第肆記 無味の豊穣神
第参記を見て追加でこの話も見に来て頂きありがとうございます!
それでは、お楽しみ下さい!
あーちゃんの様子が最近おかしい。
得意なゲームで連戦連敗。
アニメを何時間も集中して見ることもできない。
ボケーっとしていて明らかに今までと違う。
故に、それとなーく食事中にうーちゃんに聞いてみた。
「あーちゃん、最近変じゃないかな?」
「それはのぅ……ズバリ栄養失調だからじゃな!」
「いや、プリンがあればいけるってあーちゃん言ってるけど……」
「たわけ! 嘘に決まっておろう! 神も栄養失調になる故、ウチは普通に食事をとっておるのじゃ」
「うーん……。あーちゃんのこと何とか出来ないかな」
「ウチに提案があるのじゃ」
スプーンをビシッと俺に向けてニヤニヤしているうーちゃん。
冬のような太陽のためなのか自分のためなのか分からない笑みだ。
でも、このままでは、らちが明かないのでその提案に乗ることにした。
「あ、うーちゃんその避けてるピーマンも食べようね」
「……うるさいのぅ」
所変わってここは伊勢神宮外宮。
伊勢神宮に行ったことがある方は御存知だろうが、伊勢神宮は外宮と内宮に分かれていて同一の境内に両宮は存在していない。
内宮には天照大御神ことあーちゃん。
外宮には豊受大神……と呼ばれる神様が祀られている。
今日はうーちゃんと2人きりで朝イチデートだ。
あーちゃんの寝ている間にこっそりと抜け出てきた。
駐車場から正宮まではそこそこ距離がある。
まだ人気の無い参道を2つの足音がこだまする。
「なぁ、うーちゃん。とようけのおおかみ? ってどんな神様なんだ?」
「うむ、端的に申せばおばちゃまの給仕係じゃな。1ヶ月に一度神事がどうこうでおばちゃまは伊勢神宮に戻っておるが、あれは栄養補給に行っておるのじゃ」
「え! それ初耳なんだけど」
「ニシシ、そりゃあ言ったら理想のプリン生活に終焉が来るからであろう。良い年してプリンしか食べないおばちゃまも理由があってじゃな……ほれ、着いたのじゃ。まぁ、豊受に会ってみるのが早かろうよ」
正宮前に立ちうーちゃんが声を上げる。
「豊受ー! 豊受はおるかのー!」
正宮の周りを霧が満たす
丁度すっぽりと白い障壁に覆われた中から、手入れが行き届いた美しい緑髪ポニーテールで、あーちゃんより少し背丈が高く真面目そうなその人は現れた。
「宇迦様、お久しぶりです。それに人の子も……今日は何故参られたのですか?」
「うむ、おばちゃまが栄養失調なのじゃ」
「やはり、偏った食生活をされておられるのですね」
やれやれとでも言わんばかりの面持ちだ。
そして、俺が事の経緯を豊受に説明した。
とりあえず、あーちゃんとの面会希望なので、お持ち帰りすることにした。
車内でワイワイなうーちゃんに対して静かに構える豊受であった。
またまた所変わって我が家だ。
豊受を連れて帰ってきたのにも関わらずまだ寝ている正午のあーちゃんである。
その光景を眼前に焼き付けるように立ち尽くし見いる豊受。
嘘のような誠をその瞳にはどう映っているのか俺には到底推し測れない。
「えっと……これが天照大御神の実態です。すみません……」
「謝る必要はありません。台所を貸して下さい」
静かな物言いだが、瞳の奥に宿る炎に俺は圧倒された。
うーちゃんは待ってましたと言わんばかりの面持ちだ。
何だろうか、絶対悪い方向で話は進んでいる訳ではないはずなのにどこか一抹の不安を感じずにはいられない。
豊受が台所入りしている間に俺はうーちゃんとゲームだ。
戦略ゲームが本当に強いうーちゃんに俺はもう勝てない。
その成長を見るのも一つの楽しみである。
「ニシシ、煌は弱いのぅ。読みが甘いのじゃ!」
「読みとか以前にうーちゃんがマイナーなうちもんしか使わないから何してくるか分からなくて対策の立てようがないんだよ」
「ウチは煌がメジャーなうちもんしか使わぬ故、手に取るように読めておるわ。ニシシ」
「おはよぉ……ウカとうちもんなんて煌はドMなのねぇ……」
ようやくお目覚めのあーちゃん。
もう日は沈みかけていた。
「煌、プリンはよ」
「今日はプリンよりも良いものあるよ」
「へぇー、何? サプライズでも用意してくれたの。いいわ、有能か無能か見極めてやろうじゃない!」
