第漆記 差別化の犠牲
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それでは、お楽しみ下さい!
あーちゃんがGチューバーになる宣言をしてから数日が経った。
本当に『あーちゃんねる』なるものを作って動画投稿を始めたのだった。
が、結果は芳しくない。
全然チャンネル登録者数どころか、再生数すら伸び悩んでいた。
「何なのよこの国の愚民共は! あたしが直々にやってるのに何で見ないのよ!」
夏の暑さのようなギラギラとした怒れるあーちゃん。
思い通りにならないことが余程苦なのだろう。
お気に入りのぬいぐるみに八つ当たりを始める。
「ズズッ……おばちゃまの動画は正直二番煎じの香りがするでな。世の中のニーズに答えられていないだけなんじゃから、妥当な結果じゃの」
優雅にお茶を嗜みながら、うちもんのレベル上げに勤しむうーちゃん。
「あんたはどうなのよ? 『うーちゃんねる』見せてみなさいよ」
実は、うーちゃんもGチューバーデビューを果たしていた。
現在のチャンネル登録者数1700人、動画の再生数はどれも7000再生オーバーである。
あーちゃんのあたしすげぇ系ゲーム実況に対して、うーちゃんは論理的にどうすれば強くなれるか、つまりは指南書をメインに据える実況をしていた。
俺自身ここまで当初差は出るとは思わなかった。
流石はうーちゃん、商業神の異名は伊達ではない。
うーちゃんに二番煎じ実況者の烙印を押されただけでなく、結果で見せつけられたあーちゃん。
体育座りでうな垂れるアニメによくあるシーンを見事に再現している。
「トヨ! あんたはどうなのよ?」
最後の希望を託すかの如くよっちゃんにすがる。
「あー様、私もまだまだにございます」
実は実は、よっちゃんも『よっちゃんねる』を所持している。
よっちゃんのパソコンを陣取って確認画面を開くあーちゃん。
現在のチャンネル登録者数は3万人、動画の再生数も軽く5万再生を越えていた。
よっちゃんは創作料理をメインテーマに己の技を動画でアップするだけでなく、迅速且つ丁寧なコメント返信が功を奏して一躍人気Gチューバーのになっていた。
「トヨ、何これ……マジ無理」
先程までの大地を干ばつさせんとする態度とは裏腹に日食のような大人しさになった。
そこにうーちゃんがアドバイスのメスを入れる。
「おばちゃま、これからのご時世は差別化が大事なのじゃ。何か他の人には到底できないようなネタはもっておらんのかの?」
しばらく考えるあーちゃん。
「……ないわ」
Ⅿs二番煎じのどこか遠くをボケーっと見るその瞳には、何が写っているのかは到底推し量れなかった。
「あれはどうじゃろ? ガチ芋スナ指南動画とかええと思うんじゃがの」
説明しよう。
芋スナとは、隠れて動かず敵を待つスナイパーの戦いのスタイルの一つだ。
実戦ではこれがスナイパーの基本スタイルなのだが、ことゲームにおいては嫌われやすい。
チキンだなんだとボイスチャットで煽られることも珍しくはない。
「わかった。やってみる」
行動力だけは早いあーちゃんはすぐにうーちゃんに言われたとおりに実況動画を上げた。
「再生数伸びるといいのう」
あーちゃんに優しい言葉をかけるうーちゃんの尻尾はいつも以上に揺れている。
最近はあまり顔に出さないようになったが体は正直なのだろう。
俺は何か企んでいるなこいつはと悟った。
動画投稿翌日。
再生数は2万再生を優に超えていた。
『芋乙死ね』といった大量の批判コメントと共に。
うーちゃんは想定通りの結果に朝からご満悦だ。
流石のあーちゃんもこれには答えるだろうなと様子を伺う。
「いっぱい視聴者が、コメントが来てくれて嬉しいな」
その瞳に生気は感じられない。
完全に壊れたようだ。
「ほら、なんとかしてあげてようーちゃん」
「そうですよ、うー様。お痛が過ぎます」
俺とよっちゃんで壊れた太陽の復旧をうーちゃんに依頼する。
「おばちゃまは正直差別化しにくいんじゃ。何でも平均以上にやれるが中でもずば抜けて突出した技術は芋スナしかなくての、それが世の中のニーズに合わないだけじゃなくアンチを呼んでしまうんじゃ」
説明が正論過ぎて何も言い返せない俺とよっちゃん。
うーちゃんは続ける。
「せめて何かしらおばちゃまにしかできないことがあればの」
「あたしにしかできないこと……あ、あったわ。そうよ、あるじゃない!」
あーちゃんの心に火が、でも、いつもの火じゃないものがついた気がした。
「暇だったから高天原を本気で落としてみたとかどう?」
高天原最高神が己の再生数及びチャンネル登録者数を増やすために、自分の領土を攻略しようという発想を誰が予想しただろうか。
冗談はやめろよと笑って誤魔化す。
きっとみんなもそうだろうとこの時は錯覚していた。
「おー! おばちゃまそれは愉快なことを考えるのう。ゲームではなく実戦とな? 久しぶりに運動してみるのも悪くなかろう。それはウチも賛成じゃ」
昨日よりも尻尾を振って興味津々のうーちゃんである。
「訓練? という名目でやってみるのも悪くなさそうですね。私もお供致します」
なんということだ。
まさかの反対派が俺だけという結果に驚きを隠しきれなかった。
「よし、そうと決まれば出陣は明日よ。みんな準備しようね」
ノリで戦争が決定した瞬間だった。
「煌はカメラマンで同行ね」
軽く10万円は超えそうなカメラをクローゼットから出してくるあーちゃん。
それを俺に手渡すと、しっかり撮れよと言わんばかりのガッツポーズを決めてきた。
みんなのやる気に俺はただただ黙って首を縦に振る事しかできなかった。
そして翌日、出陣の時。
各々巫女服に身を包んでやる気十分である。
「高天原まではどうやって行くんだい?」
素朴な疑問をぶつける。
何てったって俺からしたら異世界同然な彼の地に行くのだから、どんな場所でどうやって行くのか事前に知りたくなるのは至極当然のことである。
「おばちゃまだけができるのじゃ。煌に分かりやすく言うなら、ゲームで言うところの瞬間移動術式がおばちゃまにだけ許されているのじゃ」
ゲームをやらせていたおかげで大変飲み込みやすい説明だったと自分に言い聞かせる俺。
「さぁ、行くわよ! みんな覚悟はいいわね?」
「おー!!」
腕を高くつき上げ声高らかにみんなで雄たけびを上げるとあーちゃんは動いた。
「転移! 高天原正宮一ノ宮!」
みんなの周りを不思議な光が包み込む。
そしてすぐに光で目が開けられなくなった。
「着いたわよ。ようこそあたしの管理地、高天原へ!」
あーちゃんの声とともに目が開けれる明るさになっていた。
さっきまでリビングにいたはずが、目の前には全国各地にある大鳥居よりも大きく、塗りたてかと思うくらい色鮮やかな朱色の鳥居とその奥には地上何mあるのか分からないくらい高くそびえ立つ社殿が待っていた。
――高天原攻略開始――
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