第21話 「虚無の継承者との決戦 ― Collapse of Void 」
皆さま、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
皆さまのおかげで、この物語を最後まで紡ぐことができました。
それでは、最後の一幕をどうぞお楽しみください。(^^♪
瓦礫の大地を覆う霧が、低くうねった。
それはまるで、世界そのものが息を呑んでいるようだった。
虚無の継承者は、静かにその姿を再構成する。
無数の黒い線が空間を縫い、かつて“神”が形を与えた世界を、音もなく解きほぐしていく。
「来るぞ――!」
アルマの声とともに、戦いが再び始まった。
グリスは剣を構え、リーアと目を合わせる。
その瞬間、彼らの間で言葉を交わさずとも、決意はひとつに結ばれていた。
リーアの光が展開し、空間を包み込む。
音と光が交錯し、影の動きを制御する。
虚無の継承者はその中心で揺らめき、やがて低く呟いた。
――「……光……音……それは、かつて我が拒んだ“創造”の力……」
その声は、まるでアイオーンの声の欠片。
グリスの胸に、塔で聞いた言葉が蘇る。
『創造とは、破壊を恐れぬ意思だ。』
虚無の継承者は、創造主が自ら切り離した“恐れ”と“否定”の象徴。
神が完全であろうとして、切り捨てた最後の“人の部分”だった。
セレスティアが息を呑む。
「……この存在、アイオーンの“影”……!?」
影はゆっくりと顔を上げた。
瞳の奥に、光を宿したようにわずかな温度が生まれる。
――「私は、神が捨てた“問い”そのもの。
なぜ創るのか。なぜ終わるのか。なぜ、人は神を継ごうとするのか――」
瓦礫が崩れ、光が砕ける。
グリスは影の中心に向かって歩み出る。
「それでも……俺たちは創る。
恐れを抱えても、過ちを繰り返しても。
だってそれが、“人が生きる”ってことだから!」
剣が光を帯びる。
リーアが光の魔法を重ね、音の波が空気を震わせた。
音と光――その二つが、虚無の継承者の体を穿つ。
黒い影が叫び、空間が白く反転する。
――「……そうか……それが、“継ぐ”ということか……」
虚無の継承者の輪郭が崩れ、霧のように空へ溶けていく。
だが、その瞳だけは最後まで、確かな“理解”の光を宿していた。
やがて、静寂が戻る。
リーアが空を見上げ、静かに呟く。
「……人が神を綴った物語は、ここで終わるのね。」
グリスは剣を納め、笑う。
「いや――ここからだよ。
“神が人を見守る”時代じゃない。
“人が神を描く”時代を、俺たちが始めるんだ。」
霧が晴れ、廃墟の空に一筋の光が射し込む。
その光はまるで、誰かが最後に残した希望の筆跡のようだった。
風が吹き抜け、瓦礫の上に一冊の残骸が転がる。
それは――“創造主の最後の書”。
しかしその最後のページには、もはや文字はなかった。
グリスはその無垢な頁を見つめながら、静かに微笑んだ。
「……あとは、俺たちが書く番だな。」
リーア、アルマ、セレスティア――皆が頷く。
瓦礫の上を、朝の光が照らす。
かつて神が描いた世界の残響は、今、“人の物語”として再び始まりを告げた。
【エピローグ】
虚無の継承者は、もはや存在しない。
だがその意志は、風の中に残っている。
人の創造を見届け、静かに消えた“問い”として――。
そしてグリスたちの旅は、まだ続く。
神話は終わり、物語が始まる。
――「人が綴る限り、世界は何度でも生まれ変わる。」
【エピローグⅡ 黎明の綴り手】
光はいつもより柔らかく、世界を満たしていた。
瓦礫や傷ついた大地には草が戻り、町の屋根にはこつこつと修理の手音が響く。人々はまだ傷を抱えているが、笑い声もまた少しずつ戻り始めていた。
大通りの片隅──そこに小さな「書棚」と椅子が据えられている。蝋燭の揺らめきに照らされたそれは、派手ではないが確かな存在感を放っていた。誰かが「書く」ための場所だと、一目で分かる。
グリスはその椅子に腰掛け、旅先で拾ったインク壺を指で転がした。彼の腕には、まだリベリオンの紋章が淡く光っている。剣はもう鞘に納められているが、目つきは以前と変わらぬ真剣さだった。
リーアが彼の隣に座り、片手を机に置く。彼女の眼差しは穏やかで、どこか誇らしげだ。ナナシは遠くから子供たちを連れてきて、「さあ読むぞ」とばかりに乱暴に背中を押す。アルマは新たに結成された“綴り手ギルド”の小さな帳簿に、筆で整然と記録をつけている。
