No.003 魔法少女の変身シーンで会話をしてみた
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十七分。
放課後、簡易シェルター。
初口、六条茜。
「今日は生憎の雨だけど、それでも、感染者の人達は変わらず営業中なんだね」
雨が降ってもここから見える外の景色は相変わらず。
感染者の数が減るわけでも無いし、彼らの生活習慣は、天候に左右されない事が分かった事くらいで、他に何か目新しい事や、私の待ち人が姿を現す様子も無い。
「茜さん。ちょっとした事件があったよ」
「ちょっとした事件?」
「うん、本当かどうか分からないけど、どうやら一番初めにミサイルを撃った国、完全崩壊したみたい」
「それが事実なら凄い事だね」
「なんだかね、地下に大量保存してあった爆弾が爆発したんだって」
「そっか。他国を脅威に貶めようとして作ったはずの物で、まさか自国の崩壊を招く、なんて思っても無かっただろうね」
「ほむ……武力行使しようとした慣れの果て。自業自得」
「まぁ、その通りだよね」
「全くいい迷惑だよ。楽しみにしていたゲームはもう、絶対発売しないんだもん」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時三十九分。
放課後、簡易シェルター。
初口、水瀬穂奈美。
「もしボクが魔法少女に変身出来たら、ミサイルなんて全部撃ち落としたのに」
「やっぱり憧れるものなの?」
「憧れるよー。世界を救った魔法少女として、みんなからちやほやされるの……えへ、うぇへへへぇ~、ダメだよぉ、ボクは一人しかいないんだからぁ。みんなで取り合っちゃダメ」
「ほむ……なんて打算的な魔法少女なんだろう」
「そのままだと、その魔法少女一人の為にまた争いが起こりそうだね」
「あ、そう言う争いならいくらでもボクは受け付けるよっ!」
「これはもう魔法少女と言うよりも、魔女だね。でも、どうして、魔女って言うと悪者のイメージなんだろう? 悪い魔法少女っていないのかな?」
「ほむ……今正に悪い魔法少女が目の前に」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十一分。
放課後、簡易シェルター。
初口、如月華那。
「ほむ……ほなみん、変身アイテムはどうするの?」
「それは魔法少女らしく杖かなぁ。可愛いのでお願いっ!」
「穂奈美ちゃんは星マークの杖とか似合いそうだよね。ハートとか」
「ほむ……見た目は可愛らしくても、中身は変態だから」
「人間、みんな中身なんて変態なんだよっ!」
「根拠はどうあれ、名言が生まれたね。でも、王道過ぎると面白みに欠けるから、えっと、あっ! じゃあ、シュークリームを食べて変身する、とかはどうかな?」
「シュークリームは好きだけど、食べている間にやられちゃいそうっ!」
「ほむ……しかもジャンボサイズ」
「太っちゃうよっ!」
「話題性抜群だから、そのうち、魔法少女ほなみんのシュークリーム、が売り出されるかもね」
「ほむ……セ〇ンとか、ロー〇ンとか、ファミ〇とかで取り合い」
「凄い人気。穂奈美ちゃん、宣伝の為に、頑張ってシュークリーム食べまくらないと」
「戦う相手がシュークリームのような気がするよー」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十三分。
放課後、簡易シェルター。
初口、水瀬穂奈美。
「変身アイテム、食べ物から離れて欲しいなぁ」
「んー、そしたら、何かあるかなぁ」
「ほむ……一発ギャグが面白くないと変身出来ない」
「そんなの無理だよぉっ! だってみんなの期待を一身に受けてのギャグなんだよねっ?!」
「穂奈美ちゃん、渾身のギャグ、期待してるね」
「茜さんまで酷いよぉっ!」
「試してみたら案外受けちゃうかもよ?」
「ほむ……頑張れほなみん。負けるなほなみん」
「むむむむ……はっ! そうそう、ボクね、この前バナナの皮で滑ったんだよっ! そんなバナナッ!」