どうやら沈んだお日様は家の中に出てきたらしい。
ニコニコ太陽を台所に導く。
テーブルにはどこから材料を持ってきたんだと言わんばかりの、豪勢且つ栄養バランスも考えられたご馳走が並んでいた。
どこからどう見ても美味しそうなその芸術に太陽は陰る。
「天照様、お待ちしておりました。ささ、お召し上がり下さい。煌様と宇迦様の分もご用意ありますので遠慮なさらずに」
あーちゃんは俺とうーちゃんをギラリと睨み付ける。
「豊受を連れてくるって嫌がらせなの? 煌、マジ無能。ついでにウカは死のう」
「ニシシ、ウチは不滅じゃ!」
「あーちゃん、そんな事言わないで食べようよ。せっかく豊受様がこしらえてくれたんだからさ」
「先に食べれば分かるわ。はよ食べて」
「じゃあ、お先に失礼。豊受様、頂きます」
箸を伸ばして口に運ぶ。
あーちゃんは呆れ顔。
うーちゃんはニヤニヤ。
豊受様は真剣だ。
「うん、非常に美味って、あ……味がねぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!」
この1つの料理ピンポイントで味がないんだと己に言い聞かせ、残りの料理全てに手を付ける。
全て決して不味い訳ではない。
シンプルに超超薄味。
「こんなの毎日食べてられないでしょ?」
やれやれと言わんばかりの面持ちで席に着くあーちゃん。
栄養失調気味なのは本人も自覚ありなのでしぶしぶ食べる。
よく管理栄養士と結婚すると食卓が死ぬとは聞いていたが、流石に毎日これというのは俺も正直手厳しい。
あーちゃんが反動で唯一プリン主義になるのもうなずける。
俺は豊受様に提案をすることにした。
「せっかくですから、人間の食文化に触れられてみてはいかがですか? 簡単なものならすぐできますけど」
「素材の味を引き出している私の料理にケチをつけるのですね。いいでしょう。私の舌を負かしてみなさい! 人の子よ!」
よし来たと言わんばかりに俺は冷蔵庫にあった残りの食材で簡単なとろみのある中華風野菜炒めを作る。
「さぁ、食べてみて下さい」
「何ですか何ですか……このどろどろしたモノの中に野菜なんて入れて……」
初めて見る料理に警戒しつつも豊受様は手を伸ばす。
口の前で少しためらうも勢いでパクっと頬張る。
静かな空間に響くシャキシャキ音。
それらは喉を通りまた沈黙する。
緊張の一瞬。
俺は豊受様の感想を構える。
「美味しい! 何ですか何ですか! 大変美味しいじゃないですか!」
瞬く間に完食する豊受様。
俺はホッと息を撫で下ろす。
「つまりは、こういうお食事であればあーちゃんも納得してくれると思われます。あーちゃんも食べてみて」
あーちゃんも嫌そうに食べる。
「え、待って煌。凄く美味しいじゃん!」
「ほれ言ったじゃろ。おばちゃまは食わず嫌いなだけなんじゃ」
あーちゃんが初めて俺の料理をしかも美味しそうに食べてくれている。
俺は目に熱いものを感じるくらい嬉しかった。
今日は泊まるみたいなので、その後、豊受様に指導のメスを入れた。
素人が管理栄養士に料理を教える何ともあり得ない光景である。
次の朝、豊受様のこしらえた料理は大変大変美味しく、食卓が楽しい場と化した。
みんなで囲む食事は美味しい芸術をさらに昇華させる。
「豊受、あんたもここにいなさい。こんくらいの料理なら毎日食べてあげてもいいわよ」
目を閉じながら食べるあーちゃんはスキルアップした豊穣神に留まるよう促す。
「えっと……煌様に悪いのでは……。」
「俺は別にいいよ。これからよろしくね豊受様。」
「分かりました。この豊受大神こと私がここで御奉仕させて頂きます。それと敬語はお辞め下さい。後、私にも皆様のような名前が欲しいです。」
「ウチが考えよう。トヨウケだからよっちゃんでどうじゃ。」
すごーく安直なネーミングだが……肝心の豊受様はというと。
「分かりました! よっちゃん頑張ります!」
気に入ってくれたようで良かった。
こんな所に三柱も神様が居ていいのかなと思いつつも、また一つ家が賑やかになって非常に嬉しい俺である。
――伊勢神宮外宮豊穣神豊受大神がパーティに加わった。――
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