第112話 アインシトル
セイは前のめりになってアルカに尋ねる。
「その、アインシトルっていうのは、一体誰のこと?
私やアリス、母さんの姓だったり、【聖神路典】の著者としてもその名前があった……」
アルカは少し考えると、思い切りを付けたのか口を開いた。
「あなたたちには……もういいでしょう。アインシトル、それは私達の先祖であり、神域の外側にかつて存在していた最高神にして創造神のことよ」
「最高……神? 神様の中で最高位なのって、三傑じゃないの?」
アリスは、一般に知れ渡っている情報との相違についての疑問があった。
「ええ。けどアインシトルは、それらの神とは違う。
何せアインシトルは神を創った神だもの。アリス、あなたは私と同じ[創造者権限]を使えるでしょう?
それこそ創造神であるアインシトルの権能の一部を、スキルに封じ込めたものよ」
「なら私達は、神の血を引いている……ってこと?」
セイは恐る恐る尋ねる。
「そうなるわね。けど……私も、アインシトルについては知らない事も多い。例えば……アインシトルの本当の力。とかね」
セイがその、アインシトルの本当の力について、せめて分かっている事を聞き出そうとした時、アルカは何かを思い出したかのようにセイに詰め寄った。
「ねえそういえば、さっき科学者みたいな人から大きな刀を受け取っていたわよね?
ちょっと見せてくれない?」
「え? まぁ、少しならいいけど」
そう言ってセイは[零刀Ⅴ型]を出した。アルカは柄、鍔、鞘、刀身まで、舐めるように隅々までそれを観察した。そしてぼそっと口を開く。
「……これなら十分ね」
「え? 何が?」
セイがそう尋ね終わる前に、アルカは刀を押し付けるようにセイに返し、創造者権限を使用した。人差し指を立て、縦に振ると、それに沿って空間がファスナーのように開いた。
(亜空間収納かな?)
そしてそこからアルカが取り出したのは、純白の石のような塊だった。
「これ……なに?」
セイの当然な疑問に、アルカは表情を変えずに一言で説明した。
「これ? アインシトルの爪」
「「「は?」」」
セイとアリスは驚きのあまりなかなか出ない口調で、なんなら会話に参加していなかったラレムでさえ驚きのあまり2人と同時に声を出してしまった。
しかしアルカは、顎が外れそうなほどに驚いている三人を置いてけぼりにして説明を続けた。
「この爪を使って、その刀を強化できるかもーって思ったの。そこらの武器じゃ合成の時点で簡単に壊れちゃうでしょうけど、それなら大丈夫そうよ」
「貴重なものじゃないの……? さっきの説明聞いた感じ三傑よりも偉い神様の神体の一部でしょ?」
アリスは若干声が震えている。が、アルカは至って冷静……どころかワクワクしているようだった。
「だからこそ有効活用しなくちゃ。【記憶】、倒すんでしょ?」
セイは冷や汗をかいた。
(それを言われたらこっちは何も言えない……)
「黙ってるってことは、この計画に異議はないってことよね?
善は急げ、よ! 行きましょ」
アルカはセイとアリスの腕を引っ張った。
「行くって……どこに?」
アルカは振り返り、ウインクして答えた。
「そりゃあ、主要次元一の鍛冶屋よ!
あっそうそう。ここはとりあえず修復しとくわね。[創造者権限:復]」
すると瓦礫だらけのベルクリアは、ほんの数秒で元の姿を取り戻した。
「街が元通りになってるって気づいたら、きっと人もすぐに帰ってくるわ」
セイは慌てて振り返る。
「ラレムも来てくれないか~!」
「……はぁ」
「それで、行くのは何次元?」
アルカを船に連れ込んだ時には、ストラシアの面々は船に戻っていた。しかしその時まで、セイ達はアルカに行先を聞いていなかった。厳密には聞けていなかった。
「秘境次元よ。あの森ばっかりのところ」
「秘境次元って……第六次元の、あの秘境次元のこと?
あそこ、次元間転送陣で行けないどころか、この船でも行けなかったんだよ?」
そう。以前時間がある時に試した際、この船の次元間渡航機能でも、秘境次元に入ることはできなかったのだ。
「大丈夫。私は入り方分かるから!
とりあえず……魔法次元に向かって」
『次元間渡航を開始します。行先、第五、魔法次元』
光の先には見慣れた景色。アルカは続ける。
「よし。じゃあ、ひたすら北へ向かって」
数時間後、
「うん。ここなら大丈夫そうね。ここで秘境次元に向けて次元間渡航よ。
魔王次元と魔法次元が物理的に繋がっているのは有名よね? 実は魔法次元は秘境次元とも繋がっているの。入り口は一つだけだし、とてつもなく遠いけどね。
私も詳しい理由は分からないけど、次元間転送陣でも、物理的に近いものでないと秘境次元には入れない」
『次元渡航を開始します。行先、第六、秘境次元』
「……何とか奴らの意識を術式から遠ざけることができたか。運命の権能は実に使いにくい……が、効果は十分であるな。
しか」しやはり、こちらの運命は、「操れそうにない」な。意識「を遠ざけるよう運命を操る……
貴殿には通じないようであるな。」自己紹介は必要なかろう。我の事を含め、ずっと読んできたのだろう? 我らを文字としか認識していない、観察者よ。
[楽園の黎明編]終幕
次回 樹下の反逆者編
「我々に協力せよ。さもなくば、【記憶】にひれ伏すことになる」




