いの対象になっていることも示しています。

重要なのは、主人公が“選ばれる側”でありながら、“選ぶ意思を持っている”点です。

このスタンスが今後の展開に大きく影響していきます。

次回は、この衝突の本格的な戦闘、そして主人公の判断が描かれます。

どの道を選ぶのか――大きな分岐点となる回になる予定です。

よければ、引き続き読んでいただけると嬉しいです。

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