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北川和樹  最終話

姉の元夫(もう義兄でいいや)と何が何だかわからないうちの妻を連れて、昨日ぶりにやってきました実家リビング。現在姉と義兄は別室で調整中。俺、なかなか良い仕事したと思うんだよね。

こちらはその間に妻に説明、は難しすぎるので割愛して、手土産のケーキを食べてしばしご歓談。両親からちらほらそれ関連の話はあるものの、妻は、お義姉さんちょっと遠いところに旅行かな?くらいの認識と思われます。はい、ヘタレですいません。


そしてやってきた姉。義兄と手を繋いでいる。ごめん4人掛けのテーブルだから席埋まってるわ。

で、立ったまま姉が切り出した。


和樹にお願いがあるんだけど。

マンション、北海道に行くときは別荘代わりに使っていいからしばらく管理してくれないかな。まとまったお金も渡しておくから。もし私が戻ってこない場合は売却してもいいよ。


ちょっとさ、いつもながら思い切りが良すぎるよ。マンション買ったときも思ったけど。

…で、行くのは決定だとして、それってお義兄さんも一緒なわけ?2人とも仕事とかどうすんのさ。


俺のときは、と親父が声を上げる。

俺のときは1年以上向こうにいたけど、同じ時間に戻ってこれた。そんなこと心配しないでも希もすぐに帰ってこれる。少し遊びに行って、すぐ帰ってこい。


帰るも何も、そもそも行けるのか。てか一体どこに行くのかそれすらわからないんだよ?リュドミラさん竜だし。言葉は通じそうだけどさ。


俺はなんと言ったらいいのかさっぱりで、姉の隣に立っている義兄にふわっと聞いてみた。

あの、お義兄さんはどう思いますか。


うん。のんちゃんが行くならどこでも一緒に行くよ。でもその前に。


真剣な目をした義兄。


もう一回籍を入れてほしい。大事なもの持ってこいって和樹くんに言われて、とりあえずこれだけ持ってきた。


姉の目が大きくなる。一度繋いだ手を離して、立ったまま義兄が鞄から取り出したのはクリアファイルに入った婚姻届と小さな箱。


これ、返されたとき結構ショックだったんだよね。のんちゃんは家族を作れなくてごめんなさいって言ったけど、僕の唯一の家族はのんちゃんなんだよ。誰がなんと言おうと、僕から大切な家族を奪わないでほしい。

だから。


もう一度結婚しよう。


隣に座っている妻の肩が揺れた。

両親は黙っている。

姉は、震える手で箱を受け取った。5年前に返した結婚指輪。

何度も頷く。何度も、何度も。


ぱたりと涙が落ちた。姉ではなく妻の。誰かがよかった、と呟く。ほんとによかった。俺も頷く。


じゃあ、婚姻届出したら行けるよ。とりあえず羽田に行けばいいの?

びっくりするくらい晴れやかな顔の義兄…だけど、この人ちゃんとわかってるのかな。行き先は異世界だよ。竜いるんだよ。戦争は終わったかもだけど、もしかしたら原始人並みの暮らしかもよ?

指輪をはめた姉が準備してないと慌て出す。


え、準備ってなに持ってくの?

下着とか。向こうでちゃんとしたの手に入るかわかんないから。あとはね...

手早くパッキング(元々一時滞在のつもりで帰省していたからその荷物だろう)を始める姉を呆然と眺める義兄。そこに父親が何かを差し出した。


これ。母さんがこないだユニクロで買ってきてくれたやつ。新品だから。

ちょっとお父さん!いくらなんでも下着のプレゼントはないわ。

慌てて母親がその腕をバシバシ叩き、やだーと姉が笑い転げる。

そうだこれがうちの家族だった。親父がボケて母さんがツッコミ入れて姉ちゃんがやらかして。みんなで笑って。


親父が差し出したトランクスを義兄は笑顔で受け取った。こういうとこほんとスマートだ。

ありがたくいただきます、勇者殿。


勇者から受け継ぐのがパンツって!


そんなのやだと姉が大声で騒ぐ。笑った。笑いすぎて涙が出てきた。

ねぇ。こっそり妻が話しかけてくる。

勇者ってなんのこと?

あぁ。俺は笑顔で答える。


うちの親父、異世界で勇者やってたんだ。



お付き合い頂きありがとうございました。

仲良くしてくれていた老婦人の話が元々で、人はどこへ還ってゆくのだろうと考えたのが始まりです。当初は短編一つで終わらせる予定でした。

でもモデルにしたおじいちゃんが認知症で終わらせるにはあまりにも勿体ない方で。最終的にこんなストーリーになりました。

皆様の大切な人が幸せでありますように。

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