「最初に何を書くつもりだ?」リーアが尋ねる。
「……俺たちの最初の章だ。戦いの話でも、塔の話でもない。ここにいた人たちのことをだ」グリスは答え、目の前の白紙を見下ろした。
白紙は、かつて最後の書によって閉じられていた頁だ。今はもう封印は解け、最後の文章を誰かが書き足すことを待っている。だがその頁に何が記されるべきか──それを決めるのは神でも運命でもない。人々自身である。
通りの向こうから小さな足音が近づく。子供が一人、好奇心いっぱいに近寄ってきてこう問うた。
「ねえ、おじさん。お話、書いてくれるの?」
グリスはにやりと笑い、インクを浸した羽根ペンを持ち上げた。
「いいだろう。じゃあ、お前が聞きたい話から始めよう。誰が主人公で、どんな朝だった?」
子供は目を輝かせ、小さな口でとんちんかんな要求をする。周りの大人たちがくすくす笑い、誰かがそっと毛布を肩にかけてやる。そんな光景そのものが、今ここにしかない「物語」になっていく。
リーアはふと、遠くを見やる。あの塔の頂で聞いた声、オルフェウスの笛の余韻、虚無の継承者が遺した問い──すべてが腑に落ちたわけではない。だが彼女の胸には確かな確信があった。
「私たちは綴る側になった。だから、次は消えない物語を増やしていきたい」
やがて日が傾き、町の人々が集まり始める。傷の手当をした療術師や、瓦礫を片付ける職人、修繕のために木材を運ぶ子どもたち──彼ら一人ひとりの顔をグリスは見つめ、羽根ペンを走らせた。文はぎこちなく、何度も書き直される。だがそのたびに頁は温かさを増していく。
夕闇が来るころ、ナナシが足を止めて言った。
「我々が書くのは“完璧な神話”じゃねぇ。失敗、悲しみ、笑い、怒り――全部ひっくるめて“人”の話だ。読み手が誰かを赦せるような話を残そうぜ」
その言葉に、誰もが頷く。セレスティアは軽く微笑み、アルマは静かに筆を拭いた。オルフェウスは──彼は遠くで笛を吹き、今は消え入るような音色で夜を満たしていた。かつての“記録の守人”は、もはや支配することを望まない。音は、誰かに物語を託すための合図になっていた。
夜が深まり、最後の一文が書かれる。羽根ペンの先で点が打たれ、インクが乾いていく。静かな達成感が、皆の胸に満ちた。
グリスは紙を折り、簡素なカバーをつけ、本棚に収めた。表紙には手書きでこう記した──【黎明の章・市の物語】。そしてその隣には、誰でも綴れるよう、白い頁の束が差し出されている。新しい綴り手がいつでも現れるように。
黎明の綴り手たちはその夜、簡単な祝いを始めた。火を囲み、食事を分け合い、子供が新しい物語をねだり、老人が昔の歌を口ずさんだ。グリスは杖代わりの剣を脇に置き、リラックスして空を見上げる。星は以前よりも近く、柔らかく光っているように見えた。
そして最後に、グリスは小さく呟いた。
「また何度でも生まれ変わるだろう。でも今度は、誰かの物語が消えないように、俺たちがつないでいくんだ」
リーアがそっと肩に手を置き、答える。
「ええ。人が綴る限り、世界は何度でも生まれ変わる。だけどそのたびに、私たちの声が残る」
風がページをめくり、小さな本棚は夜の中で静かに呼吸を続けた。そこから生まれる物語は、やがて誰かの明日を照らすだろう。
ー完ー
皆さま、ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。
皆さまのおかげで、この物語を最後まで紡ぐことができました。
これもひとえに読者の皆様のおかげです!
グリスたちの物語は一旦ここで、完結となりますが、
筆者の別作品である『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』通称:【ナナクラ】は今後も投稿が続きます。是非、この機会に知って頂けますと幸いです!
それでは、今度は【ナナクラ】でお会いできることを楽しみにしております~~~(^^♪
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声が可愛くなるなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
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