第1場 ジャポンへ
1549年 ゴア ポルトガル領インド総領府
ポルトガルが勢力を拡大するため、オスマン帝国との戦が始まって久しい。
ミゲル・ロドリゲスは、墓の前にひざまづいていた。花を手向け、十字を切りクロスを握りしめ祈る。「…本当にすまない。」
ミゲルは目を閉じあの日の事を思い出していた。
アデルで戦闘が起こり、町には砂煙が舞い上がる。
目の前に突然、誰かが現れた。
ミゲルは躊躇なく斬りつける。
小さな悲鳴が聞こえた。よく見ると兵士ではなく水がめを持った少年だった。
彼の身体から血が流れ出る。
ミゲルは慌てて少年を抱き起こした。 水がめは割れ、地面に水が染み込んでいく。
止血を試みるも仲間に止めらた。
「もう、無理だ。早くこっちへ来い。」
「でも、まだ助かるかも。」
「敵国の人間だぞ。…気にするな。」
ミゲルの動きが止まった。
仲間の騎士がミゲルを抱えるようにしてその場から離れた。
「…その日から私は戦場で剣を抜く事が出来なくなった。」誰に言うともなくミゲルは呟く。
こうして、剣の稽古の時は何ともない。
ひとたび戦場に入ると、汗をかき、手が震え剣を握ることさえできなくなっていた。
「治療のため、ここゴアに来ているが…あの日の事を思い出すと胸がしめつけられ、息が出来なくなる。私は、騎士に戻れるのか…。生き方を考えなければならないのか…」
頭を抱え座り込んでいると、医者が近づいて来て告げた。
「教会に行ってみるか?」
医師はミゲルの肩に手を置き告げた。
「…無理はしなくていい。」
ミゲルは教会の門を叩き、
ザビエルは優しく受け入れてくれた。
「苦しかったですね…。」
気が付くと洗いざらい話していた。
地元の少年を間違えて剣を使い殺してしまった事。罪の意識にさいなまれ、常に心が重く鉛のようである事、仲間の兵士には敵国の人間なんだ、気にするなと言われ信じられない気持ちでいること。危険を顧みず彼の墓に行き、祈りと花を手向けていた事。
ザビエルは言う。
「神は人の罪を知っておられる。だが、悔いる者を見捨てはしない。」
「私は赦されるのでしょうか。」
ミゲルは尋ねる。
「それを答えるのは私ではありません。」
沈黙。
「…ですが、あなたはその少年を忘れてはいない。その事に私は希望を見出すのです。」
「今は、心苦しくとも赦されたと気がつく時がいずれきます。」
ザビエルはミゲルを見て優しく微笑む。
「…そうだ、私は今からジャポンにキリスト教を布教するために行くのです。
急に我らがいくのだから、ジャポンの人と争いが起こるかも知れません。帰国の目安は今はまだありませんが、我ら宣教師の護衛としてジャポンに一緒に行きませんか?」
「それは…聞いて見なければ分かりませんが…。
今のままでは騎士として戦いに参加する事も出来ない。…私はご一緒して、生きる意味の答えを見つけたいと思います。」
こうして、ミゲルは1週間後東の果ての国
『ジャポン』を目指す事になった。