「…………」
「…………」
「ちょっと二人ともっ、その憐れむような眼、止めてくれるかなぁっ?!」
「まさかの一人ボケツッコミだとは思わなかったから、ごめんね」
「謝らないでよぉっ! 無言とか謝罪の方がキツイよーっ! せっかくの渾身のギャグだったのにっ!」
「ほむ……それこそ、そんなバナナだね」
「なんだろう……二番煎じの華那ちゃんの方が面白く感じちゃう……」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十五分。
放課後、簡易シェルター。
初口、水瀬穂奈美。
「魔法少女ってそんなに辛いものじゃないと思うんだけど……」
「救われない魔法少女も多かったと思うけどね。自分を犠牲にして他の魔法少女を救ったり、魔法少女同士でデスゲームが開始されたり、ね」
「ほむ……その分、日給がいいんだろうね」
「華那ちゃん……魔法少女は職業じゃないからね? 無償で戦っているんだよ?」
「ほむ……そんなバナナ」
「お願いだからそれ、忘れてくれるかなぁっ?!」
「穂奈美ちゃん、魔法少女の日給でその権利を買えばいいんじゃないかな」
「そ、そっかっ! 日雇いで貰ったこのお金で…………って、そんなバイト、ボクは一度もした事無いよっ!」
「と言いながらも、穂奈美ちゃんってノリはいいよね」
「ほむ……どうやら、魔法少女の素質よりも、コメディアンキャラの素質があったのかも」
「そ、そんなバ……はっ! あ、危なかった~。今、言っちゃうところだったっ!」
コチ、コチ、コチ、コチ……十六時四十八分。
放課後、簡易シェルター。
初口、六条茜。
「さすがに雨だからみんな家にいるのかな」
こうして窓の外を眺めていると、たまに感染していない人を見かける事がある。
わざわざ感染者がウロウロしている外に出る理由は、とても分かり易い。
食料、或いは水分が底をついてしまったから。
感染者のようにすでに死んでいるわけでは無い、非感染者は生きる為に、食料が必要になる。
ただ、崩壊してしまった世界では、食料が作られる事が無い。
まさか感染者を集めて、食料を量産する……なんて事は出来ないし、非感染者を集めて食料を作り出す事も不可能。
その原料となる物だって作り出さないといけなのだから。
「茜さんの乗って来た車の中、いろんな物が入っているんだね」
「目的の物もあったでしょ?」
「うん、助かったよ。無駄な物が無くて、ぎっしり詰まってるから探すの大変だったけど」
「あれは全部紬くんが集めてたんだ。少しでも生きる時間が長くなるように、ってね」
「へぇ~、大変だっただろうね」
「そう、だね。嫌な役回りもたくさん、私達の知らない所でする事になっていたと思うから」
「そっか。感染者の人達も怖いけど、普通に生きている人も、危険だもんね。むしろ、そっちの方が危険なのかも」
「知恵が働くだけあって、厄介だもんね」
紬くんは何も言わなかったけれど、たぶん、非感染者の人を相手にして、危ない目に遭った事もたくさんあったと思う。
大変……だったんだろうな。
車には保存食や薬、それから必要になりそうな物がたくさん積み込まれていた。
その車を使って動くと、その車だってうばわれ兼ねない。
だから、車を守りながら保存食だけじゃなくて、その日に食べる食料まで探して。
本当に大変だったと思う。
それなのに頑張った本人自身が、自分の為に使う事が出来ないだなんて、皮肉過ぎだ。
「ほむ……二人とも、ご飯の用意が出来た」
「ありがとう、華那ちゃん。穂奈美ちゃん、食べに行こうか」
「うん、そうだね」
そしてその場を立ち上がる私へ穂奈美ちゃんは、付け加える。
「ねぇ、茜さん。その……紬くん、無事だといいね」
「そうだね。本当、無事でいてくれると嬉しい、な」
次回予告 キズナ
「死に直面した時。あなたはキズナと自身の命、どちらを取りますか? 見えないキズナを選択する勇気がありますか? と言う話では無いけれど、未定」




