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日輪の防人と精霊の姫君 第一章 王国と大地編  作者: Yudai


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第六話 交差する運命

※お知らせ※


 本作の主人公である『アリシア』ですが、なろうでの他小説や商業化のされている作品の主要人物(ヒロイン等)に同じ名前が付けられているのを度々見受けられ、作者の都合で名前を少しばかり変更、今後は主人公の愛称である『アリス』で明記する事に致しました。

  読者の方々には、ご迷惑をおかけします事を深くお詫び申し上げます。


〇変更前

 アリシア・エル・ファルシオン

〇変更後

 アリシェスタ・エル・ファルシオン

「……治って……いるの?」


 アリスは青年の身体を注意深く見渡した。顔周りの傷は完全に無くなっており、血色が戻った表情をしている。呼吸も穏やかになっていた。 


(……わたしが……治したの?)


 アリスは自分の両手を見つめる。

 突然、身体から光り輝いたと思ったら、青年を治療できていた。魔力が無いと告げられた筈の自分に、治癒魔法を使うことができたことに驚きを隠せないでいた。


「えっ?」


 そんな中、アリスはふと気付いた。いつの間にか自分の右手の甲に、赤色に光る見たことのない紋章が描かれていたのだ。薄暗くなる森の中で、まるで心臓の鼓動のように淡く光りを放っていた。


「これは……何?」


 やがて光るが無くなり、甲には赤色の紋章だけで残されたていた。


(……わたしに、何が起こっているの?)


 次々と現れる予想外の展開に、アリスの心は不安に駆られていた。

 すると、


——ようやく目覚めたのだな。


 再び、あの謎の声が聞こえて、アリスは顔を上げた。


(! またあの声!?)


 アリスは改めて森の中を見渡すが、誰一人問いかけに応じない。青年も目覚めた様子もない事から、彼が声を出せる筈はなかった。


——こっちだ、アリス。


 アリスは謎の声の主を探している内に、自分の横で見上げているフロルの姿に目を止めた。


「フロ……ル?」

——ああ、我の声が届いたのだな。やっと話せる事が出来て嬉しいぞ、アリス。


 アリスは目の前の状況に頭が追いつかないでいた。


(フロルが……喋っている)

——実際に話している訳ではない、我の意識を其方の伝えているだけだ。


 フロルから声が聞こえると、アリスは驚愕の表情を浮かべる。


「フロル。貴方、今……わたしの心を?」

——我と其方は同じ力の源と持っている。故に我は其方の意識を読み取る事が出来る。


 アリスは混乱しつつある思考を保ちながら、フロルに尋ねた。


「フロル……貴方は一体?」

——我は『精霊獣』。其方らの言葉で言えば、精霊の具現化したものと言っておこうか。


 精霊。マナと呼ばれる自然界の魔力そのものの化身であり、あらゆる万物に宿る存在。

 だが、本来精霊とは不可視であり、人間には感知すらできないものだ。だからこそ、アリスはフロルが自身を精霊と名乗った事が信じられなかった。


——長らく其方を見守っていたが、ようやく力に目覚めたのだな。アリス……いや、“『恵み』の精霊姫“よ。

「精霊……姫?」


 その単語は忘れる筈はない。アリスが大切にしていた絵本のタイトルであり、物語に描かれていた存在だ。


——初めて其方をに見つけた時、我は確信した。其方こそ、我らが住まう自然界と種族に加護を与える世界の調整者の一人、『恵み』の精霊姫だと。

「わたしが、『恵み』の……精霊姫」

——そこの人間を助けたであろう? あの力こそ其方の精霊姫たる証明だ。


 アリスは言葉が出なかった。今まで魔力なしの無力な王女として蔑まれていた自分に、こんな力があるとは思わなかった。

 しかし、自分の身体から光りが現れ、青年の傷を治してたのは間切れもない事実でもあった。


 その時、


「う、うん……」


 アリスは声が聞こえた方を振り向くと、倒れ込んでいた青年の目がうっすらと開いた。


「ここは……」


 青年の茶色の瞳が、夕日が沈みかけて暗くなりつつある空を凝視していた。


「あれ? ここは……一体どこ——」


 辺りを見渡す青年の眼が、アリスの視線と重なった。


「ぬわぁっ!?」

「きゃっ!」


 青年が唐突に荒らげた声に、アリスは小さな悲鳴を上げて後ろに仰け反った。


「だ、大丈夫ですか⁉」


 青年は身体を回転させてうつ伏せになった。四つん這いの姿勢から立ち上がると、アリスの元に駆け寄って来た。


「すみません、急に声を上げたりして。お怪我は無いですか?」


 片膝をついて腰を低くした青年の不安そうな表情が、アリスを見つめていた。


「あの……その……」


 アリスは声を震わせていた。

 青年が黒髪の悪魔だからという訳ではない。アリスとって父親や兄、騎士等の男性に対する印象は良くなかった。いつも威圧的に接してきた経験から、男に畏怖を抱いていた。


 何か話す内容を考えていると、急に青年がアリスの左腕を掴んだ。


「ひっ!」


 アリスは、突然の事に恐怖を表情を浮かべる。


「……やっぱり、怪我をしていますね」


 青年の視線の先を見ると、左肘辺りのドレス生地が赤く染まっていた。

 おそらくは馬車から投げ出された際に負っていたのだろうが、色んな事が立て続けに起こったせいか、青年に指摘されるまで気付かなかった。


 青年は腰に付けている赤い十字が描かれたポーチから箱を取り出した。蓋を開けると、中から透明な袋に入った薄い白色の布生地と包帯を取り出した。


「今から手当てしますので、ちょっと袖をまくりますよ」


 青年がアリスの左側のドレスの袖を上げると、肘周囲に擦り傷が出来ていた。青年は出血している患部に布生地を当て、その上から包帯を巻いていった。

 

 アリスは青年の作業を呆然と見ていた。

 エリシアの魔法を受けた時も、こうした怪我は何度もした事はあった。しかし、治癒魔法をかけるどころか手当てすらしてくれる人等、王城では誰一人いなかった。

 だから、アリスは青年の行動が理解できなかった。


「すみませんが、止血の為にきつく縛りますね」

「うっ!」


 アリスは肘の包帯が強く縛られていて顔を歪ませた。


「これで良しっと」


 青年は止血処置を終えると、再びアリスに視線を移した。


「止血はしました。だけど、あくまでも簡易的なものですので、気を付けてください」


 青年は優しい口調で言うと、箱から出して散らばった物を拾い集めた。

 アリスは、包帯が巻かれた左腕を見つめる。


(こんな事されたの……初めて……)


 アリスは黙々と片付けを行う青年を見る。


「あ、あの……!」


 アリスは徐に青年へ声を掛けた。その声に反応して青年が振り返った。


「あ……あ……」


 アリスは胸元近くで両手を組みながら、顔を伏せていた。


「……ありがとう……ございます」


 アリスは必死の思いで、その言葉を紡ぎだした。


「いえ、構いませんよ。”自衛官”として当然の事をしたまでですし」


 青年は苦笑交じりで応えた。


「じえい、かん?」


 聞きなれない単語に、アリスは首を傾げた。


「失礼しました。そう言えば、まだ名前を言っていませんでしたね」


 青年はアリスに身体を向ける。姿勢を正して右手を額に当てた。


「自分は空閑隼人(くがはやと)。日本国から来た陸上自衛隊、三等陸尉であります」

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