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星降る夜の砂漠は井戸を秘める  作者: まりや みずうみ
9/13

撮影会

ドレスを着て、メイクを終え、ついでに妙な気合も入れ、真知子と美園はスタジオに戻った。

シバさんの友人はすでに到着しており、撮影機材の調整をしていた。こちらに気づくと、一瞬ポカンとした表情になり、慌てて走って近づいてきた。

「到着が遅くなってすみません。横井と申します」

渡された名刺には、「カメラマン 横井よこい りゅう」と書かれている。

「えっ、琉さん?」

「美園、知りあい?」

「違う・・・この間、『エレトワ』の表紙の写真撮った人だよ・・・」

「え?!」

ファッション雑誌「エレトワ」は、世の日本人女性なら知らぬ人はいないほど人気のある雑誌だ(ファッションに疎い真知子は名前だけしか知らないが)。

「あの仕事が最近1番大きかったんです。それに、次があるかもわかりませんよ」

琉さんはそう言って謙遜する。

「それにしても・・・美しいドレスですね!モデルさんにピッタリ合わせて作ったみたいだ。モデルさんが着て完成、みたいな」

前にも、同じようなことを言われたような。


シバさんが、アクセサリーの入ったケースを持って現れた。

「撮影、始めましょうか」

そう言ってまず取り出したのは、大ぶりのイヤリングだ。装着はシバさんにやってもらう。

『自分を信じる、自分を信じる・・・』

心の中で何度も呟いていた真知子だが、イヤリングの留め金が「パチン」と降りた瞬間、その考えは吹っ飛んだ。


カメラのシャッター音が響く

美園と琉さんの要求や指示が飛んでくる。

それら全てがどうでも良かった。真知子は顎を上げ、カメラに向かって挑発するように微笑んだ。


「真知子ちゃん・・・?」

美園の恐々とした声に、真知子は我に返る。

「ご、ごめんなさい」

「ううん、いいの、そうじゃなくてね・・・」

美園と琉さんはお互いのカメラの画面を交互に確認して何やら話し込んでいる。

「真知子ちゃんじゃないみたい・・・」

「本当ですね、俺、誰かを撮影する時こんなに冷や汗かいたの初めてです」

話し合う2人の横で、シバさんはにっこり笑ってこちらにグーサインを出した。


その後も、撮影会は続いた。

真知子は相変わらず、アクセサリーを身につけるたびに別人のような表情になった。真知子が意図してやっているのではない。真知子にはそんな芝居のような真似は出来ない。ただアクセサリーが、真知子に「こうしたい」「こんな表情を浮かべたい」と思わせているようだった。

「これでラストです!お疲れ様でした!」

最後の撮影が終了し、真知子は再び美園と更衣室で着替える。

「真知子ちゃん素敵だったよ〜!」

「それは、作品が良いからで・・・」

「またまたぁ、そこは謙遜しないで素直に自信持つ!」

言われて真知子ははにかむ。

「ありがとう。ちょっと自信が持てたかも」

「そうそう!今日は疲れたと思うから、明日はゆっくり休みなね」

美園はテキパキとドレスを片付けていきながら、「真知子ちゃんさぁ」と声をかけた。

「撮影の時、何か考えてなかった?」

真知子は、視線を泳がせた。美園はそれを見逃さない。

「ほらやっぱり何か考えてたでしょ!」

「いや、えっと、実は・・・」

真知子は撮影の時の出来事を、できるだけわかりやすく美園に伝えた。

「そっかぁ、シバさんのアクセサリーがねぇ」

美園は腕組みをして考える。

「運命の出会いかもねぇ」

「・・・何の話?」

「恋に決まってるでしょ」

「私とアクセサリーの?」

「シバさんとに決まってるでしょ」

ピシャリと言って再びドレスを片付けながら、美園はぶつぶつと「ハンドメイド婚活とか良いかもね〜」と勝手に思案している。

真知子は相変わらずの美園を見て苦笑しながら、身体の中がどこか暖かく、光に包まれるような感じを覚えていた。

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