4.疑問
アニメにおいて、アルバート・グリュードラーは敵キャラだ。主人公と複数回戦い、越えるべき壁として現れる人物である分、比較的掘り下げの多いキャラクターといえる。
しかし、それでも敵キャラであることは変わりない。主人公たちとは違い、戦いに臨むまでの情報は開示されていないところも多い。
だから。
長期演習の間に徴兵されるのかもしれない。既に、私ができることなんて、ないかもしれない。それでも、可能性を投げ出すことは、できなくて。
__私は、半年後の研究成果発表会で最優秀賞を狙うことにした。
何故、研究成果発表会なのか。それは、この発表会で受賞した者は、宇宙連合機関の軍部から表彰が行われ、上級技術候補生の身分を得ることができのである。
元々、士官学校附属大学ということもあり、三年生までの単位を全て取得すれば技術候補生の資格を得て、大学が所有する機体の整備補助ができるようになる。
上級技術候補生になると、単独での整備が許されるようになり、そして、非常時の従軍を求められる立場にもなるのだ。
そうすれば、彼が徴兵される際に、私も着いていけるかもしれない。
「とはいえ……」
本来、発表会に参加するのは修士学生、つまり一年後の話だ。だが、早めに研究を進めている四年生が、中間成果を報告することもある。
四年生で所属する研究室は既に決まっているので、早めに参加させてもらうよう交渉して。関連分野を中心に授業を先取り。
元々、家業に関連する研究室を選んでいたため、研究内容も機体開発に近い分野になる。ベラは隣の研究室なので、休み時間は一緒に過ごせそうだ。
「頑張ろう……!!」
小さく握り拳を作り、研究室の戸を叩いた。
大学は、意欲的な学生に優しい。私の要望は概ね受け入れられ、四年進学前に研究室に出入りできるようになった。
先取り授業を個人的にしてもらうことはできないが、教科書の購入はできたし、メールなどで質問にも答えてもらえる。
「後は、研究の内容を決めて……」
実家の伝手や大学の図書館に通い、専門書も読み漁り。一番、役に立ちそうな。アルバートの死因を回避できるような内容を探していて、気が付いた。
「……エネルギー関連の研究室が、少ない?」
『ゾナ・フロンティア』において、主人公機である『ホープレイ』の特徴。それは、動力に新エネルギーを使うことで実現した、圧倒的な基礎性能の高さと強力なビーム兵器だ。
エネルギー不足によって故郷を奪われる主人公が、新エネルギーを動力として機体に乗って既存権力と戦い、その力を示す。
アニメとして自然な流れだが、今、この世界を生きる人間として、引っ掛かることがある。
「一年以内に本編が始まるとしたら、既に新エネルギーに関する技術はある程度確立されているはず。なのに、関連研究室が大学にないどころか、論文がひとつも見つからない……?」
アニメ1話で、主人公は専用機『ホープレイ』に乗り込む。その時点で新エネルギーを動力とする技術は確立しているのなら、先行研究は既にあるはずだ。
そして、先行研究があるなら。ここ、エメリオス軌道上第1学園区、この宇宙の中心である学園都市に記録があるはずなのだ。
特に、士官学校附属大学は、最先端の技術を扱っている。だというのに、全く手掛かりが見つからない理由は、数えるほどしか思いつかない。
「もしかして、禁止技術……?」
エネルギー問題は、既存の居住区を廃止する程の問題。宇宙連合機関が対策をしていないはずがない。
ならば、最も積極的に研究すべきは、エネルギー関連技術になるはず。なのに、エネルギー効率化に関する研究室はいくつかあれど、新エネルギー開発に関する研究室はない。
「でも、どうして禁止に……?」
実用する上で危険性がある技術でも、研究すること自体は悪ではないはずだ。逆に、危険とわからないまま放置する方が余程危ない。
危険な技術だったとしても、規制の中で安全に扱う術を探さなければ、技術の発展はない。技術は生活を豊かにするものなのだから。
「と、なると、倫理的な問題?」
他のアニメではよくあるが、生命エネルギーを変換するといった技術なら、禁止されているかもしれない。
「どちらにせよ、エネルギー系は避けた方が良さそう。家の技術とも関係が薄いし……」
宇宙連合機関上層部の目に留まるために研究をするのに、危険人物扱いされては意味がない。エネルギー分野には触れないことにして、私は機構系の研究をすることに決めたのだった。
__順調に研究は進み、幾つかの重要技術については、大学を通じ宇宙連合機関上層部に報告をあげて。
気付けば、三ヶ月が経っていた。
「シオリ、まさか忘れてないでしょうね?」
と、薄く笑ったベラに言われ、慌てて作業着のまま最低限の化粧だけして、お礼の品を鞄に入れ、士官学校へと走る。
事務局の女性に笑顔で彼のいる格納庫の場所を教えてもらい、向かった先で。
体を震わす轟音と、頬を切り裂く爆風。そして、無機質で明確な殺意が、私に叩きつけられた。




